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天使と悪魔の伝説  作者: 弥生遼
第四章 元聖職者は理不尽な世を嘆く
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5

 「ぐえええ。逃げてきた先がよりにもよって教会領かよ」

 領主の屋敷を破壊したことにより、レンストン領から逃亡してきたエルマとシードは、レンストン領に隣接するサイラス教会領に来ていた。

 現在はその領都であるドノンバという所にいる。レンストン領の領都レストプールも大都市だと思ったが、ドノンバの規模はその二倍、いや三倍はあるだろうか。人通りは多く、大きな建物も至る所に建てられていた。しかし、そのほとんどが教会関係の建物と言うから反吐が出そうだった。

 「けっ、教会ってのはよほど儲かっているんだな」

 社会に対して何かしらの生産性も持たず、民衆の寄付や御利益があるのかどうかも分からないお札やお守りを売りつけて富を得ている教会。その教会がいかにも金のかかった建築物を次々と建てている。純朴な信心で寄付した人やお札を買った人はどう思うことだろうか。

 「どうにも思わないんだろうな。これが当たり前だと慣らされているんだからな」

 「エルマさん。ここは教会領なんですから、そんなこと言っちゃ駄目ですよ」

 シードに窘められたが、悪態をやめるつもりはなかった。

 「お前はどう思うんだよ?」

 「そうですね。ここまでのものは、必要ないと思いますが……」

 「だったらそう言ってやれよ」

 「僕なんかが言っても無駄ですよ」

 と言って笑うシード。いや、お前は教会の連中が信奉している天使だから言うこと聞くんじゃないのか、とどれほど言いたかったか。しかし、シードが実は天使であることは本人にも内緒にしているので、迂闊に口を滑らすわけにはいかなかった。

 「しかし、聖職者とやらがこんなにも儲けられるのなら、私もやってみようかな」

 「エルマさん!自分のことを悪魔とか何とか言ってましたけど、ついに改心したんですね」

 「違うよ、馬鹿。私が信奉するのが自分自身だけだ。名付けてエルマ教だ。かっこいいだろう?お前を第一番の信者にしてやってもいいぜ」

 「じゃあ、マさんが第二番目の信者ですか?」

 シードの目が後ろをやや遅れてやってくる使い魔のマ・ジュドーに注がれた。本来、使い魔と言うのは魔力を持ったものしか見えない。しかも、エルマが使役するほどの使い魔となれば、かなり高い魔力の保持者ではないと見ることができなかった。シードも以前ならば時々しか見えていなかったらしいが、天使として覚醒してからはずっと見える状態が続いているという。このことからしても、シードがかなり高位の天使であることが知れた。

 「だから、そのマさんというのはやめてくれ。間抜けすぎるじゃねえか」

 「いいじゃねえか。私もこれからはマって呼ぼうかな」

 勘弁してくれよお嬢、とマ・ジュドーは情けなく言った。

 「そんなことよりも世直しですよ、エルマさん。困っている人を探して助けてあげないと」

 どこをどう勘違いしたのか、シードはエルマが世直しの旅をしていると思い込んでいる。まぁ確かに、お節介な行動をして結果的にシードを助けてしまったわけで、エルマ自身に非がないとは言い切れないが……。

 「だから、それが違うって。わざわざ困っている奴なんて探す必要なんてないし、第一ここは教会領だろ?困っている奴なんて教会に任せればいいんだよ」

 そうかもしれませんけど、と元気なく俯くシード。こいつ、どんだけ世直しの旅をしたいんだよ。

 「それよりも飯にしようぜ、飯。今日もしこたま歩いたから腹が減ったよ」

 「そうですね。もう夕方ですからね」

 エルマとシードの足は自然と食堂がありそうな繁華街へと向かった。その途中、教会近くの路地からぬっと大男が現れた。

 格闘家のような巨躯であった。しかし、風体はみすぼらしく、服は所々破れ、顔や腕は痣や傷だらけであった。

 「エルマさん、あの人、困ってそうですよ」

 シードも大男を見つけたらしい。

 「やめておけ。あれは人の助けなんて求めていない。世に絶望している眼だ」

 大男の瞳は瞼が腫れ上がっているせいもあるのかもしれないが、ひどく虚ろであった。少なくとも現世に生きる活路を見出しておらず、だからと言って自ら命を絶つという選択肢も端から除外している、謂わば生ける死霊のようであった。

 「流石エルマさん!困っている人とそうでない人の区別ができるんですね!」

 「馬鹿!だから違うって言っているだろう!」

 照れないでくださいよ、とシードは肩に下げている荷物を持ち直した。

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