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天使と悪魔の伝説  作者: 弥生遼
第三十八章 決意
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 数日後、ジギアスの死についての詳細がサラサのもとにもたらされた。

 稲穂の月二十八日、サラサ・ビーロスとの決戦で敗れたジギアスは、二度にわたる敗戦を悔い、毒を仰いで自害した。。即日、国務卿の名の下で自害のことが公表された。同時にジギアスの遺言を公表し、次期皇帝をフェドリー・フォドロー・ガイラスに決定したことを天下に発表した。

 フェドリー・フォドロー・ガイラスは今年で六歳。帝位に着いた年齢で言えば、帝国史上三番に目に若かった。当然ながら幼いフェドリーに混乱した帝国を治める力などあるはずもなく、これは明らかな傀儡であった。しかも、問題を増幅させたのはフェドリーの出自であった。フォドロー家は皇統であることには間違いなかったが、数代前にバルトボーン家から女が嫁いでいることであった。要するにフェドリーは国務卿レスナンの遠縁に当たるのである。実際に両家の間柄は緊密で、皇族ながら金銭面で困窮しているフォドロー家にレスナンが多額の援助をしているという話もあった。

 ここまでが第一報であり、この時には近隣に領地を構える諸侯達もエストブルクに集まってきていた。

 「私は馬鹿だ!」

 帝都からもたらされた情報に接したサラサは、周りに人がいるのも憚らず叫んだ。

 「私が余計なことをしたから皇帝を殺してしまったんだ!」

 サラサの異様な剣幕に諸侯達は押し黙って見守るしかなかった。ただ一人、こういう時に率直にサラサに意見を言えるのはアルベルトだけであった。

 「サラサ様、あなたが気に病むことはない。ジギアスが自害に追い詰められたのは、あいつに為政者としての力がなかったからであり、自害したのもそれまでの男だったということだ」

 「そうかもしれんが、もっと別の選択肢があったんじゃないかと思うんだよ。私はジギアスと直接対面したことがただの一度もなかった。それにジギアスの人となりは風聞でしか知らない。だから実際に膝を突き合わせて話せば案外物分りがよくて、戦争なんかにならなかったんじゃないかと思ってしまうんだよ」

 ジギアスは戦闘的で、戦争をすることによって自らが皇帝であることを誇示しているかのような男であった。それは為政者として度し難い欠点ではあったが、決して暗愚ではなかったとサラサは思っている。十分に理を尽くして説けば理解してくれたのではないか。だからこそサラサは幾度もジギアスを捕らえるように将兵に命令していたのだ。

 「サラサ様、そのような想像は無用でありましょう」

 ジロンがそう言うと、分かっているよとサラサは返した。

 「ともかく第二報を待とう。我々以外の諸侯達がどう動くかも見てみないとな」

 そういう後悔からか、サラサの判断は優柔になっていた。


 第二報は一日後に届けられた。そこにはさらに深刻な状況が書き込まれていた。

 帝都に近郊にサドラー・ベニール・ガイラスという男が居を構えていた。先帝の末弟で、ジギアスからすれば叔父にあたる。夫子然とした男で、皇族ながら政治的野心など一欠けらも持ち合わせておらず、ジギアスが皇位を継承した時も、その強引で武断的なやり方を非難することなく、ただこれを黙認した。

 それでいて無能というわけではなく、寧ろ知性と見識は非常に高く、特に帝国の歴史に精通しており、ジギアスもその才知に一目置いて敬意を払っていた。

 問題なのはサドラーの息子であった。名はイーライと言い、齢十六歳。父とは正反対で非常に野心的であった。性格的にはジギアスに似ており、そのせいでもなかろうが一時は皇子時代のジギアスの近習を務めたこともあり、可愛がられた。

 それだけにジギアスの死はイーライに衝撃を与え、人目を憚らずに号泣した。しかし、幼帝フェドリーが即位したと知れると、彼は顔を真っ赤にして激怒した。

 『これは国務卿の陰謀だ!ジギアス帝を謀殺し、自らの傀儡となる幼帝を即位させたんだ!』

 レスナンを非難する一方で、少年の心に宿っていた野心に火がついていた。ジギアスの皇位を継承するのは自分しかいないと。

 イーライはすぐさま各諸侯に綸旨を飛ばし、レスナン討伐を呼びかけた。同時に自らが帝位に着くことを宣言した。

 驚いたのは父のサドラーであった。サドラーは息子がそのような野心があるとはまるで思っていなかったので、これを制止しようとした。サドラーからすれば、レスナンのやりようは許せることではないが、だからといって我が息子にこの乱れた世を治められるとも思っていなかった。

 サドラーは、次の皇帝に相応しいのはサラサであると考えていた。そのことは後日発見されたサドラーの日記から分かることであり、彼は密かに情報を集めサラサの人となりをかなり正確に把握していた。

 勿論、この時はそんなことをおくびにも出さず、出立しようとする息子の前に立ちはだかった。

 気分が高揚しているイーライには父は単なる邪魔者でしかなかった。イーライは滔々と説得の弁を述べている父の頭に剣を振り下ろし、砕いてしまったのだった。

 これでイーライは堂々と皇帝として旗揚げし、各地から味方が集まってくるのを待っているのだった。

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