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天使と悪魔の伝説  作者: 弥生遼
第二十四章 コーラルヘブン
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2

 カランブルの蜂起を知った時、エストブルクにいるルーティエ・ノーブルは楽観していた。一地方都市の小規模の反乱。その程度の認識しかなかったから、ガローリーが上手く治めるだろうと考えていた。

 しかし、そのガローリーはカランブルを追い出され、数度にわたり奪還を試みたが、すべて失敗に終わっている。エスティナ湖近辺まで撤退したガローリーは、毎日のように援軍を要請してきていた。

 この時点でもルーティエはまだ楽観していた。皇帝ジギアスに助力を求めずとも自力で解決できると思っていた。彼女はエストブルクを空にしてでもガローリーに大軍を与え、一気にカランブルを押し潰してしまえばいいと考えていた。

 だが、カランブルを出撃した反乱軍がエストブルクを襲おうとしているという恐るべき知らせを受けてルーティエは変心した。ガローリーへの援軍を取りやめただけではなく、軍の後退を命じたのであった。

 当然ながら反乱軍がエストブルクを襲うというサラサが流した虚報である。もしルーティエが武人であったなら、これが虚報であると見抜いたであろう。数に劣る反乱軍が防衛拠点を遠く離れるというのは軍事的には無謀であり、まずあり得ないことであった。しかし、ジギアスに媚態を示すことで出世し、官僚的な才幹しかないルーティエはそのことを見抜けずにいた。この点、サラサは幸運であったと言っていい。ルーティエの決断は、サラサに大きく利することになった。

 エスティナ湖近辺に駐留するガローリーは、ルーティエよりも軍事的才能に僅かばかり恵まれていた。

 『反乱軍がエスティナ湖を迂回してエストブルクに迫っていると言う。すぐに救援に駆けつけろ』

 という上司の命令に接した時、ガローリーは多少疑問に思った。

 「反乱軍にそれほどの兵力があるのか?」

 実際に反乱軍を見てきた彼にしてみれば当然の疑問であった。何度も苦杯を飲まされ、敗北を重ねていたが、反乱軍に余剰戦力がないのは明白であった。

 だが、ガローリーもまた官僚でしかなかった。軍事的な疑問点よりも、上司の命令に従うという官僚的本能が彼の中で優先された。自分よりも若年のルーティエに対して幇間のような態度で取り入り、現在の地位を手に入れたガローリーとしては当然の判断であった。

 「ノーブル様のご命令だ。敵軍に注意しつつ、一度撤退しよう」

 ガローリーは、事務報告をするように淡々と命じた。この時すでにサラサはコーラルルージュに迫り、これを陥落させようとしていた。


 一方で、コーラルルージュを守るラーベル・グラハンは戦々恐々としていた。彼もまた武官ではなく文官であったが、ルーティエよりも危機意識を持っていた。

 「私はいずれこのような事態になると思って、度々兵力の増強を申し出てきたのに、一向に聞き入れられなかったではないか!」

 ラーベルはコーラルヘブン領の統治者としてルーティエと同格のはずであった。しかしルーティエがジギアスに取り入り、配下に置いてしまったのだった。彼にとってはこれほど面白くない話はなかった。

 それでもラーベルはその職制に従い、忍耐強くルーティエにコーラルヘブン領の兵力増員を要請してきていたのだが、ルーティエは常に無用のことであるとして退けていた。

 今回もラーベルはルーティエに援軍を要請すべきであったかもしれない。そうすれば流石のルーティエもサラサの虚報に気がついたかもしれないのだ。しかし、ルーティエへの感情をこじらせていたラーベルは、援軍を要請しなかった。

 「所詮小娘を旗頭にした無勢だ。いかほどのことがあろう。それにコーラルルージュは天下に聞こえた天嶮。そう簡単に落とせまい」

 ラーベルはそう高を括っていた。だが、彼は失念していた。コーラルルージュがサラサ・ビーロスの故郷であるということを。

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