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デス子様に導かれて  作者: 秀弥
4章 主人公はもう兄さんでいいと思う
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147話 今晩はお楽しみですね

 




 数日を経て、アベルは悩んでいた。

 商会を襲っているのがジェイダス家なら、自分が止めたい。

 セージが父の事でなにか言われるようなら、守ってやりたい。

 だがアベルは蚊帳の外で、信頼するミルク代表は決してアベルに関わらせまいとしていた。

 大人の助けがなければ何もできない。それが今の自分だった。

 でもそんなことを気にしている場合ではないと、アベルは時間こそを惜しんだ。

 そして信頼できるもうひとりの女性のもとを訪れる。



 時刻は夜間。夕食もその後の片付けやお風呂も終えて、いつもなら寝るまでの時間を家族とリビングで過ごす。

 セルビアは宿題を終えてセージにくっついて、カインとマギーを相手にトランプをやっている。

 セージはもたれかかってくるセルビアを気にせず、一人で本を読んでいる。

 ジオはそんな子供たちの様子を何の気なしに眺めながら、ウイスキーをちびちびと舐めている。

 アベルもいつもならここで一緒にトランプに参加するか、あるいは資格の参考書を眺めるか、あるいは背伸びしてお酒の味を覚えようとする。

 いや、最近はシエスタのいる離れの方に行くことも多かったから、いつもというわけではない。

 ただシエスタが疲れているときや泊まりで仕事をしているときは、間違いなくそうして過ごしている。

 そして今日はシエスタが家に帰っていた。


「アベルまたシエスタのところに行くの?」

「……うん。ちょっとね」


 セルビアに聞かれて答えると、なぜかマギーが耳まで赤くしていた。


「どうかしたのか、マギー?」

「な、なんでもないよ。なんでも。あの、が、がんばってね」

「……? ああ、頑張ってくるよ」


 カインが訝しむと、マギーは慌てて首を横に振り、アベルにそう言った。アベルはよくわからないまま頷いた。

 そんな様子を見てセージがちらりと本棚――正確にはその中の性教育に関する本――に視線を向けたが、口にしては何も言わなかったし、誰もその行為を見とがめるものはいなかった。

 ただセージはそのすぐ後に、


「そうか。孫ができるのが楽しみだな」


 ど直球なジオの言葉に、反射的に持っていた本を投げた。そして、スコーンっ!! と、景気よく本の角がジオの額にぶち当たり、ジオは椅子ごと後ろに倒れた。


「アニキ急に動かないで。トランプバラバラになっちゃったじゃん!!」

「ああ、ゴメン、妹。でもちょっとびっくりして手が滑っちゃったんだ」

「そっか。それなら仕方ないね」


 笑って許したセルビアとセージが微笑み合うが、カインはヘタをしたら人が死ぬレベルの投本を見て、大きく口を開けていた。


「手が滑ったっていうか……。親父、大丈夫かよ」


 心配するカインをよそに、倒れたジオは口元をへの字に曲げて起き上がった。当然のことながら無傷である。


「……派手に転んだからといって、笑いが取れるというものでもないんだな」

「そんな理由で転んだのかよ!! っていうか、今孫って言ったよな」


 シスコンを発揮しているセージに代わってツッコミを果たしたカインが、余計な勘の良さを発揮する。

 問われたアベルは、ああ、マギーも父さんも、ついでにセージも知ってたんだなと、顔を赤くして事態を把握した。


「な、なんで……」

「だって、シーツ洗う回数が増えたし。シエスタの洗濯物の中に、その、アベルのが混じってることも多いし……」

「え、ちょ、え……」

「ああ。最近はシエスタさんの洗濯物って、うちでやってるんだよ。ほら、シエスタさん一日中仕事してて家事をする暇がないし、託児や道場でも洗い物ってたくさん出るから。今更一人分増えても問題ないってことで、デリケートじゃないものはね」

