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天使と悪魔の伝説  作者: 弥生遼
第三十章 遥か雲の上へ
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3

 天界へと戻る朝。大聖堂の玄関にシードとエルマが二人で姿を現した。それを見た瞬間、エシリアはほっと息を吐いてひとまず安堵した。心のどこかでエルマがまたシードを浚って逃げるのではないかと思っていたのだが、どうやら杞憂であったらしい。

 「決心がついたようですね」

 「はん、当たり前だ。でも、自分の正体がどうのこうので天界へ行くんじゃねえぜ。天界を征服しに行くんだ」

 そう息巻くエルマの隣でシードがくすくすと笑っていた。どうやらシードが説得したらしい。そんな二人を見ていると、ちょっと嫉妬してしまいそうだった。

 「その心意気は結構ですが、私の仕事が終わるまでは自重してくださいね」

 エシリアがそう言うと、エルマが目を丸くした。彼女にとっては予想外の発言だったのだろうが、エシリアは本気であった。

 『最悪の場合、エルマさんに大暴れしてもらわなければならない……』

 エシリアが成そうとしていることは、天界をひっくり返す可能性を秘めていた。その場合、天界が有史以来の大混乱に陥ることは必至であった。その混乱を収めるとすれば、武力でしかないとエシリアは考えていた。

 『いけませんね。天使のくせに物騒になってきました』

 エシリアは自嘲しながらも、そうならないように事を進めねばと思った。

 「さて、時間も惜しいですから行きましょうか。球体さん、いるんでしょう?」

 エシリアが宙に向って言うと、黒い球体がふっと姿を見せた。エルマの使い魔マ・ジュドーである。エシリア達が総本山エメランスにいる間、ずっと息を潜めていたのだ。

 「お、俺はいかねえぞ。ここだって虫唾が走っているんだ。天界なんぞに行けるか!」

 「駄目ですよ。あなたも十分に気になる存在です。天界へ来るんです」

 「ふ、ふん。行くかよ!」

 マ・ジュドーは強硬に突っぱねた。

 「じゃ、じゃあ!私と一緒にいましょう!」

 見送りにきたレンがぴょんぴょん飛び跳ねながらマ・ジュドーを掴み取ろうとした。それも嫌だな、とマ・ジュドーはレンから逃れようとした。

 「おい表六玉。でめぇ、私の使い魔なのに勝手なことするんじゃねえよ」

 お前は来るんだよ、とエルマは飛び上がってマ・ジュドーを掴み取った。レンが寂しそうに手を引っ込めた。

 「さて、そろそろ参りましょうか。レンさん、何かと大変ですがよろしくお願いいたします。例の記録球のこともよしなに」

 「はい。お任せください」

 「ガレッドさんも頼みます。今のレンさんを守れるのはあなたしかいませんから」

 「承知でござる」

 ガレッドは力強く頷いた。

 「では。シード君は私の手を握って。エルマさんはご自分でどうぞ」

 シードがおずおずと手を握り、エルマは、言われなくてもそうするよ、とぶっきら棒に言った。

 エシリアはシードを掴んだまま上昇した。うう、とシードが呻いた。

 「少しの間辛抱してください」

 振り返るとシードは強く目を瞑っていた。エルマはちゃんと付いて来ているようだ。

 しばらくして雲を突き抜けると、エシリアは上昇するのを止めた。ラピュラスの周回軌道を考えれば、この近くを通るはずである。

 「おい、天界とやらはどこにあるんだよ」

 エルマが身を寄せてきた。

 「そろそろ見えてくると思うんですが……」

 「あれじゃないですか?」

 目を開いていたシードが指差した。その先に宙に浮いている小さな点のような物体があった。間違いなくラピュラスである。

 「はあん。あれが天界ね。ただの石っころじゃねえか」

 「失礼な言い方をしないでください、エルマさん。石っころじゃありません。あの上に都市が広がり、多くの天使達が……」

 「そんなことどうでもいいよ。さっさと行こうぜ」

 「そうですね。いつまでもシード君を宙吊りにしておくわけにはいきませんから」

 エシリアが両手を握ってぶら下がっているシードを見た。シードは苦笑いをしながらも、少々辛そうな顔をしていた。エシリア達はラピュラスに接近していった。

 「私は正規に正面から入りますが、シード君とエルマさんは夜になるまで外壁の周囲で待機しておいてください」

 エシリアはシードを外壁傍に置いた。人一人が立てるほどの幅しかなく、一歩足を踏み出せば空へと真っ逆さまである。

 「おいおいマジかよ……。私らを殺す気か?」

 「別に正面から入っても構いませんが、シード君ならまだしも悪魔を自称するエルマさんが正面きって入ったらそれこそ殺されますよ」

 「自称じゃねえよ!」

 「では、シード君。もうしばらく辛抱してくださいね」

 エシリアはエルマの抗議を無視して、ラピュラスの正門である天地門へと向った。

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