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天使と悪魔の伝説  作者: 弥生遼
第十四章 永遠の魔女
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4

 タリューシャはへとへとになりながらも、総本山エメランスを目指していた。

 エストヘブン領で発生した内乱が最終的には皇帝が介入し、エストヘブン、コーラルヘブンの二つの領を皇帝の直轄地とすることで落着するはずであった。

 しかし、落着しなかった。教会、それと天界がこの措置に対して激怒したのであった。表向きは『天使がはじめて舞い降りた神聖な地であるコーラルヘブンを皇帝の直轄地にするとは何事か』ということになっているが、どうなのだろうか。エシリアはコーラルヘブンに魔界の門があるからではないだろうか、と言っていたが、真偽ほどは分からない。タリューシャのような下っ端に分かる由もなかった。

 兎も角も、エストヘブン領とコーラルヘブン領を担当しているタリューシャは、ことの顛末を総本山に駐留している天使に報告したのだが、情報不足を叱責されエストヘブン領に舞い戻ってきたのだ。先ほど、マランセル公爵領でエストヘブン領から来たという旅人から色々と聞き出そうとしたものの目新しい情報などなく、ただ落胆し疲労を感じるだけであった。

 『とんだ貧乏くじね……』

 エストヘブン、コーラルヘブンは、比較的に教化しやすい土地柄であった。ここ数年、面倒なことなどひとつも起こっていなかったのに、タリューシャが降下している時に限って厄介なことが起こるのだった。

 『前は神託戦争だったし』

 あの時はコーラルヘブンの領主が反皇帝側に組し、領主の家が断絶するという事態になった。やはりタリューシャは状況説明のためにコーラルヘブンと総本山エメランスを慌しく往復するはめになったのだった。

 『本当についていない!』

 飛行していなければ、路傍の小石を思いっきり蹴飛ばしているところである。しかし、雲ひとつない夜空では八つ当たりもできなかった。

 「随分と暗くなってきたし、仕方がないわね。カランブルまでひとっ飛びしますか」

 と決意を新たにした瞬間であった。何やら禍々しい気配を背後から感じ取った。相応の魔力を秘めているだろうそれは、殺意にも似た気配を隠そうともせず高速でタリューシャに接近してきていた。

 「何者です!」

 タリューシャは振り向きざまに手を払った。タリューシャの右手から小石ぐらいの光の球体が無数に飛び出し、迫りくるものに向かっていく。いかなるものであろうと、天使の魔法にかかれば蜂の巣に……。

 「何!」

 しかし、タリューシャが放った光の礫は、次々と弾かれていった。そしてそれは、タリューシャとの距離が近づくと停止した。

 『人間……?』

 法衣か何かを着た人間であることは間違いなかった。一瞬、堕天使ではないかとも思ったのだが、翼が生えている様子はなかった。

 タリューシャは戸惑った。それが隙となった。法衣の中から何かが飛び出してきたかと思うと、タリューシャの全身に纏わりつき、凄い力で締め付けられた。

 『手……?』

 それは巨大な手であった。身の丈ほどある手がタリューシャを握り締めていたのだ。

 『こいつ……一体……』

 何者であろうかと想像を巡らせる前に、タリューシャの意識は途絶した。翼から白い羽根がはらはらと落下していった。

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