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デス子様に導かれて  作者: 秀弥
3章 お金お金と言うのはもう止めにしたい
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98話 幻の天才ケイ~~IF~~

 




 赤い髪と瞳をもってケイは生まれ落ちた。

 守護都市では髪や目の色を薬や魔法で変えるのは珍しくない。芸術都市でも同様で、この二つの都市には変わりものが多いとよく言われている。

 だが生まれながらに真紅の瞳と髪を持つのはとても珍しかった。

 それが理由でよく同い年の子供たちから、まるで化け物のようだと罵られた。


 ケイはそれでいいと思っていた。

 自分が周りと違うことには早くから気づいていた。ケイは物心つく前から身体活性を覚えており、持って生まれた魔力量の違いはそのまま身体能力の違いに結びついていた。

 幸か不幸か、マージネル家は子供同士の喧嘩に寛容な家だった。

 ケイが悪態をつく子供たちを殴り飛ばしても、そう大きく咎められることはなかった。そこにはケイが当主の孫娘であることも関係していたし、その出生にまつわる噂から同情と嫌悪をされていたという事も関係していた。

 ケイは幼少期を、腫れ物のように扱われて過ごした。


 暴れん坊少女としてマージネル家で育つケイに最初の転機が訪れたのは五歳の時だった。

 いつも突っかかってくる子供に煽られて、ギルドの仕事ぐらいもうできると飛び出した先で、当時竜と並び立つ災厄と恐れられていた魔人に出くわした。

 その時ケイはそれが魔人だとは知らなかったので、別に向こう見ずな根性を発揮したのではなく、格好いい金髪の男の人に声をかけただけだった。


 魔人(ジオ)はケイにオレは強いんだ。戦えるんだと絡まれて、面倒くさいとは思いつつも師であるアシュレイの女子供には優しくしろ、特に女には恥をかかせるなという言葉に従って、その子供を荒野に連れ出した。

 特に配慮もなく上級上位のジオが普段やる仕事に連れ出されたケイは、泣いても叫んでも帰れないところで十日間を過ごした。


 それは良い思い出ではなかったが、腫れもの扱いもされないというのはケイにとっては初めてのことだった。

 あるいはケイの中に芽生えた感情は誘拐や監禁をした犯罪者に被害者が気持ちを許してしまう類の病気かもしれないが、その十日間の体験はケイに大きな刺激となった。

 そしてこの時からケイの中に強くなりたいという明確な目的が生まれた。

 そして手始めに自分の髪を金髪に染めた。


 二つ目の転機は七歳の時だ。

 ケイは自家の道場だけでなく、騎士養成校にも通うようになった。

 ただケイは強くなることにばかり目が行き、手加減というものを学ばなかった。

 模擬戦では常に全力を出し、自分が強くなることだけを考えて地力で劣るクラスメイトたちを無理やり訓練に付き合せ、結果として家の中だけではなく養成校でも孤立することに繋がった。

 ケイはその頃から才能を開花させ始めており、既にマージネル家の中ではジオの後継と見なされ始めていた。多少の才能がある程度の子供ではケイに付き合うことは不可能だったのだ。


 マージネル家は武家であるため、少しぐらいやんちゃなところがあるのは構わない。しかし同時に名家でありケイはその直系の令嬢である。

 基本的な社交性を持たず、簡単な礼儀もわきまえない某魔人のような野蛮人になってもらっては困る。


 養父アールとマージネル家当主であるケイの祖父エースはその問題に頭を悩ませ、専属の教育係を雇うことにした。それがマリア・オペレアだった。

 マリアは当時ジオに次ぐ最年少で上級入りを果たした天才少女で、将来は皇剣の座を確実視されていた人物だった。

 だがジオの引退を機にギルドの仕事を受ける頻度が減り、最近では所属している道場で訓練をする事もなく、街中で酔っ払っている姿ばかりが見かけられた。


 そんな人間をスカウトし、ケイの教育係にしたのにはもちろん理由がある。

 ぶっちゃけて言えばケイに匹敵するであろう才能を持ち、ジオへ隔意を持つマリアには、ケイのガス抜きの役割を期待されており、教育者としての役割は副次的なものだった。

 もっとも実際には、その後のケイの人格形成にはマリアの教育が大きく関わってくるのだから皮肉な話である。


 三つ目の転機は十四歳の時。皇剣武闘祭に参加した年だ。

 皇剣武闘祭の本戦にエントリーし、マージネル家とスナイク家の陰ながらの支援があったとは言え、決勝まで進みそこで僅差で敗れた。

 奇しくも憧れの人物と同じ初出場での準優勝という結果に満足をしたケイだったが、転機の内容はそれではない。


 皇剣武闘祭の合間の息抜きで受けた仕事で、ケイは初めて人を殺した。

 その事に後悔はない。

 殺したのは一人だけで、犯罪グループのリーダー格だった。


 やっていたのは強盗などの死罪にするにはやや軽い犯罪だったが、彼らは若いながら闘魔術を修めており、政庁都市に住む無力な一般住民はいつ自分たちが襲われるか、その時は殺されるのではないかと戦々恐々としていた。


 彼らを捕まえるためなら殺すのもやむなしという条件のついたその仕事を引き受け、ケイは見せしめに一人だけを殺すことで、それ以外の犯罪者グループ全員を捕まえた。

 犯罪者の中から死人を一人出しているとは言え、これは本来手放しで賞賛されるはずの成果だった。

 だが実際には名家の令嬢であるケイが政庁都市の市井で騒がれている凶悪な犯罪者グループを捕縛したという功績が報じられることはなく、記録に残されることもなかった。


 ケイが殺したその犯罪者が、カイン・ブレイドホームという名で、あのジオレイン・ベルーガーの義理の息子であったためだった。



 そして一年後のある日、ケイは守護都市の路地裏で死体として発見された。

 凶器は長柄の刃物による一太刀。

 ケイは無抵抗で殺されており、気付くこともできないほどの速度で背後から首を切り落とされたのだと分析された。その落とされたケイの表情は、穏やかなものだった。

 次期皇剣の座を確実とされたケイ・マージネルは、確かな戦果も出せぬまま幻の天才としてこの世を去った。



 そしてその数日後、マージネル家はとある家を襲い、返り討ちにあう。

 証拠不十分なまま一方的な疑いで私刑(リンチ)を行おうとしたこと、十数名の上級の実力者を動員しながら引退した戦士にことごとく殺されたこと。

 その2つをもって、当時既に名家としての力の大部分を失っていたマージネル家の名声は完全に地に落ち、そのまま名家の席より零落することとなった。


 なおこの一件で襲われた家の家長であるジオレイン・べルーガーは傷一つしか負わなかったが、彼の所有する家と道場は焼け落ち、その際に子供たちの避難と暴漢たちへの対処に当たった道場の指導員である男性一名が死亡した。

 その男性の名は、クライス・ベンパーといった。



 ◇◇◇◇◇◇



 ひどい夢を見た。

 とりあえず今度親父と次兄さんをしばこう。

 ……クライスさんは政庁都市にいるから大丈夫だと思うけど、なんとかして様子を見に行けないだろうか。





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