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天使と悪魔の伝説  作者: 弥生遼
第三十一章 天界動乱
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 様子がおかしい。エシリアがそう気がついたのは、朝起きてすぐのことであった。エシリアの家がある一帯は、ラピュラスでも郊外にあり、一日を通じてとても静かなのである。それにも関わらず、家の外がどうにも騒がしく、エシリアは窓から外を見てみた。

 「これは一体……」

 道の辻々に武装した天使達立っており、様子見に出てきた近隣の天使達を睨むようにして監視していた。一瞬、シード達のことがばれたと焦ったが、それならばエシリアの家なりシードの家なりを包囲していてもおかしくない。しかし、そのような様子はなく、武装している天使達も周囲を警戒している程度で、襲ってくることはなさそうであった。

 「でも、何かが起こったのは確かのようですね」

 エシリアは寝巻きのまま裏口を通ってシードの家に向った。シード達も異変に気がついていたらしくすでに起きていた。エルマはカーテンの隙間から外の様子を伺っていた。

 「おい、これはどういうことだ?」

 食い入るように外を見ていたエルマが振り返った。

 「分かりません……」

 「僕達のことがばれたわけではないようですけど……」

 シードは心配そうにエルマの肩越しにちらっと外を見た。

 「おそらくはそうでしょうけど……。ちょっと様子を見てきます」

 エシリアは自宅に戻り、着替えてから外に出た。

 外に出てみると、物々しさはより感じられた。ぴりぴりとした空気が肌身に刺さるようであった。

 「どうしたのです?これは?」

 エシリアは同じく外に出ていた向かいの男天使に小声で尋ねた。

 「分からん。わしも起きたばかりだが……」

 すでに天使としての任務を終え、老境にあるこの天使は、不安そうに佇立している天使達を眺めていた。このままでは埒が明かぬと思ったエシリアは思い切って武装している天使に聴いてみることにした。

 「私はエシリアと言います。これはどういうことですか?」

 エシリアは近くにいた武装した天使に歩み寄った。その天使はエシリアに一瞥をくれることもなく、無表情のまま沈黙していた。さながら石像のようであった。

 「だんまりですか……」

 エシリアは苛立ちを隠さなかった。これ以上何を尋ねても無駄であろう。エシリアは一度家に戻ることにした。

 「どうでしたか?」

 シードが心配そうに聞いてきた。

 「何も喋りませんでした。どうやら尋常ではないことが起こっていそうですね」

 「あれだな。まるで武力制圧した町みたいだな」

 エルマが嬉しそうにくくっと喉を鳴らした。

 「そんな馬鹿なことが……。我々は天使ですよ」

 と言いながらも、シェランドンやドライゼンの例もある。それに天使の中でも党派がある。エシリアがアレクセーエフにくどくガルサノ一派に加わるように薦められたこともある。その党派争いが抉れた可能性もなくもないのだが、武装蜂起にまで至るとはとても思えなかった。

 「天使だろうが悪魔だろうが人間だろうが関係ないだろう。知能のある生物がいれば争いは起きる。畜生だって縄張り争いをするんだぜ。天使だけが特別なんてことはないだろう」

 「一緒にしないでください……。魔界でもあったんですか?そういうこと」

 「あったさ。現に私はそれが嫌で魔界を飛び出してきたんだ」

 エルマが煩わしそうに応えた。さらに突っ込んだ質問をしてエルマの素性を探ろうと思ったが、今はそれどころではないだろう。天界で起きている異変を知るほうが先決であった。

 「こうなったら隠密を使うしかありませんね。球体さん、いますよね」

 エシリアが天井に向って語りかけると、マ・ジュドーが姿を現した。

 「何でい何でい。おっかねえからずっと隠れていたのによ」

 「あなたのその微弱な魔力ならほとんどの天使が気づきません。ちょっと姿を消して、天界で何が起こっているのか調べてきてください」

 「はん!何で俺が天使の姉ちゃんの言うことを聞かないといけなんだ。断固拒否する!」

 「行ってこいよ、表六玉。私も何が起きているの知りたい」

 エルマが言うと、そんなぁとマ・ジュドーは情けない声を上げた。それでいながら窓をすり抜けて出て行った。素直な使い魔である。

 

 マ・ジュドーが戻ってきたのは夕暮れ時であった。

 「いや~大変だったよ。天使達に気づかれたら元も子もないから、付かず離れずで聞き耳立ててよ。いつかばれるんじゃないかとはらはらで……」

 「球体さん、自慢話はいいですから詳細を話してください」

 エシリアが促すと、ちっとは労ってくれよ、と文句を言いながらもマ・ジュドーは情報収集の成果を語った。

 その内容はエルマが発した武装蜂起という言葉そのものであった。ブルゲアノス、シェランドン、メキュートスが主導し、武力を持ってスロルゼン達を拘束し、権力を奪取したのであった。

 「一応、戦闘が起こっている様子はないようだな。でも、天界の各所で武装した天使達が立っているみたいだな」

 「首謀者はシェランドンですかね……」

 「首謀者なんてどうでもいいだろう。で、これからどうするんだよ。こんなすっちゃかめっちゃかな状態じゃ、シードのことなんて調べることもできないだろう」

 エルマの言うことは尤もであるかもしれなかった。しかし、これを逆に利用すればあるいは……。

 「いえ、エルマさん。これを好機としましょう。この混乱を利用してイピュラスに忍び込み、天帝様にお会いしましょう」

 こうなれば直接天帝様に訴えるまでです、とエシリアが言い切ると、流石のエルマもあんぐりと口を開けたまま絶句していた。

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