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天使と悪魔の伝説  作者: 弥生遼
第二十七章 深い森を抜けて
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4

 「夜が明けたか……」

 ベッドの上で上半身を起こしたバーンズは呆然としていた。夜更け過ぎに寝ようとしてベッドに潜り込んだものの、まるで睡魔は襲ってこずに朝日を拝むこととなってしまった。ここ数日、ほぼこんな状態である。

 『ここまで私の精神が弱かったとは……』

 これまで数知れぬ戦場を渡り歩いてきたのだが、こんなことは初めてであった。それほどにサラサ軍というのは不気味な存在であった。

 『たかが簡易的な砦はありませんか。一気に踏み潰しましょう!』

 キリンスは息荒く言うが、バーンズは首を振った。問題はそう簡単なことではなかった。

 『問題なのはここにきて敵が砦を築き上げた意図だ』

 一晩で砦を作り上げたこと自体も驚くべきことであり警戒しなければならないが、それよりわざわざ奇術めいた手段で砦を築いたことが何を意味しているかということが重要であった。

 単純に考えれば、腰をすえてレンベルク要塞攻略に乗り出したということなのだろう。では、相手はどのように要塞に攻めてくるか。それがバーンズにはまるで読めなかったのである。このことがバーンズを不安に落としいれ、睡眠を奪っていた。

 『単なる持久戦ではあるまい……。いや、しかし……』

 やはり威力偵察程度の攻撃はしてみるべきかもしれない。だが、それが藪を突いて蛇を出す結果になるかもしれない。バーンズはまるで考えがまとまらなかった。

 「た、大変です!」

 キリンスがノックもせずに部屋に駆け込んできた。例の砦ができた時と同じ光景である。バーンズの鼓動は信じられないぐらい早くなった。

 「どうした……」

 バーンズは嗄れた声を絞り出した。

 「て、敵です……」

 キリンスの声が震えていた。驚きの色を彼は隠そうともしなかった。

 「敵?」

 それほど驚くことではないだろう、とバーンズは思った。敵はいるのだから、攻めてくるのは当然のはずである。

 「どのぐらいの兵力だ。あの砦の規模ならそれほどは……」

 「ち、違います!奴らは東です!東に出現しました!」

 東に出現。一瞬、キリンスが何を言っているのか分からなかった。東はエストブルク側になる。レンベルク要塞を突破しない限り、敵が東側に出現するはずはないのである。

 「見間違いじゃないのか?」

 常識的に考えればあり得ないことである。バーンズはそう自分に言い聞かせながらも、ふと思い立ったことがあった。

 『ひょっとして敵は北の森林を抜けてきたのか?』

 しかし、あの木の多い茂った所を大軍が通過できるはずがない。バーンズはその発想を否定しようとしたが、砦を一晩で作り上げた敵ならば、そのような奇術を使うのではないかと思い直していた。バーンズは胸が痛くなってきた。

 「百聞は一見にしかずです。高楼にお越しください」

 「いや、お前が言うのだから間違いはないだろう。それよりも全軍を集めろ。出撃する」

 「全軍ですか?」

 「そうだ。敵が東側に出たとなると、この要塞の戦術的価値はなくなった。砦を守ることに固執すべきではないだろう。それよりもエストブルクが危ない」

 キリンスがはっと顔を引きつらせた。エストブルクの残存兵力は少ない。敵が一直線にエストブルクに向えばバーンズ達は補給も受けられず孤軍となる。

 やはり敵は只者ではなかった。自分はとんでもない敵を相手にしていたのかもしれない。バーンズは底知れぬ恐怖に包まれながらも、敵を迎え撃たなければならなかった。

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