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天使と悪魔の伝説  作者: 弥生遼
第三十四章 魔界
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 エシリア達が地上に戻った頃、エストヘブン領では戦乱の只中にあった。時期としてはサラサがバーンズをエストヘブンから追い出した頃であり、カランブルにサラサが不在であった。

 「お二人のことはサラサ様から聞いております。どうぞゆるりとお寛ぎください。サラサ様には伝令を派遣いたしますので……」

 応対に出たバロード・ケプラーという男はそう言ってくれたが、エシリアはそれを押しとどめた。

 「それには及びません。サラサさんもお忙しいですから、無用な気遣いをさせては申しわけありません。それよりもぜひコーラルルージュへ行きたいのですが」

 「コーラルルージュへ?」

 「ええ。ついては我々の行動の自由を保障していただきたいのです」

 「それは勿論。サラサ様からは自分と同等に接せよと仰せつかっています。手形を作成しますのでしばしお待ちください」

 バロードなる男は、エシリア達がコーラルルージュで何をするか詮索してこなかった。サラサの友人であるということで信用しているのだろう。サラサがいかに部下を信頼し、部下から信頼されているかがよく分かった。

 『サラサさんはよき部下を持たれた』

 エシリアは我事のように嬉しくなった。ジロンの言い草ではないが、人間界を統べるのは彼女のような人間こそが相応しいのかもしれない。

 『人間界に新しい秩序が生まれるかもしれない。天界での騒乱は私達だけで収めないと……』

 そのためにはエルマを完全復活させ、天帝の化身とも言えるシードとエルマを持ってして天界の混乱を収めねばならない。それが当面のエシリアの目標であった。

 

 バロードから手形をもらったエシリアとシードは、ひと飛びして一気にコーラルルージュに到達した。そこには先に人間界に戻っていたエルマが待っていた。

 待っていた、というよりも、ただそこにいたというべきだろう。コーラルルージュ城の一室の窓際に座り、ぼんやりとした視線を外に向けていた。生物としての活動はしているのだろうが、エシリア達がその部屋に入ってきても一切反応しなかった。

 「まるで魂の抜け殻ですね」

 などと言えば、いつものエルマなら噛み付いてきて、皮肉のひとつでも言ってくるものなのだが、今のエルマはぴくりとも動かなかった。

 「ずっとこんな調子でござるよ」

 部屋にはエルマの他に困り顔のガレッドがいた。そして、その隣には当然ながらレンの姿があった。現在レンは、サイラス教会領に視察に来ており、ガレッドはその補佐として同じくサイラスを拠点としていた。

 「マさんがすぐに来てくれと言うもんですから、急いできてみたらこれです。エシリアさん、天界で何かあったんですか?」

 と言うレンは、マ・ジュドーを大事そうに抱きしめていた。

 「そこの球体さんからは何も聞かなかったのですか?」

 エシリアが言うと、レンとガレッドは一緒に首を振った。

 「レンさん達を呼んだのは賢明ですが、説明もしないと言うのは球体さんらしく間が抜けていますね。どうして事前に説明してくれなかったんですか?」

 「仕方ねえじゃねえか。俺、馬鹿だからあんなことうまく説明できねえよ」

 マ・ジュドーはレンの腕から抜け出そうと必死であったが、レンがぎゅっと力をこめて抱きしめているので苦しそうで、応答もいかにも適当であった。

 「仕方ありませんね」

 エシリアはひとつため息してから、天界であったことを語った。この二人ならば包み隠さず話しても問題ないだろう。

 「エルマさん達に出会っていろいろと驚くことばかりですが、これは最大級の驚きですね」

 レンが同意を求めるようにガレッドを見ると、ガレッドは大きくうなずいた。だが、言うほど驚いているようには見えなかった。

 「でも、これでいろいろと合点がいきますね。シードさんの力も、天帝様から与えられたと言うのなら納得ですね」

 レンがシードに向かって言うと、シードはちょっとはにかんだ。

 「今後、天界がどうなるか分かりません。しかし、天帝様が死に間際にあり、シード君とエルマさんにその力があるとなると、天界院が二人を狙ってくる可能性もあります」

 「そのためにエルマ殿には立ち直ってもらわねばならんと言うわけでござるな」

 「ガレッドさんの仰るとおりです。そのためにも私達は魔界へ行こうと思います」

 「魔界へ?」

 レンが聞き返した。

 「そうです。その魔界への入り口がここにあると言います」

 「でも、それが危険ではないですか?」

 レンの言うとおりである。魔界への門を開くことで、獰猛な悪魔達が飛び出してくる可能性もあるのだ。

 『しかし、メトロノス様は危惧は無用だと言っていた……』

 それは何を意味しているのだろうか。それを確認するためにも魔界へはぜひとも行かねばならなかった。

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