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デス子様に導かれて  作者: 秀弥
幕間 家族の問題が片付いてきたら家族の問題に巻き込まれた
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136話 厄介事はもうお腹いっぱいです

 




「門の前で何してるんだ」


 あ、バカ親父。


「数日ぶりですね。ベルーガー卿」

「む。クララ、だったか」

「クラーラです」


 クラーラさんの額には青筋がたってないけど、たってもおかしくないほど内心がアレになっている。そして代表がそれを見てニヤニヤしている。

 擦れたところのある代表と、少しばかりお腹の中が黒いけど育ちの良いお嬢様なクラーラさんの相性が悪いのは仕方のない事かもしれないけど、ここまで代表が喧嘩腰になるとは意外だった。


 いやまあ会話の流れで想像はつくんだけどね。

 たぶん商会にとても悪い意味でちょっかいをかけたんだろう。買収とか、地上げとか、そんな感じで。まあ詳しいことは後で嫌でも聞くことになるだろう。


 代表がクラーラさんへ敵意を向ける合間に発してくる『お前も気をつけろ。こいつは敵だ。騙されるな。お前は俺の味方をするよな』みたいな感情が痛い。

 うん。味方ですよ。味方しますよ。名家の偉い人は怖いけど、代表も怖いし、これまで積み上げてきた信頼関係捨てる気はないし。

 でもだからといって、喧嘩上等ってわけじゃないですよ。私は平和主義者ですヨ?


「竜討伐の記念パレードと祝勝会がもうじきですので、着ていく服の方をお贈りさせて頂こうと思い参りました」

「いらん」


 即答しやがった親父の脛を蹴っ飛ばす。下心があるとはいえ、人の好意にそんな対応をするもんじゃありません。


「なんだセージ。食物(くいもの)ならともかく、そんなもんいらんだろう」

「……すいません。次からは、気をきかせますね」

「いえ、クラーラ様。親父の発言は無視してください。そんな気は遣わなくて大丈夫です。そして親父は何を言い出すんだ」


 私がそう言うと、親父は呆れたような声を上げる。


「いや、いらんだろう。あんな派手で面倒な服なんぞ。いつ着るんだ?」

「いや、式典でだよ。話を聞けよ」

「いやいや、なんであんな面倒なものに出るんだ?」


 ……は?


