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天使と悪魔の伝説  作者: 弥生遼
第四十章 天使たちの反乱
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2

 天界は大混乱に陥った。シードが天界に現われたことを混乱と評するのなら、今回の事態は混乱の枠組みを大きく逸脱していた。阿鼻叫喚、というほうが相応しかった。

 その日、天界では平穏な朝を迎えていた。天使達はいつもの生活を始めようとしており、ある者は勤めのためイピュラスへ向おうとしており、ある者は教化のために地上に下りる準備をしていた。またある者は、群衆を集め議論を始めていた。

 「やはりスロルゼン様にはご退位していただこう。新しき天使の世界を迎えるためにも」

 群衆に訴えかけているのは、先日スロルゼンに強訴した天使達の代表を引き受けているサネバンネルという天使であった。場所はイピュラスへと続く大通りのど真ん中である。有史以来、天下の往来で公然と執政官の首座が批判されるというのは前代未聞のことであった。

 「左様。新しい首座にはガルサノ様を……」

 「いやいや、ガルサノ様もスロルゼンの一派。ここは現在の執政官を一掃して別の者達を……」

 群衆は喧々諤々、各々の意見を声高に主張した。天使達がこうして議論をするのもあり得ないことであった。天使達は執政官に異を唱えることも、政情について私見を述べるようなこともなかった。

 「兎も角も、イピュラスへ向おうではないか、皆の者!」

 サネバンネルが宣言すると、同意同意と群衆は口々に叫び、イピュラスへと行進を開始しようとした。しかし、その歩みはすぐに止まった。彼らが足をつけている地面が激しく揺れ始めたのだ。

 「何事か……」

 何が起こったか。サネバンネルには詮索する暇もなかった。地面か突き出てきた白い硬質の棒状のものに貫かれ絶命した。

 「サネバンネル!」

 群衆達は貫かれたサネバンネルを見上げた。彼らは驚きも恐怖の色を見せることなく、サネバンネルと同様に天帝の骨によって貫かれ、次々と絶命していた。絶命しただけではない。魔力も吸い取られ干からびていき、やがて粉末のようになり風に流されて跡形もなくなった。このような光景が各所で見受けられた。ラピュラス全体が天帝の骨に埋め尽くされ、天使達が次々とその贄になっていった。


 その光景はラピュラスに潜伏しているシード達の眼前でも起こっていた。シード達が潜伏しているのはラピュラスの外れにあるシードの家であったから、最初は遠目で異変が起こったとしか判断できなかった。

 「何です?この揺れは?」

 最初に揺れに気がついたのはエシリアであった。ちょうど朝食の片づけをしており、かちかちと食器が揺れていた。

 「揺れ?おわっ!」

 揺れが急に激しくなった。エルマは尻餅をついた。エシリアも何かにしがみついていないと立っていられないほどであった。

 「地震?」

 シードも床に臥せって動けない状態であった。

 「ここは天界ですよ。地殻変動なんて起こるはずが……」

 「おい!何か来るぞ!」

 エルマが叫ぶと、地面から白い先の尖ったものが突き上げてきた。エシリア達は間一髪でそれを回避した。

 「何です?これは……」

 「まだ来ますよ!」

 シードの家を壊すかのように次々と白い物体が地面から現われてきた。床も壁も亀裂が走った。

 「このままは崩れますよ!」

 「お前ら、飛べ!」

 エルマが号令すると、エシリア達は翼を出現させて天井を突き破って飛び上がった。それから間もなく、シードの家は倒壊した。

 「ぼ、僕の家が……」

 「そんなことを言っている場合か!あれを見ろ!」

 エルマが言うまでもなく、エシリアはその光景を目の当たりにしていた。ラピュラス全体が白い棒状の物体で埋め尽くされていた。それは針山のようであり、さながら天界が地獄へと変貌したかのようであった。

 「ラピュラスが……」

 天使達の住処。この世界で最も平穏で聖なる場所。それがあまりにも無残な姿に成り果てていてエシリアは絶句するしかながった。

 「何なんですか?あの白いものは……。それに天使達が……」

 上空から眺めてみると、所々に節があり、それはまるで骨であった。しかも、数多くの天使達をその先端に突き刺していた。

 「馬鹿だな、シード。お前はここの地下で何を見てきた?あんな巨大な骨の正体なんてひとつしかないだろう」

 我らが天帝様が暴走しているんだ、とエルマが結論を出した。エシリアは声には出さなかったが、密かに同意した。

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