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天使と悪魔の伝説  作者: 弥生遼
第二十三章 名もなき旗のもとに
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7

 サラサがバスクチで軍を解散した後、テナルとコーメルは、重傷のミラを介抱するため、かつてサラサを軟禁していた屋敷に戻っていた。ミラの回復は目覚しく、一ヶ月もしないうちに快癒した。やがてミラは、サラサのために働きたいからカランブルに行くと言い出したのだった。

 テナルとコーメルは、まだ養生すべきと止めたのだが、ミラは頑として聴かなかったので、二人は仕方なくミラと一緒にカランブルに潜伏することになった。

 ミラはジンと接触して彼の仕事を助け、コーメルはエストブルクとカランブルを往復する駅馬車の馭者となり、エストブルクの情報をもたらしてくれた。

 残されたのはテナルであった。自分に才がないと思いながらも、少しでもサラサのために働こうと思ったテナルは、カランブルの役人となることにした。

 新たにカランブルの主となったガローリーが連れてきた役人の中にたまたまテナルの旧知がいたのであった。テナルは彼に涙ながらに懇願した。

 『サラサ様がアズナブール都督に招待されカランブルに向われて以来、ずっと待ちぼうけでした。中央は私に何の連絡も寄越さず、気がつけばサラサ様はいずこかに去り、主家は取り潰しとなってしまいました。これはいくらなんでも無体でありましょう。どうか私に仕事をください』

 この上司は、完全に取り残されたテナルを気の毒に思ったのだろう。彼の権限でテナルをカランブルの役人に採用したのであった。テナルに任された仕事は、カランブルの食料や資材を管理する仕事であった。

 テナルは、忠実に仕事をする一方、来るべき戦争に備え、カランブルとその近郊にある食料庫や資材倉庫を悉く調べ上げ、綿密に記録していった。それだけではなく、カランブルに流れてくる食料や資材(主に馬や武具)を帳面上で巧みに操作して、地下に潜伏しているジン達に横流しをした。さらにはカランブル政庁内で同志を探し出し、いざという時の段取りまでを精密に計画していた。

 そして、カランブルで民衆が蜂起するや否や、テナルは同志達と共にすぐさま兵糧庫と武器庫を解放して蜂起軍に供給、一日にしてガローリーを放逐することに成功したのだった。

 「なるほど、人間の才能というのはどこにあるのか分からないな」

 サラサは自分の考えを改めなければと思った。テナルがそこまでの大きな仕事ができる人物であるとはまったく思っていなかった。

 「私はただできることをしたまででございます……」

 テナルはあくまでも謙虚であった。いや、彼自身、単にやるべきことをこなしたというだけで、大それたことをしたとは微塵も思っていないのかもしれない。

 「勿論、蜂起してからも我々が苦しむことなく戦えているのは、テナル殿のおかげです。彼が作り上げた資料がなければ、我らは飢え死んでいたでしょう」

 ジンの言葉にもテナルは、滅相もありません、と困り顔をしていた。見た目だけでは大きな仕事などできそうもない男だが、サラサはこの時にもう決断していた。

 『以後、後方の仕事はテナルに総覧させよう。あれはそれができる男だ』

 この後、サラサは幾度も外征することになるが、一度たりとも兵糧不足に悩むことはなかった。それもすべてはテナルの仕事であり、サラサが帝位についた後にはその才能と功績をもってテナルを帝国宰相に任命したのだった。宰相となったテナルは、その地位に驕ることなく、淡々と日々の仕事をこなし、『帝国史上最も地味な名宰相』と呼ばれるようになるのであった。このような歴史的に見ても特筆すべき才人が、まだ軍旗すら持っていないサラサの元に集まりつつあった。

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