プロローグ
私の家系『桜家』は呪われている。これは比喩などではなくそのまま事実だ。
その呪いというのが異性にモテまくるというもの、これだけだとただの恩恵なのだがもちろん代償がある。それは同性からの好感度を異性のそれにそのまま移動させるという代償、好感度とはいってもあくまでも恋愛対象としてのものだけらしく、普通に同性の友達がいたりする。まあ普通に生活をしている上ではただの恩恵でしかない、現に私の先祖はこの呪いを使って皆お金持ちばかりと結婚している、そのおかげで私はかなり裕福な暮らしをできている。全く呪い様様だ。
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「お嬢様、そろそろ学校のお時間ですが……」
部屋のドアがノックされて一人の男の声がする。この声の主はうちの家の執事である幹根だ、執事なのだけど小さい頃から親に変わって世話を見てくれているので私の中では、お父さんといった存在になっている。
「えー……もうそんな時間なの?」
「はい、急いで準備を」
きいっと木がきしむ音がするとドアが開けられて幹根の特徴的な優しそうなだけれども威厳がある顔がひょいっっと現れて、部屋の中を覗いてくる
「……ねえ幹根」
「はいはいなんでしょう」
「毎回思うんだけど、顔だけ出すのやめてくれない? 少し……怖いわ」
「左様ですか」
そういうと幹根は1歩横へ移動して壁に隠れていた黒いスーツを着た体を見せる。
「よし! 準備完璧さあ行きましょう!」
「はい、かしこまりました」
学校へ行く準備を整えた私の言葉に幹根が答える。
「それでは、いつも通り玄関に車をつけておりますのでなるべく早くお越しください」
「わかったわ」
私の答えを聞くと幹根は私に一礼して部屋のドアを閉めて車庫へ向かった。
「……はぁ」
幹根の足音が遠のいていくのを確認して私はため息をついた。やぱり幹根に敬語を使われるのは慣れない。
「早く慣れないとね……よし!」
まだ少し寝ぼけている脳を完全に起こすために頬をパチンと音を立てて叩く。
「行ってきます!」
いつもより大きな声を出して玄関を飛び出す。12月の冷たい風がさっき叩いたためか火照っている頬にあたって妙に気持ちいい。
「お嬢様、早くいかないと間に合いませんよ」
「……はーい」
その余韻を幹根の忠告に邪魔をされる。しかし遅れるのも嫌なので幹根が乗って待機している車へ急いで乗った。
「おはよーみんな」
そう言いながら教室へ入るが、扉の開閉音に邪魔をされてかき消される。
「……」
今更言い直すのもあれなので、おとなしく自分の席へと向かった。HRがもうすぐ始まるからなのか席を立っている生徒はいない。
「おっすお前ら! HR始めるぞ!」
無駄に元気な先生の入室とともにHRが開始された。
時刻は放課後、まだ6時だというのに辺りはすっかり暗い。所々電球がきれている街灯の下を通りながら帰宅路を歩く。
「はあ~」
吐いた息が真っ白になってあたりに舞った。私はこの帰宅路が気に入っている、周りに家一軒どころか田畑以外何もない殺風景な道。通る人も滅多にいない、かなり遠回りになるのだけど暗い道を一人で歩くというのはどこかドキドキするものがあるのでやめられない。
草がなびくのを目視すると同時に冷たい風が肌を刺す。
「やっぱ寒いなあー……」
誰にでもなく呟く、手袋をしていない手は真っ赤になっていて指先が少し痛い。
暗い視界にスっっと一人の少女が入ってくる。
「こんばんは」
少女の幼いながらもカリスマ性にあふれた声が透き通るように私の耳に入ってくる。
「こんばんは」
もちろん挨拶は返す。
「ねえお姉ちゃん!」
「あ、え? 私?」
いきなり声をかけられたので多少キョドる。
少女は私の手をガシッっと握ると
「私を守って!」
天使のような笑顔でそういった。その笑顔に胸の鼓動が早くなる、この笑顔は反則級に可愛い。
ドクン……。ドクン……。心臓がやけにうるさい。
そうか……これは一目惚れか……。
その日私はその少女に一目惚れをした。