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天使と悪魔の伝説  作者: 弥生遼
第三十二章 天帝
197/263

3

 祠から伸びる通路は、緩やかな傾斜で地下へと続いていた。しかも方角はイピュラスの方に向いているようであった。

 「地下通路っていい印象ないよな。誰かの墓の時のことを思い出しちまうぜ」

 エルマが言っているのは、マランセル公爵の墳墓のことだろう。あの地下には魔力を抽出する措置があった。

 「そうですね。私もいい思い出がありません」

 あそこでエシリアはアレクセーエフと対峙した。天使の存在に疑いを持つきっかけとなった場所だ。

 「あれ、行き止まりだ……」

 マ・ジュドーについて先頭を歩いていたシードが立ち止まった。

 「あん?ぶち破るか?おっさんはいなくても、私がいれば……」

 「お止めなさい。天帝様の住処で乱暴は真似が許しませんよ」

 「喧嘩はやめてくださいよ。ちょっと押してみますから……」

 とシードが行き止まりの壁に手が触れた時であった。ぱっと壁が光ったかと思うと、次の瞬間にはその壁が消えていた。

 「あ、あれ?」

 シードは驚いているが、エシリアは確信した。シードは間違いなく天使であると。問題なのはどういう天使であるかということである。

 「大丈夫ですか、シード君」

 「ええ、どうやらここで終着地点のようですね」

 どうやら広間に出たようであった。エシリアはぱっと手のひらに光球を出してあたりを照らした。かなり広い空間のようで光が行き渡らず、どういう所なのか全然分からなかった。

 「もっと光を強くしてみましょうか……」

 「はん。面倒くさいな。私が炎の海にしてやるよ」

 お止めなさい、とエシリアが言おうとした時であった。点々と深い緑色の光が灯篭のように点き始めた。

 「その必要はない。待っておったぞ」

 老いた声が響いた。エシリアは思わず身構えた。

 「誰です?姿を見せなさい」

 「姿を見せてやりたいのは山々だが、とうの昔に姿を失っていてな。今や魂のみが生かされているのみだ」

 「何を言っているのです……。あなたは?」

 「名か。名などもはや意味のないものだが、皆はメトロノスと呼ぶ」

 メトロノス。しばらく考えてエシリアははっとした。その名は、かつて千年前の聖戦において、天帝と共に戦った天使の名前である。

 「そんな馬鹿な……。いくら天使が長寿とはいえ、千年前の天使が生きているはずが……」

 「信じられぬと言うのであれば仕方がないがな。だが、その疑いは真実を遠ざけることになるかもしれんぞ」

 そう言われても信じられないことは信じられなかった。しかし、信じられぬことなら今日まで何度も目の当たりにしてきている。だから力強く否定できなかった。エシリアの常識は揺らいでいた。

 「ほほ。別にお嬢さんを困らせるつもりはない。だがな、真実を語れる者というのは、その時生きていたのみなのだよ」

 これが真実だ、とメトロノスが言うと、緑の光が強くなってぱっと明るくなった。

 「……これは……」

 エシリアは絶句した。異様な、あまりにも異様な光景であった。

 巨大なガラスの向こう側に異形の者がいた。一言で言えば骨の集まりであった。かつては生物だったのだろうか、角の生えた頭部に肋骨の胸部、下半身は確認できなかった。但し、背中にはかつて翼であっただろう骨格は確認できた。そして、その各所に管が取り付けられており、絶えず何かが流動していた。

 「まさか……これは……」

 エシリアはその先を言えなかった。言えばエシリアの天使としての何かを失ってしまいそうであった。

 「そう。これが天帝だ」

 いや、かつて天帝と呼ばれていた存在だ、とメトロノスは訂正したが、その言葉はすぐにエシリアには届かなかった。

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