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天使と悪魔の伝説  作者: 弥生遼
第二十七章 深い森を抜けて
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5

 一晩で築き上げた砦。その資材はエスティナ湖北方の森林から切り出されたものだが、単に切り出しただけではなかった。木を伐採した跡を綺麗に舗装し、軍が通れるような道へと作り変えたのだった。そしてその道はレンベルク要塞の東側へと通じていた。

 『砦を作るのは一種の陽動だ。まぁ、実益を兼ねた陽動ということだな』

 奇術のような手段で砦を作れば当然ながらそちらに目がいく。その間に森林を舗装し、大軍を通る道を完成させたのだ。

 この作戦が成功するとサラサが確信したのは、その初動段階であった。クーガの第三軍がエスティナ湖の北部で木の伐採を始めるにあたり、敵の妨害が多少なりともあると思っていたのだが、まるでなかったのだ。敵がいかに大森林を天然の要害と考えて無警戒であったかを物語るものであった。

 『敵は森林を突破してこないだろうと思っているかもしれない。だが、それは敵が思っていることで我々がそれに付き合う必要はない。レンベルク要塞は思いのほか強固だ。だったら、その戦術的価値をなくしてしまえばいい』

 サラサは砦建設の裏に隠された本来の作戦の意義をそう語った。レンベルク要塞はサラサ軍をエストブルクへと通さないために存在している。ならば他の道を通ってエストブルクを目指せばいいだけのことなのだ。

 森林を突破し、レンベルク要塞の東側に出る役目はリーザの第四軍が担った。それにクーガの第三軍が続き、ネグサスの第二軍は、レンベルク要塞の南の支城に圧力を加えていた。

 『敵がそれなりの戦術眼を持つ者なら全軍を持ってリーザの第四軍を迎え撃つだろ。ネグサスは機を見てレンベルク要塞を奪取しろ』

 ネグサスはサラサの命令に無言で頷き、南へと軍を動かした。

 『リーザの第四軍は森林を抜けたら一直線にエストブルクを目指し砦から出撃した敵を誘引しろ。機を見て反転して隊列を乱した敵に襲い掛かれ。クーガの第三軍は、その背後を襲うんだ。上手くいけば理想的な挟撃ができる』

 名誉挽回の機会を得たリーザは喜び勇み、クーガは微笑を湛えながら拝命した。


 大森林を抜けたリーザ軍は、サラサの命令どおり只管南下してエストブルクへと向った。

 「名誉挽回だ!このままエストブルクに一番乗りしてやる」

 リーザ自ら先頭に立ち、馬を走らせた。リーザの大胆さは、エストブルクへの進撃を始めるにあたり、兵糧をほとんど携帯しないで出発したことにあった。素早く進軍するには、兵站部隊はやはり邪魔になる。そこでリーザは、レンベルク要塞の東部にある敵の補給基地を次々と襲い、そこにあった兵糧を接収していったのだ。非常に無茶な方法であったが、リーザ軍に同行しているテナルが行軍行程を綿密に計画し、リーザが忠実にそれを実行していった。

 リーザがレンベルク要塞を出たバーンズの軍の動きを察知したのは、エストブルクまで後一日という頃であった。

 「ちっ!このままエストブルクを落としてやろうと思ったのによ」

 悔しがったリーザであったが、エストブルクを攻めている間に後背を襲われては元も子もない。渋々軍を停止させた。

 「おい、兵糧はどれほどあるんだ?」

 「二日分は大丈夫です。しかし、この周辺には敵の兵站基地はありませんので、それ以上は難しいでしょう」

 行きがかり上、リーザ軍の兵糧管理も任されているテナルが淡々と答えた。

 「二日で十分だ。各部隊反転。敵を強襲するぞ!」

 陣を布いて迎撃するなどリーザの戦術教科書に載っていなかった。こちらに合わせて急いで南下しているだろうバーンズ軍を襲い掛かることにした。

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