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天使と悪魔の伝説  作者: 弥生遼
第二十六章 苦悩
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1

 戦場から逃げ去ったガローリーは、自軍が崩壊し、その大部分がサラサ軍に投じたことを知らずエストブルクへと到着した。ルーティエの方が先にその情報を知っていて、当然の如く激怒した。

 「一体どういうつもりですか!陛下よりお預かりした兵士を多く死なせた挙句、軍をおいて逃げ出すとは……。恥を知りなさい!」

 ルーティエは他の部下が見守る中でガローリーを罵倒した。ガローリーは顔を真っ赤にしながらも、俯き屈辱に耐えていた。 

 「貴方が無能であるから、カランブルでは反乱が起き、それも鎮められず、戦争で敗北するのです。無能すぎます、無能!貴方を採用した私も恥ずかしくなります」

 ガローリーは肩を震わせていた。自分よりも年若い女性に阿諛追従し手に入れた権力を失い、その女性から無能と罵倒され続けられる。ガローリーにかろうじて残っていた矜持が彼の肩を震わしていた。が、怒りのあまりにルーティエに掴みかかるような度胸は、ガローリーにはなかった。

 「すぐに敗残兵を再編成し、陛下からの増援を含めて出撃します。準備しなさい」

 ルーティエは自ら陣頭に立つ決意でいた。戦闘指揮に自信があったわけではないが、事ここに至って自らが出なければ彼女自身、後がないのであった。早速その準備をしようと思っていると、足元にはまだ這い蹲っているガローリーがいた。

 「まだいたのですか?命までは取りませんから、何処ぞへと行きなさい。無能でも市井で生きる知恵ぐらいはあるでしょう」

 ルーティエは懐から金貨数枚を取り出し、ガローリーの前に投げ捨てた。

 「せめてもの餞別です。お元気で」

 ルーティエは冷酷に言い渡した。ガローリーは蹲りながら落とされた金貨を拾い握り締めた。

 エスティナ湖一帯はすでに反乱軍に押さえれたと見てもいい。ルーティエは地図を渋い表情で眺めていた。エスティナ湖近辺からエストブルクまでは街道で一直線である。

 しかし、ルーティエ達にはまだ切り札があった。エストブルクまでの途中に、街道を横たわるようにして建てられた長城型の要塞、レンベルク要塞である。要塞の長さは長大で、主となる大きな街道だけではなく、複数の支道までをも守備範囲に入れている要害である。

 『ここを起点にして戦えば……』

 勝てるやも知れない。しかし、今の彼女の思考は軍事的な優劣よりも、自己の政治的思惑の方が強く作用していた。

 『いや、そんな消極的では駄目ですね。外に出て一戦し勝てなければ、陛下に対する覚えが悪くなる……』

 数の上ではまだ皇帝軍の方が多いはずである。数に頼めば十分に勝ち得る。へまさえしなければ。

 『相手は十四歳の小娘だという。私が負けるわけにはいかない』

 同じ女として負けられない矜持もある。ルーティエはなんとしても勝たなければならないと思った。

 

 だが、皇帝には別の思惑があった。

 ソーリンドル領の内紛に介入することにしたジギアスは、自分が武力介入することで内紛はすぐに片がつくと思っていた。しかし、若き領主の抵抗は頑強で、なかなか決着がつかずにいた。そこへエストヘブン領での敗報が飛び込んできたのだ。

 『これは流石にまずい……』

 この時期のジギアスは、まだ全体を見渡せる余裕があった。エストヘブン領は帝国の中心にあり、交通の要所である。ここを抵抗勢力に押さえられては、行動の自由を奪われるだけではなく、経済的にもまずい状況になる。

 『最悪、ソーリンドルから帰れなくなるやもしれん』

 だからと言って、ソーリンドル領での内紛が片付いていない以上、ジギアス自らが出向くわけにはいかない。ジギアスは帝都にいるバーンズに命令書を送った。

 『ルーティエでは心許ない。大将軍自ら出陣し、対処に当たれ』

 ジギアスとしては軍事面で全幅の信頼を寄せているバーンズに任せるしかなかった。それほどエストヘブン領での事態を重要視し始めていた。

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