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天使と悪魔の伝説  作者: 弥生遼
第二十四章 コーラルヘブン
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4

 隠し通路を出た先は、一階の食堂前の通路であった。普段であるならば、それなりに人通りの多い場所ではあるのだが、深夜とあっては人影はなかった。多くの敵兵は城の外でネグサス率いる包囲軍を警戒しているようだった。

 「城内の案内はバロード配下の者に従え。制圧すべきは城門と武器庫。それとラーベル・グラハンの身柄だ。城門を制圧する部隊を一番多くする。同時に敵兵を強襲するんだ」

 急げ、とサラサが命じると、兵士達は三々五々散っていった。サラサ自身はラーベルの身柄確保する部隊に付いていった。

 「サラサ様、グラハンがいるとすれば、何処でしょう」

 サラサは、自宅とも言うべき場所に戻ってきたことについて感傷に浸る暇もなく、行動に移さねばならなかった。ミラの質問にサラサは思考を回転させた。

 「たぶん不愉快ながら、父上の部屋だろう。あそこがこの城で一番いい場所だからな」

 こっちだ、とサラサが先頭に立って案内する。ジロンとミラを含めた二十名ほどが廊下を進む。城内は驚くほど静かであった。やはりほとんどの兵士が外に出ているのだろう。警備の兵士に遭うこともなかった。

 『これはひょっとしてグラハンも外かも知れんな……』

 ちょうど最上階である四階に達した時であった。外から鬨の声が上がった。

 「城門の制圧に成功したか?」

 サラサは窓から外の様子を伺った。城門は開かれ、敵味方が入り乱れて戦闘を繰り広げていた。まもなくネグサス率いる包囲軍も突入してくるだろう。

 このままでもサラサ軍の勝利は確定的であった。だからこそ無用な殺生を避けるためにもここの指揮官であるグラハンを拘束し、降伏させたかった。

 「急ぐぞ」

 「サラサ様、あそこ!」

 扉の前に敵兵達がたむろしていた。警備をしているというよりも、慌てふためいている様子であった。

 「何かあるな。行け、ジロン、ミラ!」

 サラサが命じるまでもなくジロンとミラは飛び出し、他の兵士達も続いた。瞬く間に敵兵を制圧し、部屋の中に入った。

 「何だ!何が起こっている!」

 部屋の中には細身の男が立ち尽くしていた。従卒に鎧を着せてもらっている最中らしく、半分寝巻き姿であった。敵が城を包囲している時に寝巻きを着て眠るなんて、神経が太いのか、ただの馬鹿かどちらかである。おそらくこの男は後者であろう。

 『こんな奴が父上の部屋を……』

 そう思うと腹立たしかった。早々にご退出願おう。

 「もう終わっていますよ。あなたは我々に敗北し、俘虜になるだけだ」

 そう言い放つと、グラハンの顔は蒼白となった。彼だけではなく、鎧を着せようとしていた従卒達も同じであった。ひとりの従卒などは手にしていた手甲を落とし、今にも泣き出しそうになっていた。

 「抵抗するなよ。そうすれば命は助けてやる」

 「貴様がサラサ・ビーロスが!小娘が生意気な!」

 グラハンは凄んで剣を抜いた。ジロンとミラがさっとサラサの前に出た。

 しかし、グラハンに続く者はいなかった。従卒達は腰につけていた剣を次々と地面に置き、両手を挙げた。

 「命を無駄にするな。こんな所で皇帝に忠節を誓って命を捨てても何も残らんぞ」

 降伏してくれ。サラサは心の底から祈った。敵とはいえ流す血は少ない方がいい、とサラサはこの戦争をはじめるにあたり密かに心に決めたことであった。

 「ぐっ!」

 グラハンは、悔しそうに呻きながらも剣を投げ捨てた。サラサはほっと息を吐いた。

 「拘禁しろ。それと外に向って叫んでやれ。お前らの大将は降伏したから無用な戦闘はやめよと」

 承知しました、とジロンがグラハンを拘禁に向った。数名の兵士達が窓を開け、グラハンが降伏した旨を叫び続けた。しばらくしてほとんどの皇帝軍の兵士は降伏した。

 帝暦一二二四年恵水の月二十八日。コーラルルージュ城は、かつての城主の娘サラサ・ビーロスのものとなった。

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