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天使と悪魔の伝説  作者: 弥生遼
第十章 必勝と必敗
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6

 「今から作戦を伝える」

 前線の砦に集まったアズナブール軍の幹部達に対して、サラサは地図を広げて見せて、作戦の説明を始めた。

 「まずは現状を説明しよう。敵の兵力は約四千。ジンの手腕によって多少減らさせているだろうが、便宜上四千とする。それを敵は四つに分けている」

 サラサは、赤く塗られた凸形の駒を三つ地図の上に置いた。

 「そのうちの三つが東から西へと横並びに陣取り北上。真っ直ぐにこちらに向っている。戦力はひとつの部隊で千~千二百ぐらいか。ほぼ均等であると見ている」

 次にサラサは同じような赤い駒を取り出した。但しその駒には旗が付けられていた。

 「そしてその三つの部隊の後方に五百程度の部隊がある。これがベンニルの本隊だ。間諜の報告によってベンニルの姿は確認させている」

 サラサは手を伸ばして三つ並んでいる駒を手前に引き寄せた。

 「行軍速度からして本日に夕刻にはこの三つの部隊は、この山の麓に到達。おそらく包囲するものと思われる」

 やはりベンニルは奇策を取るつもりはないらしいと判断した。大軍の利を活かして包囲し、時間をかけてじっくりと攻める。実に手堅く、戦術の教練本に載っていそうな見事な作戦である。

 「そこで我々は夜のうちにここの砦を密かに脱して、尾根伝いに南下し、ベンニルがいる本隊の側面もしくは背後に回る。そしてこれを奇襲する」

 おおっ、と言う驚きとも取れる声があがった。誰しもがサラサの作戦案に驚きつつも、否定的に捉えている者はいなさそうだった。

 「それは全軍ででしょうか?」

 幹部の一人が手を挙げて質問した。

 「全軍でやる。但し、旗や馬は全て残し、篝火もそのままにしておく。要するに敵にはまだ砦にいるものと思わせるんだ。敵は明朝になってこの砦に攻撃を仕掛けてくるだろうが、砦には誰もおらず、大将は討たれている。そういうことだ」

 その後、サラサは具体的な軍の編成や、行軍路などを事細かに指示した。特に指示を徹底したのは、敵本隊への奇襲が成功した後のことであった。

 「砦を囲んでいる敵はいずれ異変に気付き、戻ってくるはずだ。敵は混乱しているだろうが、まともに相手するのはまずい。そこで背後に回る途中で、部隊を分けて潜伏させておく。この部隊はジンを指揮官とし、敵が戻ってくる時にその背後を突くんだ。これは重要な役割だ。これが上手くいかなければ、我々は押し寄せてくる大軍とがっぷり組み合うことになり、数に圧倒されて負ける。頼んだぞ、ジン」

 「心得ました」

 ジンが敬礼をした。彼自身がサラサのことを信じきっているので、その部下達もサラサの口から出てくる作戦に疑いを挟んでいる様子は微塵もなかった。

 「最後に一言言っておく。皆、こんな小娘の言うことによく従ってくれた。だから、あえて言っておく。私の言うとおりにすれば勝てる。絶対に勝てる」

 サラサは言い終わってから、柄にもないことを言ってしまったと後悔した。

 

作戦会議が終わった頃、日は完全に落ちていた。再び高楼に登ったサラサは、敵情を観察した。敵の三つに分かれた部隊は、砦のある山を包囲していた。篝火が勢いよく焚かれ、炊飯の煙もあがっていた。望遠鏡を覗き、ベンニルがいるであろう後方の本隊を観察した。昼見た頃より動いていないようである。

 「よしよし」

 ここまではサラサの予定どおり。後は自分達が上手くやるだけである。

 「絶対に勝てる。確かにそのとおりになりそうですな」

 相変わらずサラサの親衛隊のように寄り添うジロンが戦場を遠望しながら言った。

 「『雷神』のお墨付きを得たならば心強いな」

 「しかし、よくもこんな作戦を思いついたものですな。軍の編成や作戦の立案も玄人の軍人そのもの」

 「よくもと言われてもな。勝手に思いつくし、勝手に頭が働くんだ」

 「ほほう。天才的戦術家といったところですかな」

 「知っているか、ジロン。歴史において天才的戦術家は、すべからく非業の死を遂げているんだぞ」

 「またそんなことを……。縁起でもない」

 「安心しろ。私は天才的戦術家でもなんでもない。ただ書物を読み、過去の歴史から得たものを自分の中で組み立てているだけだ」

 「それを世の中では天才と呼ぶんですよ」

 「一応褒められているらしいから喜んでおくことにするか。だが、それはこの戦に勝ってからにしてもらおうか」

 「勝ちますとも。絶対に勝つんでありましょう?」

 「嫌な奴だな。お前」

 サラサはジロンに毒づきながらも、ジロンに評価してもらえたのは純粋に嬉しかった。

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