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天使と悪魔の伝説  作者: 弥生遼
第三十七章 光射す道
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11

 その夜、サラサもまた眠れぬ夜を過ごしていた。とはいえ、ジギアス陣営のレクスターと異なるのは、単に夕方に寝入ってしまっただけであり、サラサ陣営の余裕を窺わせていた。

 前線で指揮しているネグサスから脱走兵が続々とこちらに駆け込んできているという知らせを受けた時、サラサはジロン、アルベルト、ミラと雑談をしていた。

 「脱走兵は手厚くもてなすように。それと前線の警戒を怠るなよ。これを機に敵が撤退するか、破れかぶれに突撃してくるかも知れないからな」

 サラサはそう命じて伝令を返した。

 「脱走兵か……。これで勝ちましたな」

 アルベルトは祝杯とばかりに酒の入った杯を高々と掲げた。

 「まだ終わってはいないさ」

 サラサはそう返事したが、まず勝利は間違いなかった。問題なのは勝った後のことであった。

 できればジギアスを捕らえたい。サラサはそう考えていた。ジギアスを捕らえて眼前に引きずり出し、彼が布告してきた様々な悪法、重税を撤回するように迫る。それこそが最良であろう。

 『しかし、ジギアスを捕らえることはできまい』

 もし、ジギアスが易々と俘虜の身となるのなら、先のエイリー川の戦いの時に捕らえることができただろう。だが、ここまで大規模な大会戦の最中では、目標の一人を捕らえるのは至難の業であろう。

 『だとすれば、多数の領主の総意としてジギアスの退位を迫り、新帝の即位を願うしかない』

 それが最も現実的であるように思われた。しかし、新帝擁立についてはサラサはあまり口を挟むつもりはなかった。そこで口を挟めば、サラサの政治的発言権は強大になってしまい、サラサが帝国での実権を握るために兵を起こしたと思われてしまうからであった。これについてはアルベルトに主導してもらった方がいいだろう。

 「何かお考えですかな?」

 相変わらずジロンは目ざとい。サラサが何事か悩んでいるということを表情だけで読み取っていた。

 「戦というのは勝つよりも、勝った後のことの方が難しいと思ってな」

 「ほほう。常勝将軍ならではの発言だな」

 とアルベルトがからかうと、私は一回負けているよ、と言って夜風に当たるために天幕の外に出た。遠く見える敵陣に動きはなさそうだった。自陣の方が慌しく松明が動いていた。サラサの命令が各部隊に伝えられているのだろう。

 「サラサ様、そろそろお休みになられてください。夜風はお体に障ります」

 サラサの後を追って天幕から出てきたミラがサラサの肩に毛布をかけてくれた。

 「ありがとう、ミラ。そうだな……そろそろ寒くなるからな」

 サラサはミラの気遣いをありがたく思い天幕へと戻ることにした。

 

 翌朝、ジギアス軍が撤退を始めた。これは予期されていたことなので、サラサはすかさず追撃を命じた。

 「追え!皇帝陛下を捕らえ、私の下へ連れて来るんだ!」

 サラサは、ジギアスを捕らえることにより彼と対面するという希望をまだ捨ててはいなかった。

 サラサは得意とする半包囲の陣形を狭めていき、長蛇のようなジギアス軍の尻尾に食いつこうとした。今回も完全包囲をしなかったのは、やはり窮鼠が猫を噛む事態を避けるためであり、心のどこかでジギアスを生きながらえさせようと考えていたからに他ならなかった。

 この時すでにジギアスはわずかな供を連れて戦場を離脱していた。レクスターが殿軍の指揮を買って出て、押し寄せる巨大な波のようなサラサ軍と対峙しようとしていた。

 主に後方勤務で功績をあげてきたレクスターであったが、前線での指揮の心得もあった。突出してくる敵を的確に追い払い、時には逆襲して敵を後退させることもあったが、所詮は多勢に無勢、昼過ぎには全面に渡って戦線が崩壊した。

 『もはやこれまで!』

 死期を悟ったレクスターは自ら敵陣に突入した。剣を振るうこと数十度。多くの敵兵に傷を負わせてきたが、最期には数本の槍に貫かれ、馬上のまま絶命した。ジギアス軍の中で唯一勇戦した将としてレクスターの名は語り継がれることになるが、それぐらいしか誇ることがないほどジギアス軍の敗北はあまりにも無残であり、ジギアスにとっては屈辱しか残らない、それでいて最後の戦いとなってしまった。

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