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天使と悪魔の伝説  作者: 弥生遼
第二十六章 苦悩
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4

 バーンズがレンベルク要塞に入って三日後。ついにサラサ軍が姿を見せた。

 本丸の上層からその様子を眺めていたバーンズは思わず息を飲んだ。

 見た目はみすぼらしい。着ている鎧は不ぞろいで、軍旗も安手の生地を染めたものでしかなく、絢爛な刺繍を施した帝国軍軍旗とは雲泥の差である。

 しかし、その陣容は重厚で整っている。仮に野戦で対峙として、こちらから攻めるのを躊躇うほど完成された陣容であった。

 『よほど軍事に知悉したものがいる……』

 これがサラサ・ビーロスという少女の手によるものだとするならば、とてつもない才能の持ち主と事を構えていることになる。

 『まさかそのようなこともあるまい……』

 おそらくは老練な軍師がいるに違いない。そうだとしても、恐ろしい相手なのは確かだ。

 「無用にこちらから仕掛ける必要はない。要塞に頼り、敵軍の疲労を待つ」

 バーンズは命令を徹底させるように下達した。が、この命令はすぐに破られた。北の支城に自分の部隊を収容していたルーティエがバーンズの命令を無視して出撃したのであった。

 「何たることだ!」

 副官のキリンスが修羅の如く怒り、足を激しく踏み鳴らした。

 「閣下!今すぐにでもノブールを捕らえ軍法会議にかけましょう」

 「落ち着けキリンス。それは無用だ」

 「閣下!いくらあの女が皇帝陛下の寵愛があるとはいえ……」

 「これでいい。一度痛い目に遭えば気が変わるだろう」

 「ああ……」

 とキリンスが得心したように頷いた。ルーティエは間違いなく勝てはしない。一度手痛く敗北すれば、バーンズに従うようになるだろう。それが狙いであった。我ながら悪辣であったが、ルーティエを従わせるにはそれしかなかった。

 「敗走して時には救援する。手はずだけは整えておけ」

 「承知しました」

 キリンスはどこか嬉しそうであった。


 北の支城から出たルーティエの部隊は約八百。これに対するのはリーザの第四軍約五百であった。

 「おらおら!私が将軍になっての初陣だ。恥をかかすな!」

 馬上で器用に胡坐をかいているリーザは剣を振るって指揮していた。彼女の配下には彼女の元部下も多い。血の気が荒く、個々の武勇にも優れていて先陣を務めるには最適であった。

 対するルーティエの軍はエストヘブン領の兵士ばかりで、度重なる敗戦を経験している上、皇帝の子飼いであるルーティエに親しみを感じることなどないので士気は低い。瞬く間にルーティエ軍は切り崩されていった。

 「退くな!退いた奴は反逆罪に処するぞ!」

 ルーティエは声を枯らして叫んだが、波にように押し寄せてくる味方兵を押し戻すことはできなかった。次第にルーティエの本陣にも敵が迫ってきた。

 そこへ本丸から出撃したバーンズ軍が両軍の間に割って入ってきた。流石に大将軍直属の部隊だけに精強でリーザ軍は進撃を阻止された。

 「ちっ!強いな。一度退くぞ」

 リーザは、直感的にバーンズの部隊がこれまでとは違う相手であることを察した。無理をせず、一度撤退することにした。

 「今はノーブル女史を逃がすことが先決だ。退く敵に構う必要はない」

 バーンズも目的を達した以上、無理をするつもりはなかった。

 『それにしても敵将の退際は見事だ。侮れまい』

 兵卒だけではなく、将帥も油断ならない相手である。やはり守備に徹底し、敵の疲弊を待つのが得策であろう。バーンズも馬を砦の方向に向けた。

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