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天使と悪魔の伝説  作者: 弥生遼
第十四章 永遠の魔女
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3

 サラサとジロンが道なりに街道を歩いていると、ようやく集落が見えてきた。

 「宿場町のようですな」

 集落の門前には馬車留めのような広場もあり、何かしらの看板があった。だが、いずれもやはり朽ちていて、看板の文字もまるで読めない。

 「一時期は栄えていたけど、その後衰退しましたって感じだな。それでも残っているとなると、まだそれなりに需要があるってわけだな」

 「ひとまず宿は確保できそうですな」

 「そうだな……」

 サラサは天を仰いだ。まだ空の色は青かったが、日は随分と傾いていた。

 「ん?あれは……」

 何かが青空を駆けていった。そのまま飛び去っていくものかと思っていたが、宿場町の上空で急停止し、降下してきた。

 「あれは天使か?」

 「そのようですな」

 天使について色々と情報を集めようとしていた矢先である。これは僥倖といえた。目配せしたサラサとジロンは宿場町に入っていった。

 降下してきたのは女の天使であった。突然の天使の降下に驚いて出てきた住民達は早速その天使を囲み膝を突いて祈り始めた。これは天使が現われた時に行われるものだが、当の天使は明らかに迷惑そうに顔をしかめていた。

 そのことに不審に思いながらも、サラサも天使に近づいて膝を折り祈った。

 「あ、あの皆さん。お祈りはまた今度にしてください。私はちょっと急いでいますので……」

 サラサは平静を装って祈りながらも噴出しそうになった。そんなことを言い出す天使なんて初めてだ。

 「あ、そこの人。旅人ですね」

 サラサは自分達のことを言われていると思って顔を上げた。ひどく童顔の天使だなと思った。

 「どこから来たのですか?」

 「エストヘブンからです。サイラスにいる叔父に会いに行く最中です」

 「そうですか!ちょっと詳しくお話を聞かせてください!」

 サラサは目を丸くした。こちらが天使から色々と聞き出そうと思っていたのに、機先を制された感じがした。


 女天使はタリューシャと名乗った。エストヘブン領に教化に来た最中に内乱が起き、コーラルヘブン領を含め皇帝直轄地とされてしまったのである。そのことを教会の総本山エメランスにいる駐在官に報告に行ったのだが、情報不足を指摘され舞い戻ってきたようである。

 「あなた方がエストヘブン領を出てきた時はどんな様子でした?」

 「どの様子と申されてましても、皇帝陛下の軍がカランブルに集まってきましたので検閲が厳しくなり、我々もカランブルを出るのに苦労しました」

 と言ったのはジロンであった。お互いによくもすらすらと嘘を平然とつけるものだとサラサは感心した。ここはジロンに任せることにした。

 「そうですか。コーラルヘブンには向いましたか?」

 「さてそれは……。しかし、カランブルに進駐した以上は、遅からずコーラルヘブンに向うのではないでしょうか?」

 「ですよね……」

 タリューシャは落胆していた。この天使はエストヘブン領のことよりもコーラルヘブン領の方に関心があるようだった。

 「コーラルヘブンに何かあるのですか?」

 コーラルヘブンのこととあってはサラサも黙っていられなかった。

 「それは言えません。秘密です」

 何かあるんだな、とサラサは思った。それにしてもこの天使は正直すぎる。

 「はぁ、コーラルヘブンに行ってみようかな……。皇帝が余計なことをしなければ」

 『なるほど、コーラルヘブンが皇帝の直轄地になるのが気に入らないのか?』

 だとすれば、これまでビーロス家の領地であったり、エストヘブン領に併呑されたことについては問題がなかったのだろうか。

 「とにかくカランブルに行ってみましょう。ああ、足止めして申し訳ありませんでした。よき旅を」

 タリューシャは慌しく飛び去っていった。

 「どうにも訳が分からなくなりましたな」

 「そうだな。でも、これでわざわざ教会領に行く必要はなくなったんじゃないか?あの天使の姉ちゃん、随分とぺらぺら喋ってくれたぞ」

 この時サラサはコーラルヘブンに行こうと考えていた。すでに皇帝軍が進駐していて危険な状態にはなっているだろうが、天使がコーラルヘブンに拘っている以上、行ってみる価値はあると思っていた。

 「ふむ。いや、寧ろ教会領に行くべきでありましょう。但しサイラスではなくエメランスに」

 「総本山か……」

 サラサにその考えはなかった。

 「確かにあの姉ちゃんからもエメランスの名前が出ていたもんな。多少遠いが足を伸ばしてみるか?」

 「その相談は宿を決めてからにしましょう。もう空も赤くなってきました」

 「本当だ。秋の日はつるべ落としとはよく言ったものだ」

 サラサは赤くなった空を見上げた。そこにはすでに天使の姿はなかった。

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