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天使と悪魔の伝説  作者: 弥生遼
第四十一章 天使と悪魔と人と
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 上空に飛び出たエシリア達は、サラサ軍の前に出た。敵方も地上を行く軍団から先行するようにして天使達が飛来してきた。

 「シード君、エルマさん、いいですね。人間には絶対攻撃してはなりませんよ。私達の相手は天使です。いいですね?」

 「はい。分かっています」

 「当たり前だ。天使どもをぼこれるんだ。余計なことしている暇ねえよ」

 エルマは嬉しそうに右腕をぶんぶんと回した。

 「では、先陣はエルマさんと私で。シード君は私達の後で突破してくる敵を阻止すると同時に、その翼で威嚇をしてください」

 「はい!」

 シードが八枚の翼をさらに大きく広げた。神々しくも威圧的で、これだけでも天使達には効果ありそうであった。

 「聞きなさい!ガルサノに味方する天使達!天帝様の意思はこの少年にあります。未だ天帝様への畏敬を忘れていなければ、今すぐに抵抗を止めなさい」

 エシリアははったりをかました。シードは天帝の力を受け継いでいるのだからあながち嘘ではない。エシリアとしてはこれでひとりでも無抵抗のうちに脱落してくれればという考えであった。

 「その翼はまやかしだ!恐れずに進め!」

 ガルサノは声を荒げて叱咤する。しかし、あの八枚の翼を見て平静でいられる天使など少なく、多く者がたじろぎ、攻撃を仕掛けてくるのを躊躇っていた。

 「たぁぁぁぁぁ!ガルサノ様が作る未来の為に!」

 それでも、先頭にいた天使が勇気を振り絞り、光の剣を構え突撃してきた。

 「いい根性だ!私が一発で楽にさせてやるぜ!」

 向っていったのはエルマであった。天使が振り下ろした光の剣を拳で粉砕し、そのまま顔面に拳を叩き込んだ。一撃で伸されてしまった天使は、そのまま力無く落下していった。

 「さぁ、かかって来い!私は準備万全だぜ!」

 エルマは翼を広げた。その色は白であった。天使達を威圧するためにも白の翼の方がいいと判断し、あらかじめ決めておいたのだった。

 「おい!表六玉!」

 「あいよ!お嬢!」

 「私の使い魔ならそれらしく働け!」

 合点承知!とマ・ジュドーが現われ、大きく口を開けた。ずうう、と息を吸い込む音が聞こえたかと思うと、数名の天使達がマ・ジュドーに引き寄せられ、やがてマ・ジュドーに飲み込まれてしまった。

 「安心しな。しばらく魔界でお寝んねしてもらうだけだ」

 久々に満腹だぜ、とげっぷをしながらマ・ジュドーはエルマの傍に寄った。

 「お嬢、その格好も悪くねえな」

 「へん。白だろうが黒だろうが、私は私だろ?」

 「違いねえ」

 エルマとマ・ジュドーは、けけけと意地悪そうに笑った。

 「……さぁ、どうです。まだやると言うのなら、天使の尊厳と命を差し出す覚悟をしなさい!」

 エシリアが凄んで見せると、ガルサノを除く天使達が後ずさりを始めた。

 「さがるな……!くそっ!すべてがまやかしであると証明してみせる!」

 ガルサノが光の剣を出し、突進してきた。

 「来やがれ!くそ天使!」

 「貴様など相手している場合ではない!」

 ガルサノは身構えるエルマを大きく上空にかわし、シードに迫った。

 「そんな紛いものの翼など!力というのは、相応しき者が使うべきなのだ!」

 「あなたがそれに相応しいと言うのか!」

 「このガルサノが言っている!」

 ガルサノの光の剣が大きく伸び、シードを突き刺そうとした。シードの八枚の翼のうち、両肩の一番上にあった翼がシードの正面を塞いだ。ガルサノの光の剣は、シードの翼を前にして大きく折れ曲がった。

 「あなたが相応しいはずがない!すでに誰もあなたについてきていない!」

 シードの言うとおり、もうガルサノに続く天使はいなかった。多く者がエシリアに投降する意思を見せており、その他の者も呆然と動かず傍観していた。

 「貴様をやればぁ!」

 ガルサノは光の球を無数に出現させ、シードに向って放つ。しかし、シードの八枚の翼が盾のようになりガルサノの攻撃を完全に防いだ。

 「くそっ!化け物め!」

 「化け物はあなただ!」

 シードがガルサノに迫り、八枚の翼を大きく前へ伸ばした。翼の戦端が鋭利な刃物のように尖り、ガルサノの翼を貫いた。

 「ぐぬうう!」

 「あなたに天使である資格はない!」

 シードの翼がガルサノから離れた。ガルサノの翼は穴だらけになり、飛行している状態がやっとであるかのようにふらふらしていた。天使にとって翼を力の象徴であり、これを破損すると天使は飛行が困難になるだけではなく、魔力そのものを維持するのも難しくなる。

 「諦めろ!もうあなたの野心は終わった!」

 「終わり……。ふざけるな。たったこれだけのことで、終われるものか!」

 ガルサノは身を翻し、ラピュラスへと逃走した。

 「追ってください、シード君、エルマさん。ここは私が」

 エシリアも追いたかったが、残された天使達の始末をつけなければならなかった。

 「おうよ!行くぞ、シード!」

 「はい!」

 エシリアはラピュラスへ向う二人を見送った。あの二人ならば間違いはないと思うのだが、一抹の不安を拭いきれなかった。

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