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天使と悪魔の伝説  作者: 弥生遼
第四十一章 天使と悪魔と人と
258/263

6

 「な、なんでござるか?あれは!」

 帝都へと急ぐ道中、ガレッドは上空に浮かぶラピュラスの異変をいち早く発見した。ガレッドがレンの乗る馬車に騎馬を寄せてきた。

 サラサ達がエストブルクを出発した後、一度総本山エメランスに帰ろうとしていたレンとガレッドであったが、ラピュラスが降下してきたという知らせを受け、目的地を変えた。情報を得たいと同時に、動揺する人心を落ち着かせようと考えたのだ。

 「崩壊している?」

 レンは馬車の窓から身を乗り出し上空を見上げた。。ラピュラスの下部分がばらばらと崩れていき、その残骸が地上へと落下している。

 「そのようでござるな……」

 「急ぎましょう、ガレッド」

 「しかし、危険でござろう」

 「危険は承知のうえです。サラサさん達もいるんですから、無視はできません」

 「それはそうでござるが……」

 ガレッドが確認するように上空を見ると、ラピュラスにさらなる異変が起こった。崩れ落ちた部分から異形の骸骨が出現したのだ。

 「なんと……おぞましい姿でござる」

 「あれは……この光景は」

 レンは記憶の糸を手繰った。この光景見覚えがあった。

 「私が見た夢……。神託戦争の原因となった悪夢。それとまったく同じです」

 それはレンにとっては単なる悪夢であった。しかしそれは、権力者によって政争の道具とされ、やがて戦争の原因となった。そういう意味でもレンからすれば忘れることのできない悪夢であった。そしてその悪夢は不幸にして正夢となってしまった。

 「エシリア様の話からすると、あれが天帝様でしょう。まさに悪魔のような異形……」

 「レンが見た夢は悪魔ではなく、天帝様であったとは……。皮肉なことでござるな」

 「急ぎましょう」

 レンはそれだけ言って体を馬車の中に戻した。確かにガレッドの言うとおりこれほどの皮肉はないだろう。世界中が誰もが悪魔だと思っていた悪夢の正体が、実は天使達の長である天帝であったのだから。

 『結局、天使も悪魔も、そして人間も変わりないということですね……』

 何事かを悟りえたレンは、この事件がどういう結末を迎えるにしろ、天使も天帝も概念としては滅んでしまうだろう、と思った。そうなった世界で教会はどのような役割を果たすべきか。考えるだけで気が滅入りそうであった。

 

 時間の針をやや戻す。

 シード達がガルサノを迎撃するために飛び立った直後、サラサも全軍を押し進めた。

 こちらの勝敗は実に呆気なくついた。兵力差は圧倒的であり、レスナン側が期待していたガルサノ率いる天使軍団もシード達によって阻止されてしまえば、まともな戦闘になるはずもなかった。

 サラサ軍の先陣は第五軍となったバーンズ軍。従来のサラサ軍の兵士に引けを取らない士気と精強さを誇っており、何よりも敵の将兵に対する影響が強かった。

 『サラサ・ビーロスを一度負かした大将軍も許されたのだ。我らが下って許されない理屈はあるまい』

 として降伏する将兵も後を立たなかった。これはサラサが狙ったことであり、第五軍を先陣にした理由であった。

 尤も降伏しない者もいた。レスナンの子息で軍事面の指揮を任されているミナレスである。立場上、降伏しても許されると思っていないのも当然であった。

 「進め!帝国の正義は我らにある!」

 ミナレスは軍の最後尾からそう檄を飛ばしたが、効果などあるはずがなかった。兵の中には無理やり徴兵された帝都の男児も少なくない。帝都上空にラピュラスが存在していることに対する不安もあるし、何よりも彼らはレスナンという男とその息子にいい感情を持っていなかった。彼らは勝敗の潮目がはっきりするとあっさりとサラサ軍に投降し、ミナレスの本陣は瞬く間に丸裸になった。そうなってしまうと恥じも外聞もなくなってしまった。

 「先陣は大将軍であるという。多少の誼があるから降伏を申し入れよう。領土でも財産でも何でも差し出すから命ばかりは助けてもらおう」

 ミナレスは憚りなく周囲にそう漏らした。周囲の将兵は、ミナレスの豹変に呆れはしたものの、彼らも武人の矜持よりも生命を大事にしたかったので、誰も反対する者はいなかった。

 ミナレス側から使者がバーンズ陣営に派遣され、サラサの所にも報告がもたらされた。

 「当然降伏は受ける。バーンズに武装解除させろ」

 サラサがそう命令を出し、すぐさまミナレス軍の武装解除がなされた。これでサラサの行く手を塞ぐものがなくなった。あとは帝都に入るだけであった。

 しかし、ここでラピュラスの崩壊が始まり、天帝がむき出しになって現われたのだ。

 「バーンズ軍とクーガ軍は速やかに帝都に入って市民の避難を誘導させろ。他は帝都近辺で待機」

 サラサはすぐさま命令を下達したが、不安でしかなかった。ラピュラスから紐に絡まるようにして宙に剥き出しになっている天帝の姿はあまりにも恐ろしげで、何よりもラピュラスがじわりじわりと降下しているのが気になった。

 「シード、何とかしてくれよ」

 今となってはシード達を信じるよりなかった。

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