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天使と悪魔の伝説  作者: 弥生遼
第三十二章 天帝
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1

 我が世の春が来た。武力による権力奪取に成功したシェランドンは、万感の思いであった。ようやく、ようやく手にした絶対的な権力であった。

 武力蜂起に関しては多少の流血は発生したが、戦闘が長引くことなく、すぐに鎮圧された。現在ではシェランドン達に抗おうとする者はいない。概ねシェランドンの計画どおりであった。

 シェランドンはひとまずブルゲアノスを首座においた。武力蜂起の際、主力となったのはブルゲアノスの兵力であるし、武装蜂起前の序列も彼のほうが上である。これはやむ得なかった。

 しかし、実際にはシェランドンが主宰しているといってよかった。ブルゲアノスはすでに老齢であり、権力欲さえあれ、政治を総覧したいという野心には乏しかった。要は祭り上げてお飾りにしておけばそれでよかった。

 早速、シェランドンは権力者の特権を最大限に行使した。執政官の首座にはブルゲアノスを置き、自らは次席に収まった。そして自分のお気に入りの天使達を執政官に登用した。その中に、シェランドンの懐刀として武装蜂起を手伝ったソフィスアースも入っていた。有志以来、最年少の執政官であり、執政官となった初の女性天使であった。

 そしてシェランドンは、もうひとつの権力者の特権を行使することにした。それは旧権力者をいたぶることであった。

 

 「いかがですかな?一日にして権力の頂点から転げ落ちた気分は?」

 シェランドンは、イピュラスの下層に設けられている牢獄を訪れていた。鉄格子の向こう側でスロルゼンは目を閉じて端座していた。

 「転げ落ちたのではないな。お前が突き落としたのだろう」

 スロルゼンはシェランドンの方を見ることなく答えた。その余裕のある言い方が癪に障った。

 「そういうことになるな。二度と這い上がることのできない谷底にな」

 開けろ、とシェランドンは牢を開けさせ、中に入った。

 「かつての執政官首座にお聞きしたいことがある」

 「ほう?」

 「あなたしか知らぬこと、天帝様のおられる場所のことです」

 スロルゼンの顔色が僅かに変わった。やはり思ったとおりである。天帝にいる場所は天界院でも秘事中の秘事であり、天帝と対面できるのも執政官の首座だけであった。謂わば天帝と対面すると言うのは、執政官首座の特権であった。

 「妙なことだな。貴様はあくまでも次席だ。そのことを聞く立場にあるのはブルゲアノスであろう」

 スロルゼンはすっかり落ち着くを取り戻していた。尤もな正論である。

 「あの老人はただ権力という椅子のみに興味があるだけだからな。なかなかその椅子から立とうとしないから、私が来たのだ」

 「ふむ。で、お前が天帝様に会おうと言うのか?会ってどうすると言うのだ?会ったところで、天帝様はお怒りになるかもしれんぞ?天界の秩序を乱した不埒者め、とな」

 ぞわりと背筋に悪寒が走った。その可能性は否定できなかった。だが、それを畏れていては、いつまでもシェランドンは、今以上の地位に上ることはできなかった。

 「それこそ天帝様にお会いしなければ分からぬこと。存外、よくぞスロルゼンを排除したとお褒めいただけるかもしれませんぞ」

 「天帝様はそのようなことは申されまい」

 「はっ!どうしてそう言い切れる!」

 シェランドンはスロルゼンの肩を蹴った。スロルゼンが横倒しになった。

 「もともと気に入らなかったのだ。どうして天帝様にお会いできるのは執政官首座だけなのだ。天帝様すべての天使のものであろう!」

 答えろ、とシェランドンは凄むが、スロルゼンは動じなかった。

 「分かっているぞ。天帝様と直接会える。それこそが執政官首座の特権であり、首座の権威を高めている。だから、貴様は天帝様を独占しているのだ!」

 赦しがたいことだ、とシェランドンは倒れたままのスロルゼンの背中を蹴った。気丈であったスロルゼンも、ううっと呻き声を上げた。

 「言え!どこに天帝様はおられる!言わぬか!」

 「そこまで言うのなら会ってみるがいい。天帝様はこのイピュラスの最下層におられる」

 この牢獄よりも遥かに下だ、とスロルゼンは言った。

 「地下への行き方は知っておろう。しかし、天帝様がおわす階層には、天帝様が認めた天使しか開かないようになっている。お前が天帝様に認められているかどうか、試してみるがいい」

 それは本当か、とシェランドンは言いそうになった。もしシェランドンが天帝に認められず対面できなければ、シェランドンの政治的地位に陰りを見せてしまう。ある意味それは賭けであった。

 「試してみるさ。天帝様が私を認めてくだされば、お前は終わりだ」

 シェランドンとしては、そう強がるのが精一杯だった。シェランドンがスロルゼンの牢を出ると、その正面の牢に入っているガルサノと目が合った。ガルサノは非常に落ち着いた表情のまま、挑むような視線をシェランドンに向けていた。

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