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天使と悪魔の伝説  作者: 弥生遼
第三十一章 天界動乱
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2

 どうすべきか。シェランドンは失いそうになる意識を懸命に高ぶらせながら、打つべき手を考えねばならなかった。屋敷に戻るとすぐに腹心であるソフィスアースを呼び寄せた。

 「どうすればいいか?もはや後がなくなっている」

 シェランドンは深刻な顔をソフィスアースに向けた。生真面目な彼女はシェランドンが椅子を勧めても座らず、従順な衛兵のように扉の前で佇立していた。

 そもそも、教会をして人間界の治安を維持させるべしと助言したのはこのソフィスアースであった。それでもシェランドンがソフィスアースを責めないのは、それだけシェランドンが彼女を妄信しているということであり、失策の責任はドライゼンにあると考えているからであった。

 「もはや一刻の猶予もありません。実力を持って制するしかありません」

 「実力?」

 シェランドンは聞き返したが、それの意味するところは十分に承知していた。シェランドンとしてもその選択肢を考えないでもなかったが、あまりにも恐ろしく危険なので口にするのを避けていた。それをソフィスアースは平然と言ってのけた。

 「ガルサノの存在を快く思っていない天使達は多いはずです。彼らと語らい、武力を持って天界院を制してしまえばよいのです。そうすれば、シェランドン様の地位を脅かす者などいなくなります」

 理屈としては分かる。今のシェランドンの立場を一発逆転でひっくり返すには確かにその方法しかないように思える。しかし、あまりにも危険であるのも事実であった。

 「ガルサノの身辺はどうか?」

 現在、ソフィスアースはガルサノの下にも出入りしている。勿論、ガルサノ身辺の情報を探るためである。

 「ガルサノに心寄せる天使はおりません。誰しもが彼の怜悧な頭脳とあくの強さを嫌っています」

 「さもあろう……」

 「さらに申し上げれば、スロルゼン様がガルサノに気にかけていることを面白く思っていない天使も多いです。その批判はスロルゼン様にも集まっております」

 「ふうむ……」

 シェランドンは目を閉じ考えた。スロルゼンは執政官の首座であり、実質的には天界の頂点の立つ天使である。シェランドンから見れば抗いがたい絶対的権力者である。しかし、スロルゼンはその権力に長年胡坐をかいているのではないか。

 『私の責任を問うのであれば、首座であるスロルゼン様も責任を問われるべきではないか……』

 そう思うと腹が立ってきた。スロルゼンとて天使の一員ではないか。己だけが責任を負わされ権力の場から追放されるのは我慢ならなかった。

 「やるか……」

 シェランドンは決意を固めた。このまま座していてもシェランドンはその立場を追われるだけである。それならば一発逆転の手法で一気に権力を手に入れてしまうべきであろう。きっとソフィスアースもそれを望むからこそ進言したのだろう。

 「できるか?この私に?」

 「シェランドン様以外におられません。不肖、私も最後までお付き合いさせていただきます」

 ソフィスアースが膝を突き、恭しく頭を下げた。シェランドンとしても彼女がいてくれれば心強かった。

 「勿論だ。こうなればお前と私は一心同体だ。いろいろとあてにしているぞ」

 光栄でございます、とソフィスアースは言った。その声に満足したシェランドンは、鷹揚に頷いてみせた。

 

 それからのシェランドンの行動は素早かった。日頃からガルサノへの不満を口にしている執政官二名に接触し、味方に引きずり込むことに成功した。一名はメキュートス。執政官序列五位であり、彼もガルサノの台頭によりその地位が危ぶまれる天使の一人である。

 もう一名はブルゲアノス。こちらは執政官序列三位である。彼からしてみればガルサノというよりも、真上にいるスロルゼン、ゼルハンが邪魔であった。この二名がいる限り、さらなる高みを目指せないと考えたのだろう。二つ返事でシェランドンの計画に賛同してくれた。

 ブルゲアノスを味方に引き入れたのは大きかった。執政官序列三位だけに天使達への影響力も大きく、彼の一声で動かせる天使の数もかなり期待できる。

 そしてブルゲアノスは老齢である。計画成功のあかつきには、ひとまずブルゲアノスを執政官の首座に据えておいても、それほど待たずして首座の地位がシェランドンに転がり込んでくるだろう。

 『あとはやるだけだ』

 シェランドンは計画を練りつつ、来る日を待った。

 そして実行の時がやってきた。ちょうどエシリア達が天界に戻ってきたその日の夜のことであった。

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