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天使と悪魔の伝説  作者: 弥生遼
第三十九章 大将軍
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 国務卿レスナン・バルトボーンは、フェドリー・フォドロー・ガイラスが皇帝に即位したことを世間に発表したその日に、その幼帝から国務卿に再任する旨の勅状を賜った。当然、幼帝にそのような判断などできるはずもなく、予め決められたことであり、勅状も形式的なものであった。なにしろ勅状の文面を考えたのはレスナンであり、それをフェドリーの父であるボドランが執筆したものであった。

 『これでよいのだ……』

 勅状を手にしたレスナンは、改めて己の行いに満足していた。彼はジギアスを謀殺したことに一切の後ろめたさを感じていなかったし、寧ろ当然であると思っていた。

 『国家とは皇帝の私物ではない。皇帝も国家における一統治機構でしかない』

 レスナンの政治的理念はそこにあった。偶然にしてサラサも同じような政治的思考を持っていたが、サラサのそれは『国家は人民の生活を守るために統治機構として存在している過ぎない』という発想へと発展するのだが、レスナンの理念はそこにまで及んでいなかった。彼はあくまでも国家機構を運営する制御者に過ぎず、本来手段でしかない政治運営というものを目的として捕らえていた。

 勅状を受けたレスナンは、まずは宮城内の権力把握に努めた。幸運なことに宮城の閣僚や官僚は、ジギアスの戦争本位の政治に嫌気を感じており、レスナンの行動には概ね好意的で批判をする者は皆無であった。しかし、一人だけ始末しておかなければならない人物がいた。

 『カヌレア夫人を拘禁しろ。先帝に戦争するように唆した張本人だ』

 この時点でカヌレアはジギアスの死を知っていた。彼女はいかにして次の権力者に取り入るか考えている最中であったが、機先を制される形となった。

 「何をする!無礼であろう!」

 突如として部屋に乱入してきた衛兵に居丈高に振舞うカヌレアであったが、続いて入ってきたレスナンを見ると、怯えの色を見せた。

 「これは国務卿。いかなる仕打ちでありましょう」

 「いかなるも何もあなたは帝国にとって必要のない存在です。いや、必要ないだけだあればいいが、有害以外の何ものでもありません」

 「国務卿!」

 「先々帝と先帝の寵姫あったお方だ。潔く自裁なされよ」

 レスナンが目で合図すると、兵士が葡萄酒を持ってきた。その中には当然毒が入っていた。

 「何故!何故、私が死ななねばならないのです!」

 「あなたがいなければ、先帝はもう少しマシであったろうに」

 兵士達がカヌレアの自由を奪い口をこじ開けさせた。

 「ぐ、ぐああああ」

 杯を持った兵士が容赦なく葡萄酒をカヌレアの口に流し込み、口を閉じさせ鼻をつまんだ。

 「ぐ、ぐうううう……ああああ!」

 絶叫したカヌレアは葡萄酒と血を同時に吐き出し、そのまま絶命した。レスナンはこうして障害をひとつ排除した。

 その頃にはイーライ・ベニール・ガイラスが蜂起し、自ら即位を宣言していたが、レスナンはこれを重大な相手と見ていなかった。帝都に近い位置にいるので煩わしくあったが、人望があるとは思えない。それよりも先に片付けるべき問題があった。

 『問題はサラサ・ビーロスと大将軍か……』

 レスナンは、すぐさまサラサとバーンズに書状を送った。新帝のもとで協力しようというものであった。バーンズは乗るであろう、レスナンはそう考えていたが、サラサについては予測しかねていた。

 『もしサラサ・ビーロスが帝位を望んでくればくれてやってもよいが……』

 所詮は傀儡の幼帝である。退位させるのもレスナンの手の内にある。代わってサラサの帝位を認めることも可能だが、帝位に着いたサラサがレスナンをどうするか、判断できなかった。

 だが、レスナンの予測に反してイーライは順調に兵を集めつつあった。それは三千名程度であったが、手持ち戦力が乏しいレスナンにとっては脅威であった。

 『一刻も早く大将軍には戻ってもらわねば……』

 もっと兵を集めようとしているのだろう。幸いにしてイーライはまだ動く気配がない。

 しかし、バーンズからの返事は未だ来ていなかった。

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