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デス子様に導かれて  作者: 秀弥
3章 お金お金と言うのはもう止めにしたい
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103話 マルクとシエスタ

 




 マルク・べルールという男がいた。

 マルクは学園都市の名門大学在学中に難関とされる国家公務員資格試験に合格し、卒業後はそのまま学園都市の国家公務員として十年間の実績を積んだ。

 マルクが取得した国家公務員の資格は特殊な魔法技能を必要とする特別なものであり、国家公務員の中でもエリートに分類された。


 そのマルクは三年前に守護都市へと異動となった。

 表向きは人手不足に悩む守護都市への派遣だったが、実情は権力争いに負けた上での左遷だった。それも魔法技師としての実力ではなく、人脈の差でライバルに蹴落とされた。

 マルクはその屈辱をバネに守護都市では最大派閥の片割れであるシャルマー家に取り入り、異例の早さで出世を果たした。

 そうして情報管制室室長という栄誉と責任ある役職に出世した。


 彼は学園都市での失敗を生かし、コネクション作りに尽力した。

 部下たちをよく飲みに連れていき、別部門の室長たちや業務上深い関わりを持つギルドのスタッフたちともよくコミニケーションを計り、時には小遣いを渡したり無理なお願い(・・・・・・)なんかも聞いてきた。

 そんな彼が初めてセージのことを知ったのは一年前、政庁都市に接続したときのことだ。

 政庁都市との接続に合わせて、守護都市には定期監査が入る。その際に書類のとある不備事項が発覚した。


 セイジェンド・ブレイドホームの生年月日の欄が十年ほど訂正されていたのだが、ギルドメンバーの個人情報を訂正する場合は情報管制室の職員のサインだけでなく担当のギルドスタッフの確認サインが必要であり、それが抜けていたのだ。

 訂正がなければそのセイジェンド・ブレイドホームは登録時に五歳ということになるので、マルクもその不備事項を指摘した監査官も訂正内容を疑いはしなかった。

 守護都市のギルドスタッフは質が悪く、この手のミスが多いのもその判断の下地にあった。


 だが間違いがないとしても不備事項は不備事項だ。

 監査で指摘が上がったのはこれだけではないが、指摘事項が多ければ多いほど情報管制室の評価は下がり、与えられる予算が削られ、マルクの評価も下がって給与査定にも影響が出る。


 ただでさえ物価も地価も高い守護都市で、低学歴なギルドメンバーたちよりも低いランクの暮らしを強いられているマルクとしては昇給が見送られるような事態は避けたいし、さらには色々と公にはできない必要経費のため管制室の経理には問題が出始めていた。

 そのため予算が下げられることも避けなければならなかった。


 そんな訳で一つでも指摘事項を減らすため、監査官に公にはできない必要経費を握らせてマルクはその足でギルドに向かった。

 セイジェンドの件だけだったのならば部下にやらせるような雑事なのだが、監査に指摘された事項はセージに関するものだけではなく、他にもなるべく人に見せないよう気を付けなければならないものもあったので、自らの足で赴いた。

 そこで間違っていたのはギルドスタッフではなく、勝手に年齢を訂正した管制室の方だと知った。


 六歳の子供がギルドで仕事ができるのかとマルクは驚いたが、セイジェンドがかのジオレインの養子であると聞いて納得した。

 公には仕事を受けられなくなったジオレインがセイジェンドに形だけの資格を取らせて、実際の狩りはその手で行って報酬を受け取っているのだろうと。


 事実は違ったし、その推論は名家の思惑やギルドの監査能力などを付け加えれば簡単に穴が空くようなものだったが、マルクは自らの名推理に満足し、それ以上の疑問を覚えなかった。

 そしてこんな姑息な真似をしてまで金を稼ぐなんて、英雄と呼ばれていても守護都市のギルドメンバーはやはり最低なゲスどもだと不快に思った。



 それからしばらくして、マルクは再びセイジェンドの名を耳にするようになった。


 それは部下たちの雑談だった。食堂で休憩をとる部下たちの何気ない会話に、その名前がよく上がるようになっていた。今日はいるとか、いないとか。

 何度も耳にするうちに気になったマルクが尋ねると、セイジェンドが狩りに出ているかどうかという内容だった。

 セイジェンドは救援要請をほぼ断らず、断るのは要請をした側が経験不足などから現状を悲観してはっきりと救援が不必要だった時の二回だけだった。さらには救援の手際もよく、死者が出ることは一度もなかった。