「――あの、ベルーガー卿?」

「ジオでいい。卿などと呼ぶな」

「あ、はい。ジオ様。……その、参加要請の依頼状も見られていないのでしょうか? 特に不参加の申し出は聞いていないのですが。

 ああ、いえ、ジオ様は主賓ですので、なんとしても出ていかなければいけません。何かご予定があるのでしたら、今からでも、その、最大限配慮させていただきますが」


 クラーラさんの顔がとても困惑した苦いものとなる。祝勝パーティーまでもうあと数日だ。

 配慮すると口にはしたものの、今更スケジュールを調整するなんて出来るはずもないのだろう。


「申し出もなにも、出るなんて一言も言ってないだろう」

「……流石だな。ジオレイン」

「いえ、代表。褒めるところじゃないです」


 親父を良い気にさせないでください。


「出るに決まってるでしょ。今更何を言ってるの。パレードの観覧席のチケット、もう手配しちゃってるよ。みんな見に来るんだよ」


 そう。家族の皆だけでなく、代表やアリスさんも見に来てくれるし、託児のお客さんであるお母さん方も無料の一般道からみると言ってくれた。

 さらにクライスさんとも手紙のやりとりが少し出来て、かつての仲間と晴れ舞台見に来てくれるって言ってくれた。

 というか、前に夕食の時に話ししたよね、これ。


「うん? 何を言ってるんだお前は。だから俺たちも観戦するんだろう? パレードに参加したらどうやって観戦するんだ。お前は馬鹿か」

「だから僕たちが出るパレードだからみんな見たいって言ってくれてるんだろ。なんでボイコットしたところ見せるんだ。馬鹿はお前だこの馬鹿親父」

「……さ、さすがジオ様。余人にはとても思いつかない発想でした」

「それは嫌味じゃないか、シャルマー卿」


 ツッコミを入れた代表を流し目で睨むクラーラさん。ゴホンと咳払いして、改めて言葉を発する。


「そういう訳ですから、是非とも見栄えの良い装いを贈らせて頂きたいと。マギー様もお父様とセイジェンド様の格好いい姿は見たいですよね」

「えっ? え? あ、は、はい。見たい、です」

「ちっ。娘をたぶらかすなよ。

 ……出てやってもいいがな。お前らに借りを作るのは気分が悪い。おい、ミルクだったな。服はお前のところで……いや、偉そうな服ならもう持っているだろう」


 あ、珍しく親父が名前を間違えなかった。間違えてたらしばかないといけないから良かったね。


「礼服ってことなら、親父のはあるけど。僕のはないよ。まあついでだから親父のも新調しとくけどね」

「無駄遣いじゃないか?」

「たまにはいいでしょ。っていうか、僕のだけ買いに行くとか恥ずかしいし」


 しかし、困った。

 この流れだと完全にクラーラさんの面目を潰している。

 騎士のお姉さんははっきり怒りの形相を浮かべているし、クラーラさんの方は困ったわ、ぐらいの表情だが、内心がどす黒くなっている。

 カナンさんは私たちの態度よりも、むしろクラーラさんのそんな内心に苦心しているようだった。


「それでは是非、私どもにその服を贈らせてください」

「随分とこだわるんだな、シャルマー卿。まあこの二人が買い揃えたブティックの売上は大きく伸びるだろうがな」

「そんな商人のようなさもしい考えではありませんよ。

 個人的な暴走とは言え派閥にいた者が迷惑をかけたのだから、しかるべき謝罪をしたいと、そう考えているだけです」


 ……ほんとに仲悪いな。あ、こっち見た。


「セイジェンド様。あなた方が出席するのは国難の危機を救ったパレードであり、国家運営に携わる重役が出席する祝勝会となります。

 なれば当然、それに見合ったドレスコードと言うものがございます。残念ながら懇意にされている商会の方には品位に劣る――失礼、庶民的な装いしか置かれていないかと。

 頭の良いセイジェンド様なら、時には情を捨て選ばなければならない時があると、お分かりいただけるかと」

「口車に乗るなよ、セージ。親父さんの勘は正しいぞ。

 なに、腕の良い仕立て屋はいるんだ。上物の生地と装飾品の伝手もある。せっかくだからブランド品第一号の広告塔になれよ」

「……えっと、ボク子供だからよくわかんないや。親父はどうしたらいいと思う?」


 そう言ってはぐらかそうとしたら、代表のアイアンクローに襲われた。


「いたっ、痛いっ!! 暴力反対!!」

「こんな時にふざけんなよ、セージ」

「ちょっと、やめなさい。こんな小さい子供に」

「うわーん。くらーらさん助けてください」


 私が泣きつくと流れを読んだようで、クラーラさんが両手を広げて私を迎えてくれた。


「ええ、こっちに来なさい。よしよし。怖いおばさんから守ってあげるからね」

「……おい、後で覚えてろよ」

「すいません、代表。冗談が過ぎました」

「あっ……」


 優しく包容してくれたクラーラさんから離れ、居住まいを正して謝罪する。適当に誤魔化そうとしたんだけど、代表は許してくれませんでした。

 仕方がないので真面目モードに入ります。


「しかし、困りましたね。こちらとしてもクラーラさんの面目は潰したくはありませんが、父と代表が頑なに反対している以上、そちらを選ばざるを得ません」

「なんだ。俺が悪いのか」

「この場面だけを切り取れば。まあ代表にも理由があるのだろうとは思っていますが」


 そう言って、改めてクラーラさんに向き直る。


「すいません、そういうことですので。マルク氏の行いについてはもう気にしないでください。こちらとしてもさんざん無礼を働いています。それで帳消しとしてもらい、互いに遺恨が残らないようしたいですね」

