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天使と悪魔の伝説  作者: 弥生遼
第三十三章 裁かれしもの
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7

 「な、何だったのだ?今のは……」

 スロルゼンとガルサノの登場で動転していたシェランドンは、さらに突然出現した謎の天使のせいで混乱にさらに拍車がかかっていた。だからと言うわけではないが、自分が今危機的な状況にあることを一瞬忘れていた。それがシェランドンにとって命取りになった。

 「捕らえろ!」

 ガルサノが部下に命じた言葉をきっかけに我を取り戻したシェランドンであったが、すでに遅かった。シェランドン達は武装した天使達に囲まれていて、槍先が肌に触れんばかりの距離で突きつけられていた。

 「無駄な抵抗がやめることだな。おとなしく縛について、裁判を受けろ。お前が大好きな裁判だ」

 スロルゼンは淡々と言った。シェランドンとしては諦めるわけにはいかなかった。ここで素直に捕らえられたら、待っているのは死のみである。

 「この老躯をいたぶりたいのなら好きにするがいい。だが、私にも意地がある」

 そう言い出したのはブルゲアノスであった。何をするつもりかとシェランドンがブルゲアノスの方を見ると、ブルゲアノスはちらっとシェランドンを見て小さく頷いた。

 「シェランドン如きに唆され、反乱を起こしたとなれば、このブルゲアノスの名折れ。それは覚えておけ!」

 ブルゲアノスはそう吠えると、目の前にいた天使に襲い掛かった。手から光の剣を出し、その天使の頭を刎ねようとした。しかし、それよりも早く背後にいた天使が槍をブルゲアノスに突き刺した。

 「かっ!」

 何事か呻いたブルゲアノス前のめりに倒れようとした。だが、それでも前進することをやめず、よたよたと流血しながらもスロルゼンとガルサノに歩み寄らんとしていた。

 「殺せ!」

 スロルゼンが叫んだ。ブルゲアノスを囲んでいた天使達が次々と槍を老躯に突き刺していった。

 「うおおおっ!」

 ブルゲアノスは最後の力を振り絞り、光の剣をスロルゼンに向って投げようとした。だが、それは叶わず、ブルゲアノスは力なく倒れ、そのまま動くことなかった。

 これはブルゲアノスが与えてくれた好機であった。ブルゲアノスは己を犠牲にしてシェランドンを逃がしてくれようとしているのだ。

 「うおおおおっ!」

 シェランドンは雄たけびを上げ、なだれ込んできた天使達の輪を突破しようとした。

 「反逆者を逃がすな!」

 いち早く気が付いたガルサノが命じた。天使達がシェランドンに群がり切りつけてきた。シェランドンは反撃する暇を惜しみ突破するためだけに前進した。もう少しで部屋を出られるという所で立ちはだかったのはソフィスアースであった。

 「この毒婦め!」

 できうることならソフィスアースに一太刀でも浴びせたかった。しかし、ブルゲアノスが開いてくれた活路を無駄にするわけにはいかなかった。

 「生きてから必ず復讐してくれる!」

 「復讐?そのような小さな感情にこだわるからこそ、あなたは天使達の上に立つのに相応しくないのです」

 ソフィスアースが光の剣を出し、横に払ってきた。シェランドンは、天使の羽を出現させ跳躍して攻撃をかわそうとしたが、剣の軌道が上へと変わった。剣先がシェランドンの腹に触れ、血が吹き出てきた。

 「ぐぬううう!」

 シェランドンは地面に落ちた。おびただしい血が流れ、もはや無事ではいられないのか確かであった、

 「ソフィスアース、殺すな。生かして裁きを受けさせるのだ」

 「はい」

 ガルサノの命令に従順に応えるソフィスアース。幾度となく愛撫したソフィスアースの美しい足が近づいてくるのが見えた。あの美しい四肢も、今では憎悪の対象でしかなかった。

 「無様な死ぬくらいならば……」

 シェランドンは最後の力を振り絞った、腹を抑え立ち上がったシェランドンは、あの謎の少年が出現してきた穴に向かって駆け出した。

 「止めろ!」

 スロルゼンが叫ぶが、遅かった。シェランドンの体は穴に向かって宙に浮いてきた。

 「我が亡き後、天使など滅びるがいい!」

 それがシェランドンの最後の言葉となった。落下していく中、閉ざされていく意識の中で何かが絡み付いてくる感触がした。それはシェランドンに強く巻きつくと、急激に魔力が奪われていくのが分かった。

 『今しばらく生かさねばならんのでな。最後に天帝の養分となれるのだから、天使冥利につきよう』

 どこからともなく聞こえた声がシェランドンが耳にした最後の声であった。しかし、その言葉の意味するところを考える時間もなく、シェランドンは天使としての生を終えた。

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