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天使と悪魔の伝説  作者: 弥生遼
第三十章 遥か雲の上へ
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1

 サラサとジロンがエメランスを出発した頃に話は戻る。

 ドライゼン亡き後、エメランスに駐在する天使はエシリアが代理を務めていたのだが、天界よりようやく新たな駐在官が派遣されてきた。

 新たな駐在官はエシリアの上司を務めていたクレモアであった。このことはエシリアを安堵させた。

 『クレモア様なら安心できる』

 クレモアのことはよく知っていた。どの派閥にも属していないし、その仕事ぶりは公平で誠実であった。地上での政策も悪くならないだろう。

 だが、それでも一連の事件のことをクレモアに話すつもりはなかった。彼女を巻き込みたくなかったし、彼女の力で解決できるとも思えなかったからだ。

 『はやり執政官の誰かを捕まえなければ……』

 エシリアは一刻も早く天界へ戻ろうと考えていた。エシリアはクレモアに業務を引き継ぐと、すぐにシードとエルマ、レンとガレッドを呼んだ。


 「前にも言いましたが、新しい駐在官が天界から来ましたので、私は天界へと戻ります。つきましては、シード君。一緒に来てもらえますね」

 一同が集まると、エシリアはまずシードに確認した。天帝を上回る八枚の光翼を持つ少年は、素直に頷いた。この少年が何者なのか、それを解き明かさなければならない。

 そしてそれはシード自身も思っていることでもあった。当初は自分の正体を知ることに消極的であったシードも、仲間と旅を続けているうちに随分と前向きになったようである。

 「あなたもですよ、エルマさん」

 悪魔と自称する少女。彼女もまた謎の存在である。エシリアに匹敵する、あるいはそれ以上の魔力を秘めているエルマ。彼女が本当に悪魔だというのなら、それも納得できる話であるが、エシリアは悪魔の存在そのものを疑っていた。

 『本当に悪魔がいるのかどうか……』

 エシリアは長いこと人間界で教化を行ってきたが、悪魔というものを見たことがなかった。天使の中には実体こそ見せないが、人間界に災いの種を撒き散らしているのは悪魔だと主張するのも少なくなかった。エシリアも半ばその主張を信じて生きてきた。しかし、アレクセーエフやドライゼンのような天使を目の当たりにしてきたエシリアからすれば、災いを撒き散らしているのはむしろ天使の方であると思わざるを得なかった。そうなれば、悪魔の仕業とされてきた人間界での様々な過去の災いも天使がしかけたことではないだろうか。そう考えると、必然と悪魔の存在を疑うことになってしまう。

 『天帝を疑うなかれ、悪魔の存在を疑うなれ、という言葉もどうにも胡散臭いですね……』

 エシリアはそこまで考えるようになっていた。天界では悪魔の存在を疑うのは禁句とされてきた。悪魔の存在を否定することは、千年前の聖戦の存在自体も否定することになる。だから、悪魔を疑うような言動は、査問の対象となっていた。下手をすれば、天界を追放される重い処分も待っていた。

 『構うものですか!天界を追放するならいくらでもすればいいのです』

 エシリアは完全に開き直っていた。なんとしてもシードとエルマを天界へと連れて行き、すべての謎を解き明かせてやりたいと強く思っていた。

 「いいですね、エルマさん」

 エシリアはエルマに念を押した。普段なら、行かねえよ、とか言って悪態をつくエルマであるが、不機嫌そうに黙ったままそっぽを向いていた。

 「エルマさん、行きましょうよ」

 シードが優しく誘っても、エルマは彼のことをまともに見ようともせず、黙ったままだった。エシリアは次第に腹が立ってきた。

 「エルマさん、何か仰ったらどうです?あなたはこれまで過去と向き合おうとしないシード君に散々なことを言ってきたようですが、自分のこととなるとだんまりですか?」

 そう言ってやるとエルマは鬼の形相で睨んできた。しかし、反論はしなかった。きっとエシリアの言っていることを正論と認めているのだろう。

 「まぁいいです。嫌だと言うのなら、構いません。私達は明日の朝、出発しますから」

 エシリアが冷たく言い放つと、勝手にしろ、とようやく小声で呟いた。エシリアはふうとため息をついて、レンの方に向き直った。

 「それからレンさん。これを持っておいてください」

 エシリアはレンに小さな球体を手渡した。

 「これは……」

 「私が持っている記録球の複製です。例のドライゼンとの会話が記録されています」

 そう言うとレンの手が僅かに震えた。

 「万が一、私達が天界に行って半年、戻らなければこの記録球の内容を帝国全土に公開してください。一体どうなるか分かりませんが、天使の悪行を知ってもらわなければなりません」

 「分かりました……。でも、できる限り公開しないことを祈っています」

 「私もそうしないように頑張ります」

 と言いながらも、そのためにはエルマの力はやはり必要であった。

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