 管制がギルドメンバーに行う各種の要請は、管制官の査定項目だ。特に救援要請など人命が関わる重要な要請は査定の中でも比重が大きい。

 だが想定外の戦闘は忌避されがちで、快く受けてくれるパーティーは少ない。

 そんなわけで管制官はどうやって救援要請をギルドメンバーに受けさせるかでいつも苦心していた。


 そして政庁都市との接続を終えたことで守護都市には多くの新人ギルドメンバーが溢れており、救援も頻繁に求められるようになっていた。

 セイジェンドは救援要請を断らず、またその仕事ぶりも正確で管制室の中でちょっとした便利屋(ヒーロー)として重宝されていた。


 それを聞いたマルクは気分が悪かった。

 書類の不備を訂正しただけで内容の周知はしなかったし、担当の管制官にギルドメンバーの書類は渡されるが、個人情報の確認は最初の管制の時だけで、その後は滅多なことでは目を通すことはないのでセイジェンドが七歳だと気づいているものは少なかった。

 七歳の子供がそんな手際のいいことができるわけがない。そもそも魔物と戦えるはずもない。

 息子のふりをして金を稼ぐ落ちぶれた英雄が部下たちに良く言われているのが、ただただ不快だった。


 だがしかしそれはマルクにとって好都合でもあった。

 多くの必要経費をかけたことで、マルクの人脈はそれなりに潤ってきた。

 そしてかの落ちぶれた英雄は金勘定に疎いという有名な話も知っていた。

 通常の狩りだけでなく、救援要請を受けるなどの現場で追加の仕事を引き受けたギルドメンバーの給与計算は複雑なものとなる。

 マルクの持つギルドスタッフとの人脈はその複雑な給与の支払いをより複雑にし、その一部を飲み食いで浪費するだけのギルドメンバーとは違って有意義に扱えるマルクの懐に還元する事ができた。

 もちろん手間をかけさせたそのギルドスタッフにも還元した中から一部を必要経費を手渡してある。


 そうしてマルクは高学歴でエリートな自分にふさわしいギルドメンバーと同等以上の充実した生活を送り、さらには守護都市で働く頭の悪い部下や別部門の同僚たちにもそのおこぼれを与えて、マルクは順調にその人脈を育てていた。

 そう、思い込んでいた。



 実際にはマルクは周囲から汚職官僚の一人としか見られておらず、煽てれば金を出してくれる容易い財布という扱いだった。



 マルクの自称順調な守護都市生活は、とある事件を機に坂から転がり始める。

 ジオレインの放つ魔力を竜のものと誤認し、情報管制室の儀式魔法陣が破損した。

 修理には高額の費用が必要だったが、情報管制室ではこの手の有事に備えて特別予算が与えられている。

 通常予算とは別でこういった事態以外では使われずに保管されておくべき予算だったが、それにマルクは手をつけていた。

 特別予算は九年前に竜が現れて以降使われることがなかった。だからこの守護都市に赴任したばかりの時、毎日のように娼婦たちを侍らせ酒を浴びて宴会をするギルドメンバーたちを見ていた時期に手をつけた。

 さらにはマルクが人脈を作るための必要経費としても浪費されていった。

 この一年で要領を覚えて手をつけることはなくなっていたが、いつでも返せるのだからとマルクは半減した特別予算を補填するのを先送りにしていた。

 それがこの一件で明るみに出るはず、だった。


 明るみにならなかったのはジオレイン名義で送られた義援金のおかげだった。マルクはそれを懐に入れて修理を行う技師たちを買収した。

 残っていた特別予算でおおよその修理はできるから、あとはだましだまし運用しつつ時間をかけて完全な修復に持っていけばいいと、予算の着服がバレないようにごまかすことを優先させた。それは泥沼に自らはまっていくような判断だったが、マルクはそれが最善だと信じた。あるいは信じ込もうとした。


 マルクは不安と、そして騒動の元凶とも言えるジオレインからの義援金に助けられている屈辱を紛らわせるために、毎夜毎晩飲み歩き、娼婦を抱いて憂さを晴らした。

 それが周囲からどう見えるか考えもせずに、そうした。



 そして決定的な出来事が起きた。

 本来なら何も問題が起きずに終わるはずの騎士養成校の課外授業でそれは起きた。

 この時には管制室の機能は七割以上が回復していたが、そのリソースは全て情報連結をロストした上級のギルドメンバーを探すことに当てられていた。

 上級のギルドパーティーは高いサバイバル能力を持っており、荒野の奥から独力で結界外縁の精霊都市まで帰ってくることも可能だとされている。

 しかしそれはあくまで可能というだけで、絶対に被害が出ないという訳ではない。

 そして上級の戦士は守護都市でも貴重なこの国の精鋭だ。簡単に失って良い人材ではない。


 ギルド側からは管制機能が完全に回復しているのならもう連絡が取れていてもおかしくないのではないかと照会がかけられ、また疑惑の目も向けられていたため、その問題に早めに対処する必要があった。