「…………、ええと。

 まあ、セイジェンド様がそういうのなら、その顔を立てておきましょう。

 ですが、これだけは言わせてください。あなたの周りにはロクでもない大人が多すぎます。私としてはシエスタ御姉様が大事になされている、守護都市に振りまかれる天使の慈愛が、今後陰っていくのではと危惧をしています」


 天使の慈愛ってなんだ。上流階級の人だからって、当たり前のように小洒落た恥ずかしい比喩を使わないで欲しい。

 シエスタさんの大事な物って言うと、適切な運動と食事(ダイエット)と、兄さんと、代表との関係のどれかかな。たぶん違うな。

 案外、シエスタさんの優しさかな。シエスタさんは良識人だし、天使って言葉に見劣りしない美人だし。それにクラーラさんはシエスタさんが大好きだし。


「ああ、それは大丈夫ですよ。僕はシエスタさんの味方です」


 ええ。あんな良識ある貴重な大人を、親父のような非常識人よりにさせてたまるか。


「それを聞いて安心しました」


 そう言って、クラーラさんはカナンさんたちを引き連れて帰っていった。お茶の一つも出さず、それどころか家に上げることもせずに追い返した形になったけど、本当に良かったんだろうか。

 どう考えても良くないよな。



 ******



「早い話が、勢力争いだな」


 夕飯とお風呂を終えて、代表、シエスタさん、兄さん、私、あといなくても良いんだけど親父の五人がリビングで話し合う。

 アリスさんもやっぱり泊まっていく流れになって家にいるけど、今は妹の宿題を見つつ、姉さんや次兄さんの遊び相手をしてくれている。


「都市接続の際の仕入れ時に乗り降りの税金が水増しされることは昔からあったんだが、最近は露骨に狙い撃ちされているな」

「えっ、そんなことがあるんですか?」

「ああ。実際には割引の適用がなされなかったって形だがな。荷物の種類や量によってかけられる税金の額がまちまちでな、さらに同じ荷物でも降ろすときと乗せる時で違うからな。仕入れの担当にも勉強させてるんだが、抜けも多くてな。税関の口車に騙されて一度払っちまった税金は、後で間違いを指摘しても返ってこない。納得して払ったんでしょってな」


 シエスタさんが眉をひそめる。


「正直、知りませんでしたね。税金関係は洗ってましたけど、金額は概ね適正値でしたから」

「そりゃそうだ。納められているのは適正額で、差額はどこかの官吏の財布に入っているからな。

 こっちとしてもむしろ多めに払って、ちと面白いものの仕入れをさせてもらうんだが、ここ最近は監視の目がきつくてな」

「……違法品の仕入れ、ということなら私は監査官としての仕事をさせてもらいますけど」

「そう怖い顔をするな、シエスタ。別にまずい品じゃない。

 主には薬の類だ。手続きが煩雑でな、まっとうにやっていると接続期間中に終わらんのが常でな。必要な薬が必要な時に足りない。あるいは手が届かないほど高くなるなんて事態になるのさ」


 薬か。

 それは確かに大事なものだし、シエスタさんも納得してるけど、代表は絶対にそれ以外のやばいものの仕入れもしてるよね。

 いや、あくまで個人的な想像だけど。


「まあとにかく、役人との持ちつ持たれつって関係が崩れてるな。

 合わせて傘下の店のいくつかが引き抜かれたな。ウチの商会は小さな店の集まりだからな。一つ二つ抜けていくのはそうおかしな話じゃないんだが、抜けていったのが全部シャルマー家系列の店の下につきやがった。

