表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天使と悪魔の伝説  作者: 弥生遼
第六章 元聖職者は己を信じ決着をつける
41/263

8

 ヤナ・ヤナックは全力で走っていた。全力疾走など、幼少の頃からした記憶がなかった。

 「はぁ……痴れの者め!馬鹿者め!」

 息を切らせながらもヤナックは、罵ることをやめなかった。マゲンレルもコサハールも役立たずだ。あいつらが役立たずであったから、長年続けてきたお楽しみも終わりを迎え、命すら狙われる羽目になってしまったのだ。

 「くそっ!」

 今のヤナックは本能的に逃げるだけであった。これからの身の振り方など何も考えておらず、ただあの粗暴な襲撃者達から遠ざかることしか頭になかった。

 気がつけば夜になっていた。無闇になって逃げていたせいか、まるで見覚えのない場所に来ていた。どこかの山道であるには間違いないが……。今更になってヤナックは考えなしに逃げてきたことを悔いた。

 『これもマゲンレルとコサハールのせいか!我が魔法を使い、人を超越した存在にしてやったのに!』

 恩知らずめ、とヤナックは地団太を踏んだ。

 「お止めなされ、見苦しい」

 背後から声がした。驚いて振り向くと、教会の法衣を来た男が立っていた。それはつい先ほどまでヤナックが憎しみをこめて罵っていた相手であった。

 「マゲンレル……。貴様、生きていたのか……」

 「私を殺害するために僧兵を派遣したようですが、残念でしたな」

 「何だ!その言い草は!私がお前に魔力を与えてやったから、幻術を使えるようになりおった分際で!」

 ヤナックはマゲンレルに詰め寄った。

 「私に魔力を与えた?ご冗談を……。私があなたに魔力を与えたのですよ」

 記憶にないのも無理ないでしょうが、とマゲンレルは不気味に笑った。

 「調子に乗りおって!もう許さん。私の魔法で……」

 ヤナックは意識を集中して魔法を繰り出そうとした。しかし、何事も起こらなかった。

 「ば、馬鹿な……」

 「面白うございましたよ。長年、限りない人間の欲望というものを見せてもらいました。清廉潔白の皮をかぶりながら、その下では平然と外道の振る舞い。いや、愉快でした」

 「貴様……何を言っている!」

 「もう一生分の快楽を味わったでしょう。悔いはありますまい」

 マゲンレルが言い終わると、ヤナックはびくんと体を震わせ、そのまま地面に崩れ落ちた。すでにヤナックの事切れていた。

 「ここまで限りなく膨らんできた人間の欲。さてさて、次はどれほど大きな欲望に出会えますことやら。できるならば、この帝国を覆い尽くす強大な欲でありますことを」

 言い終わるとマゲンレルは跳躍した。背中から二枚の白い翼が現われて大きくはためき、マゲンレルの体を上昇させていった。

 やがてマゲンレルは空の星のひとつなって消えていった。

ガレッド・レン編はこれにて終了となります。

この話における教会という組織の位置づけをある程度明確にするという意図があったので、少々説明くさい言い回しが多くなってしまったかもしれませんね。

さて次回からまたまた新キャラが出てきます。しばらくシード達から離れてしまいますが、お付き合いください。おそらくもっと説明くさい文章が増えることでしょう。本当にいまどきのラノベらしくないなぁ……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