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天使と悪魔の伝説  作者: 弥生遼
第二十七章 深い森を抜けて
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3

 エスティナ湖近辺に砦を作る。それがサラサの考えた作戦の第一段階であった。その作戦を諸将に示した時、すでに概要を知っていたテナルを除いては一様に驚きを隠さなかった。

 『お考えのことは分かりますが、この状況で砦を作ろうとしましても、敵軍に邪魔をされるのが目に見えています』

 ジロンの意見は常識論であった。誰しもがそう考えるのも無理なかった。

 『普通ならそう考えるだろう。だが、一晩で作る』

 サラサがそう言うと、さらに驚きの色が広がった。

 『一晩で?それは無茶です!』

 『ミラ。規模の大きな砦なら無理だろう。だが、馬防柵を幾重かに巡らせて見張り台を設ける程度なら可能だ』

 『いや、サラサ様。それでも無理です。少なくとも一週間は……』

 と意見を唱えたのはネグサスであった。彼には築城の知識があるらしく、その常識的な知識から照らし合わせれば確かに無理であろう。

 『そうだな。普通にやれば一週間はかかる。だが、こうすればいい』

 エスティナ湖を北へ行った所に森林がある。その森林はレンベルク要塞近郊に広がる森林へと続いていくのだが、敵の目からは見えにくい場所になる。ここで砦を作るための木を切り出し、その場である程度組み立てておく。そしてすべての部品が揃った段階でエスティナ湖に注ぐ川に流して運び、一晩で組み立てる。それがサラサの考えた作戦であった。

 『か、可能なのでしょうか?そのようなことが……』

 誰もが信じられぬという雰囲気であった。しばらくの沈黙があり、ようやくジロンが口を開いた。

 『可能だ。とそこの男は言っているぞ』

 サラサがテナルを指差した。テナルは恐縮しながらも、淡々と説明を始めた。人員の割り振りと作業の行程が事細かに読み上げられた。その内容は実に明晰であり、聞く者誰しもが実現できるという気を起こさせるものであった。

 『この作戦を行うにあたり、クーガには樵に戻ってもらう。ネグサスの第二軍は、引き続き南の支城を攻めて陽動をしてもらう。リーザの第四軍は……』

 サラサは節目がちのリーザに目を向けた。

 『そんな顔をするな、リーザ。お前に相応しい最高の舞台を用意してあるぞ』

 ニヤッと笑ったサラサは、作戦の続きを説明した。


 「まさか本当にできるとは思いませんでしたな」

 完成したばかりの見張り台に上ったサラサの横でジロンが感慨深げに呟いた。

 「まったくだ。テナルの事務処理能力とクーガの伐採能力は大したものだ。それらがなければ成功しなかっただろう」

 「まずはサラサ様のとんでもない発想がなければ実現できませんでしたがな」

 「とんでもない発想は余計だ」

 「いやいや、本当にサラサ様にお仕えしておりますと飽きませんな。これからも存分に楽しませていただきますぞ」

 「だから私は爺さんを楽しませるために生きているんじゃないぞ。それにこれからが本番だぞ」

 「左様でしたな……」

 ジロンが何かに気がついたらしく、腰にぶら下げていた望遠鏡を手にした。

 「敵の斥候か?」

 「そのようですな。きっと一晩で砦ができて慌てふためいていることでしょう」

 「慌てふためくのはこれからだ。リーザ軍は進発したか?」

 「はい。夜明け間もなく」

 「そうか。さて、遅くなったが朝食でも取るか。ささやかながら現場監督を務めたテナルを労ってやるか」

 サラサは梯子を降り始めた。

 「そのテナル殿ですが、実はリーザ殿の軍に帯同しております」

 「はぁ?何でだ?」

 「リーザ殿のたっての願いだそうです。地理に詳しいテナル殿の知恵を借りたいと……」

 「ふ~ん、意外な組み合わせだな。気性の強いリーザにテナルがついていけるか不安だな」

 「いや、案外上手くやっているかもしれませんぞ」

 「そうだな。人間の関係ほど分からんものはないからな」

 サラサが地上に降り立つと、一陣の風が吹き抜けていった。それがあるいは第二次レンベルク要塞攻略戦開始の合図であったかもしれない。

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