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天使と悪魔の伝説  作者: 弥生遼
第三十三章 裁かれしもの
207/263

6

  「こ、これはどういうことだ……。貴様ら、牢に入っていたはずだが……」

 シェランドンは完全に色を失っていた。無様に腰を抜かし、あわあわと口を震わせていた。

 「我々には協力者がいて、牢から出してくれたのだ。気がつかなかった己の無能を悔やむことですな」

 とガルサノが言うと、その背後からすっと姿を見せたのはソフィスアースであった。

 「ソ、ソフィスアース!そんな男の甘言に騙され裏切ったのか!」

 「裏切り?違いますな。もともと彼女は私の部下なのですよ。あなたのもとに間者として潜り込ましていたのですよ」

 あざ笑うように口元を緩めるガルサノ。あまりに急な展開にエシリアは状況を飲み込めずにいたが、ひとまずは危機は回避できたらしい。

 「シェランドン。貴様の罪は明らかだ。武力を持って天界に混乱をもたらしただけではなく、そこのお嬢さんが告発したドライゼンのこともある。大人しく裁きを受けろ」

 スロルゼンは言い様には威厳があった。シェランドンに賛同して彼の側についた執政官達も完全に萎縮していた。

 「違うのです、スロルゼン様。私はシェランドンに騙されていたのです」

 開口一番、言い訳を述べたのはメキュートスであった。立ち上がり、許しを請うようにしてスロルゼンに顔を向けつつ、糾弾するようにシェランドンを指差した。

 「う、裏切り者!」

 シェランドンが叫び、閃光が走った。シェランドンが放った光線がメキュートスの喉を貫いた。メキュートスの喉から血か間欠泉のように噴出し、一言も発さぬままどさりと倒れた。

 「こうなれば一戦交えるのみだ、シェランドン」

 と立ち上がったのはブルゲアノスであった。ブルゲアノスは執政官の序列的にはスロルゼンの下位に立たされているが、実力者であるのは間違いない。シェランドンの反乱が一時的に成功したのも彼の影響力によるところも大きい。

 『このままでは天界を二分する戦いになる……』

 エシリアは、何とかせねばと思いながらも、どうにもできない自分に身もだえするような不甲斐なさを感じた。

 「ブルゲアノス。貴様を相手するとなると骨が折れるな……」

 「シェランドン。ここを突破し、味方の軍勢と合流するぞ」

 まさに一触即発であった。この場を収められるとすれば天帝しかいないであろう。しかし天帝はあの状態である。

 『もうこうなったら、このどさくさに紛れて逃げるしかない』

 エシリアがそう思い始めた時であった。床が揺れ始めたかと思うと、音を立てて何かが床を突き抜けて飛び出してきた。それはあまりにも眩い光であった。

「シ、シード君……」

 光の主はシードであった。八枚の光の翼を大きくはためかせていた。その姿があまりにも神々しく、エシリアはしばらく見惚れていた。

 それはその場にいた他の者も同じであったろう。あまりに唐突な出来事に驚きながらも、神々しさに言葉を失っているようであった。

 「エシリアさん、脱出しますよ」

 エシリアの姿を見つけたシードが舞い降りてきた。あまりにも眩しくてエシリアは目を瞑ってしまったが、それに気がついたシードは翼を消した。

 「シード君。力を自在に使えるようになったんですね?」

 「ええ。それにユグランテスの記憶も」

 エシリアは、えっと言う言葉を飲み込んだ。それは本当なのだろうか、と疑う間もなく、嬉しくて嬉しくてシードの飛びつこうとしてしまった。しかし、スロルゼンから発せられた声にエシリアは我に返った。

 「誰だ、貴様は?天帝様より数多い光翼を持っているだと……」

 スロルゼンの顔が驚愕の色に染まっていた。それはガルサノも同様らしく、唖然と口を開けていた。やはりスロルゼンもメトロノスの語った天帝の秘密を知らないらしい。

 「エルマさんはマさんと先に脱出しました。ここにいる必要はもうありません」

 シードはスロルゼンの存在などまるで意に介していないようであった。

 「答えろと言っている!」

 スロルゼンが光球をシードに投げつけてきた。背を向けていたシードであったが、ぱっと翼を一枚広げ、スロルゼンの光球を打ち消した。

 「馬鹿な……」

 「捕らえろ!あれは堕天使だ!」

 驚愕するスロルゼンの横でガルサノが武装している天使に命じた。しかし、誰一人として動く者はいなかった。

 「争うのなら勝手にすればいい。僕達を巻き込むな!」

 シードはエシリアを懐に抱き込むと、再び八枚の翼を出現させた。

 「エシリアさん、ちょっと我慢してくださいね」

 シードは優しく言うと、ふわりと体が浮いた。あっと思ったのも束の間、シードは壁を突きぬけ、瞬く間にラピュラスを眼下に見下ろしていた。

 「す、すみません。まだ力を上手く使えなくて……」

 「大丈夫ですよ。任せます」

 エシリアはシードの胸に顔を預けた。伝わってくる体温は暖かく、心臓の鼓動はひどくエシリアを安心させてくれた。

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