 結界外縁から荒野の奥を探査するには、もともと大きなリソースを必要とする。

 騎士養成校の、それも初等科の課外授業にあたっては周辺の魔物を丹念に狩り尽くす。そうそう問題が起きるはずはないし、実際マルクがこれまで担当した課外授業の支援で管制が必要な事態は起きたことがなかった。

 だからマルクはどうせ何も起きないだろうとタカをくくって周辺の探査をすべて失くし、管制室の七割の力全てでロストした上級ギルドパーティーとの情報連結を試みた。


 マルクは部下に問い合わせがあれば何も異常はないと返信しろと厳命した。

 もしかしたら哨戒に出ている中級以下のギルドパーティーに損害が出るかもしれないが、上級のギルドパーティーの安全を確保するためなら安い損害だと割り切った。


 だがマルクの予想を裏切って、大きな問題が起きた。

 その問い合わせが哨戒に出ているギルドパーティーからのものならどうとでも出来ただろう。連絡はなかったと言い張ることもできたし、あるいはそう証言するパーティーがハイオークに殺されてしまえば証人はいなくなる。

 発見や連絡が遅れるのは大きな過失だが、ハイオークの進軍速度が速かったといえばある程度は情状酌量が認められる。


 だがそれに気づいたのはあの(・・)英雄ジオレインで、その場には有力者である養成校の教頭もいた。

 自分がその報告を受けていたのならまだ言い様があったが、対応した管制官は馬鹿で機転がきかず、マルクが言ったとおりに何も起きていないと返した。

 そこには常日頃からマルクが部下に対して大声で威圧的に叱責し、命令通りのことをしなければいけないという強迫観念が働いていた。

 だがマルクはそんなことは知らなかったし、部下が馬鹿だから悪いんだとしか思わなかった。


 事態をマルクが正確に把握した時にはもうどうしようもないところまで進んでいた。

 もうどうにでもなれと精霊に祈りながら、マルクは何もしなかった。

 そして事件は片付き、その日の内にマルクを初めとする管制官たちは監査官たちから調書を取られた。マルクは一貫して部下の暴走だといったが、部下たちが調書にどう答えたのかはわからなかった。

 部下たちは問い詰めても当たり障りのない答えではぐらかすばかりで、監査官たちはマルクが差し出す物を受け取らず何も教えてくれなかったし、部下たちの調書の改竄というマルクの建設的な提案も無視をして、さらにはその提案をしたことまで調書に書き残すなどという慣習を無視した蛮行に及んだ。


 マルクは下っ端では話にならないと、監査室の室長であるシエスタ・トートのもとを訪れた。

 トート室長の経歴はマルクに似たところがある。

 きっとマルクと同じように守護都市の官僚のレベルの低さや住みづらさに辟易しているだろうから、力になってくるとそう思った。

 だがマルクはトート室長と会うこともできなかった。

 その事にマルクはとても腹を立てた。


 マルクは過去にトート室長を食事に誘ったことがあった。守護都市の監査室はその性質上閑職だが、やはり同じような境遇であったこと、またトート室長が美人であったことから誘ってやったのに、断られた。

 そのことも思い出して腹を立てた。


 マルクは次にシャルマー家に泣きついた。

 マルクはシャルマー家の派閥に入っているし、少なくない額の上納金を収めてきた。そこには弱みを握られているという理由もあったが、しかしそれ以上にこういった時に保護してもらうためである。


 クラーラ・シャルマーと面会が許されたマルクは、そこで信じられない言葉を耳にした。

 証言台にて全ての罪を正直に話せば、減刑に協力してもいいと。

 マルクが職を失うことも刑罰に課せられることも前提にして、シャルマー家の当主はそう言った。

 マルクのこれまでの多大な貢献も無視して、マルクのような守護都市では貴重な――と本人は信じて疑わない――人材を失って良いと、シャルマー家の若すぎる女当主はそう言ったのだ。

