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天使と悪魔の伝説  作者: 弥生遼
第十一章 暗転
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 バスクチで留守を預かるサラサは、この時見えざる敵と戦っていた。マグルーン派との戦いが終わった頃から右の奥歯が痛み始め、アズナブール達を見送ってからというもの、その痛みがますます激しくなってきたのだ。

 最初は我慢していたものの、ついには我慢しきれずになり、軍医に診てもらうことにした。

 「ははん。親知らずですな」

 サラサの口を覗き込んだ軍医は一瞬で判断を下した。

 「本当か?もっとちゃんと見てくれ……」

 「間違いありませんよ。見事に綺麗な親知らずですよ」

 「親知らずに見事も綺麗もあるか。しかし、急に痛み出したな……」

 「きっと奥歯をかみ締めることが多かったのでしょうな」

 「ああ、そうだな。あの時は我慢ばかりしていたからな」

 「どうします?抜きますか?」

 「うん。そうだな」

 「では、準備してまいります」

 道具を取りに行った軍医はすぐに戻ってきて、サラサの親知らずはあっという間に抜かれてしまった。一瞬の激痛の代わりに恒常的な歯痛から解放されたが、サラサの右頬は大きく腫れ上がった。

 

 「それで不機嫌なわけですな」

 氷嚢で右の頬を押さえているサラサを見つけたジロンが気の毒そうな、それでいてどこか楽しげな顔で話しかけてきた。

 「不機嫌なわけじゃない。顔が腫れ、氷嚢で押さえていたらこんな顔になるんだ」

 「折角の美人が台無しですな」

 「本当だ。アズナブール殿にもミラにも見せられんな」

 「会談に出た人達が帰ってくるまでには治りそうもありませんな」

 「無事に帰ってくれるのなら、この顔を晒しても構わんさ」

 「ということは、サラサ様はやはり何か不安に思っていることがあるのですか?」

 「根拠があるわけじゃない。そういう予感がするだけだ」

 虫の知らせと言うやつである。この歯の痛みもその予兆ではないかと思えるほど嫌な予感がふつふつと湧いてきていた。

 「いくらアズナブール様がお決めになられたこととはいえ、少々馬鹿正直すぎましたかな。会談をするにしても、もっと事前協議を重ねたり、第三者を立ち合わせてたりしてもよかったのではないでしょうか」

 ということはジロンも何かしら不安を抱いているのだろう。

 「取り越し苦労かもしれんが、やはり手は打っておいたほうがいいか……。ジロン、ジンを呼んで来てくれ。途中まで軍を動かしておこう」

 「承知しました。その方がよろしいでしょうな」

 ジロンはすくっと立ち上がり、ジンを呼びに行った。

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