「いや、それは知ってたけど。デリケートなところでしょ、そこ」


 顔を赤くしたマギーと、対照的に冷静なセージに説明され、慌ててアベルが叫ぶ。ちなみにデリケートなものとは主にシエスタの下着類である。

 別にそれと一緒に洗うとは思っていなかったが、シエスタが洗っておくからと肌着などを受け取ったから、てっきりシエスタの方で洗ってくれていると思っていたのだ。


「勉強するって言ってたのに、お、大人だ……」

「勉強はしてるよ。

 ただ、その。

 別にいいだろ。ほっとけよ」

「んー、何の話?」

「それはセージに聞いて」

「あ、兄さんずるい」

「とにかく僕は行くから。変なことしに行くわけじゃないからね」


 そう叫んで、アベルはリビングから出て行った。残された家族はというと、


「なんでアベルは男のくせに恥ずかしがっているんだ」

「親父はもう少しデリカシーを覚えよう。いや、本当に。

 シエスタさんに同じこと言ったらセクハラだからね」


 むぅと、ジオは唸った。

 わざわざ明記するまでもない当然のことだが、ジオはセクハラという言葉の意味がわからなかった。



 ******



「まったくあいつらは……」


 赤くなった顔に、冷たい夜風が心地よく当たる。本宅から離れに向かう間、外の空気を感じながら先程のやり取りの、その中の一言を思い出す。


「孫、か」


 言われて、今更ながらにそういう行為をしたのだと改めて考えた。

 シエスタを押し倒したのはアベルだ。でも嫌がってはいなかったし、それを望んでいたようにも思う。

 そして肌を交わらせるようになって、その心地よさに安心した。単純に気持ちが良かったのもあるけれど、そうしている間はずっと付きまとっている不安を忘れることができた。

 もしかしたらその心地よさにのめり込んでいたから、大事なことを忘れていたのかもしれない。

 それに今の自分は、せいぜい自分の生活費を稼ぐのが精一杯の子供だ。そんな人間が、子供を作るようなことをしている。


 寒気がした。


 それだけじゃあない。アベルを産んだ実の両親は結婚してから長男のアベルを生んだ。

 そうでない家族もたくさんいるのは知っているし、尊敬している今の父にいたっては女性に子供を産ませておいて、十五年もほったらかしにしていた。


 それでも不義理という考えは少なからずアベルの中に有り、シエスタにそんなことをしていいのかと悩み、そうなると頭には結婚という単語が浮かんでくるが、監査室室長という立派な仕事についている大人のシエスタと今の自分が釣り合っているとはとても思えなかった。

 そしてその思考に答えがでないまま、離れに着いた。


 扉の前で、アベルは立ち尽くす。

 離れにも鍵は付いているが、ブレイドホーム家の敷地には簡易結界が張ってあり、正門以外からの侵入者を察知することができる。

 そんな家の敷地に建てられているのだから、シエスタは家にいるときは鍵をかけない。ちなみに日中は預かっている子供が勝手に入ってくることがあるので、鍵をかけている。

 ノックをして、扉を開ける。

 いつもしているその行為にはどうしても躊躇いが生まれていた。


 相談したいことがある。

 忙しいのにいいのか。

 負担になるんじゃないのか。

 そんなだからいつまでも子供のままなんじゃないか。

 それでも顔が見たい。

 触れ合いたい。

 安心が欲しい。

 それは逃げているんじゃないか。


 アベルはノックしようと上げた手を、ゆっくりと下ろした。

 そうして扉に背を向けようとして、


 ばちーんっ!!


 と、勢いよく開かれた扉に顔面を強打した。



 ******



 シエスタはアベルが好きだ。

 白状してしまえば、最初はちょっとした遊びのつもりだった。

 助けてもらって、興味を持った。大人びた落ち着きがあるけれど、からかうと可愛いところを見せてくれた。

 例えば朝のジョギングに付き合ってもらうようになった頃、傍からは付き合っているように見えるねといえば顔を赤くした。

 仕事帰りにバッタリ会って、荷物を持ってくれると言ったので渡したら手が触れ合って、顔を赤くしていた。

 勉強を教えるようになってからはお風呂上がりの姿を見て、顔を赤くしていた。

 年齢は一回り違うけれど、背伸びをして立派な兄でいようとする姿をみて格好良いと思った。

 その頃には、もうはっきりと好きになっていた気がする。


 自分の中にある好意を意識してからは順調で、外縁都市に接続した時なんかは休日に観光(デート)なんかもして、アベルが一応の成人をしてからは一緒に軽いお酒を飲むこともあった。