 それだけでも業腹だが、最近は俺の店にゴロツキがやってきて暴れることも多くなってな。まあ、警邏騎士(マージネル家)が出張ってきてそう被害も出なかったんだがな」


 おお。不良騎士ばかりかと思ってたけど、ちゃんと仕事してくれる人もいるのか。

 いやまあ、公僕が仕事しなきゃ都市が立ち行かないし、そもそも仕事なんだから働いて当然なんだけど。

 でも話を聞いて軽くびっくりするぐらいには私の騎士のイメージは地の底にあった。

 そんなことを思ってたら、代表がこっちを見る。


「エースも動いているようだがな。どうも警邏騎士の、特に現場に出張っている若い連中は、お前の影響を受けたようだな」

「……何かしましたっけ、僕?」

「ふん。わかっているくせに。狙ってやったわけじゃあないんだろうがな。

 とにかくそんなお前を手元に置きたい、あるいはお前のそばから俺のような名家に反抗的なのを遠ざけたいってことだろうな」

「あー……。それは迷惑ですね。でも、ちょっと変ですね」

「……変?」


 聞き返したのは兄さんだ。私はひとつ頷いて理由を話す。


「クラーラさんの性格はよく知らないですけど、それでも印象としては強硬な態度を取るより、懐柔や合法的な搦手(からめて)などの手段を好みそうな感じでした。

 代表を懐柔しようとしないのには理由があるのかもしれませんし、税関の職員の行動の変化はギルドの件を受けて事前に綱紀粛正って考えればおかしくもないのですが、露骨に敵対的な引き抜きや、乱暴者での地上げは印象から少し離れすぎています」

「だがそれは実際に起きている……。もしかして、お前はシャルマー家以外の関与を疑っているのか?」

「はい。まあ勘ですけどね」


 クラーラさんの代表への反発はやや感情的で、敵対する明確な覚悟が薄かったように感じた。敵対行動を仕掛けているのなら、それは矛盾だろう。


「……そうなると、疑わしいのはスナイク家ですか?」

「いや、違うんじゃないですかね」

「違うだろうな」


 シエスタさんがそう言って、私と代表が否定する。


「スノウさんは直接的な手を厭わないでしょうけど、やるならもっと悪辣で容赦がないと思います」

「だな。というか、あの家はむしろウチの商会に好意的だな。ラウドあたりがたまに定食屋を使って、いい客引きになってくれている」


 代表の商会って一応グレードの高めなレストランもあるけど、今、代表は定食屋って言ったよね。ラウドさん、意外と庶民派なのか。


「だとすると軍関係ですか?」

「まあ可能性はあるが、わからんな。いや、もしかすると……」

「代表?」


 兄さんが訝しんで問いかける。


「――ああ、いや。

 嫌がらせがシャルマー家だと思い込んでいたからな。嫌がらせを受ける理由がセージ(こいつ)とは関係無いのかもと、そう考えてみたら、一つ心当たりがあった」


 代表は目を細め、嫌な思い出を振り返るような表情で、ポツリと口にする。


「ジェイダス家だよ」


 その言葉に兄さんと、それまで置物になっていた親父が小さく反応した。





 作中補足~~商会への嫌がらせ~~


 税関の行いはセージや商会というよりは、シエスタの仕事が順調なため、色々とやり辛くなった職員たちの勝手な嫌がらせです。

 あんたんとこのお嬢さんをもう少し大人しくさせてよ。そんなんじゃ便宜なんて図らせられないよ。税金もしっかり取るよ、という感じです。

 ちなみに税金を多めに取って懐に入れていますが、ずっと長いことやってるので本人たちにそれが悪いことという意識はないです。コンプライアンス教育なにそれおいしいの? ってお国です。


 商会の引き抜きはセージは疑っていましたが、クラーラの指示によるものです。

 敵対行為というよりは、交渉事を優位に進めるためのちょっとした示威行為のつもり(引き抜いたのはごくごく小さいお店で、ミルクとの関係も浅い)でしたが、他の件と絡めて明確な敵対行為と取られてクラーラは実は困っていたりします。


 最後に暴力行為は完全にクラーラとは別件であり、セージと絡んでくる問題ですが、これは四章以降のお話になります。



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