 マルクはその場では頷いて答え、家に帰って寝た。

 いや、眠ろうとして眠れなかった。避けられない破滅が恐ろしくて、ベッドの中で震えていた。


 どうにかしないといけない。そればかりが頭に浮かんだ。

 そしてお金があればどうにかできると、そう思った。

 そんな考えぐらいしか浮かばなかった。


 そしてふと、明け方近くにクラーラ・シャルマーとの会話で思い出すことがあった。

 この件を解決するにあたって、セイジェンド・ブレイドホームが多大な貢献をしたと。そして都市防衛をなした彼には多額の特別報酬が与えられると。

 それはクラーラ・シャルマーが本題に入る前に口にした枕詞であったし、セイジェンドをただの子供だと思い込んでいるマルクを嘲笑う意味もあったし、それ以上の意味も含めて教えられた話だった。

 それをマルクは思い出した。

 そして自らを救うと信じて疑わないプランを思いついた。


 今回の都市防衛において実際に活躍したのは三名。

 ロード種を狩ったラウド・スナイクと、ハイオークを発見しその多くを狩ったジオレイン・ベルーガー、そして管制が機能しないで適切な指示を出して損害をゼロにし、また少なくない数のハイオークを狩ったセイジェンド・ブレイドホーム。

 都市防衛戦の特別報酬は参加した人数に貢献度合いを加味して割り当てられる。

 通常なら騎士やギルドメンバー数百人で分けるものを、たった三人で分けるのだ。その金額はマルクの年収を軽く超えるだろう。

 それを手に入れることができれば再起を図ることもできると、マルクはそう藁にもすがる思いで信じ込んだ。


 マルクは朝早くにマージネル家に赴いた。そしてそこでセイジェンドが共生派のテロリストだと教えた。

 共生派のテロリストと偽証することは死罪に相当する大きな犯罪だったが、どのみちもうマルクは引き返せないところまで来ている。

 公金横領に管制室の業務放棄を合わせれば、私財すべての没収も無期懲役も十分にありえる未来だ。


 セイジェンドに与えられる特別報酬をいつものやり方で掠め取ったら、どこかの都市に高飛びするつもりだった。

 そのために金はあるだけあればいい。

 大金があればどこかしらで新しい戸籍を買ってやり直せると、そう思ってセイジェンドには犠牲になってもらうことにした。


 そしていつもと違って多くの金をかすめ取るには、特別報酬だけでなくセイジェンドのギルドカードに入る全てのお金を手にするには、セイジェンドには死んでもらうか、少なくとも共生派のテロリスト被疑者として拘束され、ギルドカードの一時凍結処理がなされている方が都合が良い。



 以上が、マルクの企てた今回の犯罪の全容だった。

 マルクとしてはセージが生きていようが死のうがどうでもよかった。

 逮捕の瞬間に怯える犯罪者として逆恨みの感情を抱いてはいたので死んでしまえと思ってはいたが、率先して殺そうという計画性と意識はなかった。


 もしもセージが死んでいればマルクは疑惑に過ぎないのに行き過ぎた対応をしたマージネル家が悪いと非難し、その首をジオによって切り落とされていただろう。

 だがマルクの思惑に反してセージは死ぬこともギルドカードが凍結されることもなく、さらにはいつものギルドスタッフに会ってもそんな不正行為に手は貸せないと突っぱねられた。


 そのギルドスタッフにとってマルクは良い小遣い稼ぎをさせてくれて、さらには有事の際には生贄にもできる便利な相手だった。

 だがそれ以上ではなく、こうして有事が起きてしまった以上は切り捨てて付き合いをなかったことにする方が得策な相手だった。



 そうして絶望に追い込まれたマルクに、ようやくシエスタの手が伸びた。

 マルクの犯罪は簡単にその証拠を掴むことができていた。だがマルクを捕まえれば自然とマージネル家との全面対決に突入する。

 マルクが逃げ出すチャンスはシエスタやスノウがその準備を整える数日間しかなかったわけだが、マルクは酒に溺れてその数日間を無駄にした。

 もっとも逃げようとしたところで、陰ながらの監視が付いていたので上手くいかなかっただろう。


 シエスタ・トートは監査室の室長である。

 武力が重視される守護都市ではその監査室の権威はとても低いので、この一年間シエスタは人脈を構築することに勤めていた。

 そのため食事会などはよく参加していたが、マルクの誘いに関しては汚職官僚であることが簡単に見抜けたので断った。

 シエスタがそんなマルクをこれまで野放しにしていたのは彼が情報管制室という重要役職に就いており、その立場を悪用した横領のおこぼれに預かっているものたちを警戒して慎重になっていたからだ。