 そしてまあなんというか。

 押し倒されたというか、誘ったというか。

 同じ夜を過ごして、そういう関係になった。


 アベルは初めてだったけれどそこが可愛くて、心から求められているのがすごく嬉しくて、ついつい数をこなしてしまった。

 一応避妊薬は飲んでいるけれど、それでも絶対ではない。政庁都市や学園都市と違って守護都市の福祉制度は厳しく、出産や育児の休暇は取るのが難しいし、なによりアベルは大人になったといってもまだ十五歳だ。


 子供はもう少し先でいいだろう。

 まあ正直に言えば、子供が出来た時のアベルの反応が怖いというのもある。優しいからきっと喜んでくれるとは思う。でも最近はなにか思い悩んでいるようだし、セージから教えられたこともシエスタの心に引っかかっていた。

 アベルはきっと、その過去を隠していた。

 なら私が知ったことを、伝えるべきではないかと、そう思ったのだ。


 セージに相談されたことと合わせて、そんな事をつらつらと考えながら砂糖入りのホットミルクを飲んでいると、ふと足音が向かってくるのが聞こえた。

 こんな時間にやってくるのは一人しかいない。

 シエスタはその姿を窓から見つけて、すぐに部屋の中を片付ける。

 片付けると言っても、もともと散らかしているわけではないし、アベルが来るのも珍しいことではないので整理整頓は行き届いている。


 ただシャワーを浴びる前に使った腹筋ローラーとか、少女趣味な恋愛小説(表紙がキラキラしたローティーンの女の子)などを見つかりにくいところにしまっておく。

 そして洗面台に行き、おかしなところがないかチェックする。

 シャワーを浴びたあとなのですっぴんだが、もう何度も見せているのでこれは気にしないことにする。すっぴんにも地肌にも自信があるシエスタだった。

 でもやっぱりと、ごく薄くファウンデーションを塗った。ごくごく薄いので、すっぴんには変わりない。

 シエスタは何も間違ってないと、鏡の中の自分に自信をもって頷いた。


 特に時間をかけたわけでは無いが、それでも五分少々は使った。

 いつもならもうノックが響いて、玄関の扉が開かれている頃合だ。

 不審に思いながら、シエスタは玄関に向かう。

 玄関までの短い廊下、暗い道を歩いて、不安が鎌首をもたげる。

 シエスタがセージから隠していた秘密を勝手に聞いて、あるいはセージからシエスタが本気だと聞いて、急に気持ちが冷めたんじゃあないだろうか。


 マリッジブルーとは違うだろうけど、男の人は時に簡単に気持ちがひっくり返ると最近読んだ恋愛小説(ローティーン向け)に書いてあった。

 そういえばチラリと見えたアベルの顔は暗いものだったような気がする。

 玄関についたシエスタは、アベルが帰ってしまったんじゃないかと不安に突き動かされて、勢いよくドアを開けた。


 そして、ばちーんっ!! と、勢いよく開いた扉でアベルの顔面を強打した。


「うえっ!? ごめんアベル」


 うずくまって痛みに悶絶するアベルはかろうじて手を挙げて、シエスタに大丈夫だとアピールした。





シエスタ「恋愛小説は物語だからね。本気にしちゃダメよね。私ちゃんとわかってる」

相馬  「ギャルゲーの女の子は現実にはいないからな。俺ちゃんとわかってる」

悪霊  「娼婦の喘ぎ声なんて演技だからな。俺ちゃんとわかってるぜ」

アイン 「ブラホックを辻外しするのは犯罪だな。俺ちゃんとわかってる」

セージ 「揃って変なこと言わないでください。あと悪霊さんは自重をしてください」

作者  「相馬と悪霊、アインは別作品の主人公です。短い話なので、気が向いたら読んでね」

セージ 「宣伝も止めてっ!?」

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