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天使と悪魔の伝説  作者: 弥生遼
第三十五章 諸侯会議
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 帝暦千二百二十四年朱夏の月に行われたエイリー川での戦いは、帝国の運命を大きく変える一戦となった。

 すでにサラサと攻守同盟を結んでいるシラン領、テーリンズ領、スフォード領に加え、さらに七つの領がサラサと誼を結ぶことになった。これにより、サイラス教会領を除く帝国北部の多くの領主がサラサ陣営に属することになった。しかも、サイラス教会領は表立ってサラサ陣営に属したと表明していないだけであり、レンを通して教会領の暗黙の協力を取り付けていた。

 すでに北部の十二領(サイラス教会領除き、エストヘブンとコーラルヘブンは同じ領主ながら二つと勘定)は、帝国の政治的拘束から脱しており、サラサを中心とした独立勢力であると言っても過言ではなかった。

 「折角だ。盟約を結んだ領主同士、一堂に会してみてはどうだろうか?」

 と提案してきたのは、アルベルト・シュベールであった。彼はここ最近、月に一度ぐらいの間隔でエストブルクにやってきては、サラサと他愛もない話を交わし、風のように自分の領地に帰るということを繰り返していた。この日もアルベルトは、ネグサスへの陣中見舞いだと称し、一週間近くエストブルクに居座っていた。

 「面白い提案だけど、おかしなことが二つある」

 サラサはミラが持ってきた書類に目を通しながら、アルベルトの雑談に付き合うことにした。

 「ほほう、二つもあるかね?」

 「ひとつは、盟約に加わっていないあなたが何故それを提案するのかということ。もうひとつは、自分の領地をほったらかして大丈夫なのかということだ」

 サラサは皮肉のつもりでいったのだが、当のアルベルトには皮肉として通じていないらしく、ははっと短く笑った。

 「二つ目の質問から答えよう。俺の領地に関しては心配無用だ。親父もいれば兄貴達もいるからな。特に親父はサラサ殿に会ってから思うところがあるのか、ちょくちょく領都に顔を出すようになったんだぜ」

 俺よりよっぽど政治は上手い、とアルベルトは人事のように言った。

 「それはよかったな。こっちに人手を貸して欲しいな」

 だから俺がこうして来ているんだぞ、とアルベルトは言ったが、サラサはそれを無視した。この時のサラサは、すでにシード達がコーラルルージュから魔界へ行ったという知らせを得ている。さっさと政務を終わらせて、カランブルかどこかで彼らと落ち合いたかったのだが、片付けるべき仕事が山積しており、実際のところアルベルトに構う時間も惜しかった。

 「最初の質問についての答えは明確だ。俺もその盟約に混ぜてもらうぞ」

 サラサは、ぱっと顔を上げた。流石に聞き流すわけにはいかなかった。

 「どういうことだ?」

 「どういうことないだろう。すでに俺はネグサスを派遣しているんだぜ。今更盟約に入れないということはないだろう」

 「それはそうだが……。いや、あなたが盟約に加わってもらえればこれほど心強いことはないが、あなたの領地は離れすぎている。有事の際は皇帝軍の集中砲火を喰らうぞ」

 この攻守同盟は、各領地が地理的に固まっているから利点がある。しかし、アルベルトの領地は、ここから遠く離れている。皇帝軍に攻められた時、助けに行くことは極めて困難なのである。

 「その点の心配はない。ちゃんと想定して指示してきている。それに今の皇帝軍に遠く離れての二正面作戦はできまい。どこかの誰かさんが皇帝軍を散々に撃ち破ったからな」

 「まぁ、嫌だと言ってもあなたは聞かない人だから、無理にでも盟約に入ってくるだろう」

 よくお分かりで、とアルベルトは快活に笑った。

 『諸侯を集めるか……』

 それは必要であろう、とサラサは思い始めていた。盟約を結んだもの同士、団結して皇帝に物申せば、多少なりとも効果はあるだろうし、世間に対する宣伝にもなるだろう。

 「やってみるか」

 サラサは、まずジロンを呼んで、諸侯会議についての意見を求めた。

 「なるほど。それは良い考えかと思います。ぜひなさいませ」

 ジロンは即答した。彼が賛同したのは、サラサが考えているのとは別の意図があってのことだろうが、今はそれ以上突っ込まないことにした。

 やると決めた以上早いほうがいい。サラサはミラを呼んで、各諸侯への案内状を作成させた。現在、ミラはサラサの祐筆も務めていた。

 「おっと、俺のは不要だぜ。今聞いたし、しばらくここで厄介になるからな」

 「分かっているよ。本当にお気楽な御仁だ」

 サラサはミラが作成した案内状に花押を書きながら、アルベルトの言葉に応じた。こうして帝国の歴史の中で燦然とした光芒を放つ諸侯会盟が行われるのであった。

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