 そしてそれはシエスタにとって強い我慢を強いられるものだった。


 全ての証拠を揃えて、令状をとってマルクの家宅捜索が行われる。

 これを執行するのは警邏騎士たちであるが、シエスタは丁寧に人選を行ってマージネル家と関わりの薄いものたちが選ばれるよう手配をした。

 マルクとマージネル家の縁は薄いものだと理解はしていたが、口封じなどのリスクも考え、念には念を入れた形であった。

 だが家宅捜索でマルクを捕獲することはできなかった。


 直前で逮捕の手が迫っていると教えられたマルクは、持てるだけの財産を手にして逃げ出していた。

 シエスタはそれを追った。

 監査官であるシエスタ自身に逮捕権はなく、さらに戦闘能力もないただの彼女がマルクを見つけても大したことはできない。騎士に任せるのが正しい選択だ。

 だがこんな奴を野放しにしていたから、期待はずれな無能な自分だったからと、シエスタは病床に臥すセージの姿を思い出してマルクを追った。

 そしてシエスタは、あっけなくマルクを見つけた。

 場所は産業都市の、薄暗い路地裏だった。


「観念してもらいましょうか、マルク・べルール情報管制室()室長」

「な、なんだ。私は悪くないぞ。お前たち、金は払ったんだ。早くあいつを追い払え」


 マルクのそばには体格のいい男が二人いた。金で雇われたのだろうその男たちは無言で剣を抜いて、シエスタに向けた。


「その彼は重大な犯罪者ですよ。捕まえて差し出せば報奨金もお支払いします。わざわざ暴行犯になってまで庇う必要はないでしょう」

「――ひっ!!」


 シエスタの冷静な言葉に悲鳴を上げるマルクだったが、男たちは眉ひとつ動かさずシエスタに歩み寄ってくる。

 その手には抜き放たれた鈍い光を放つ剣が握られており、周囲に人影はいない。

 シエスタは軽く後ずさった。暴力にものを言わせられたらシエスタは弱い。ここに来てアベルの同行を拒んだことを後悔した。


 ここにきてシエスタは、目の前の男たちがどうやらただ金で雇われただけのゴロツキではないと見抜いた。

 よくよく見れば男たちの服装は意図的に汚されたかのような違和感があったし、立ち振る舞いは騎士のように背筋が伸びて美しい。


 これはこの数日間、激情に任せて向こう見ずに突っ走ったツケでもあった。

 ここ数日でシエスタはさんざん無茶をしたし、その甲斐あってセージを嵌めるために産業都市で行われた犯罪の証拠も掴んだ。

 今はもっと身辺の警護に気を使わなければならなかったと、この致命的な事態に陥ってようやくそんな反省をした。


 男たちは冷たい視線でシエスタを捉え、近づく。

 その動作に迷いはなく、放たれる明確な殺意はシエスタの体を否応なく萎縮させた。

 マルクはそんなシエスタの姿を見て下卑た笑いを浮かべる。

 男たちがその間合いにシエスタを捉えたところで――


「そこまでですよ」


 ――冷たく鋭く、割って入る声があった。





性犯罪者マルク~~需要のなさそうな番外IF~~


 マルクは多額の横領に手を染め、さらに実務及び管理能力の低さからギルド・メンバーの損害率は高くなり、笑顔でキレたスノウにBANされる。

 窓際の閑職に回されたマルクはその後、それまでの献金額を理由にクラーラの世話になり、同じく左遷されて守護都市に配属されたシエスタに何度となくセクハラ(お尻などを触る、デートの強要、拒否られたことを逆恨みしビッチと悪評をばらまくなど)をした。

 シエスタは主人であるクラーラに迷惑をかけないよう黙って耐えていたが、クラーラがそれに気づき、プッツンする。

 そしてクラーラからやっちゃっていいよとGOサインをもらったシエスタの手によって、マルクは完璧にBANされた。具体的に言うと、女性の権利に理解がある学園都市接続の際に、セクハラで訴えられた。

 そしてシエスタ以外にも被害に遭っていた女性は多く、シエスタに便乗する形で多額の慰謝料請求訴訟が行われ、マルクは社会的にも経済的にも完全に死亡した。

 そしてその後、表舞台に出ることは二度となく、ホームレスとして人生を閉じた。

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