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天使と悪魔の伝説  作者: 弥生遼
第二十一章 風雲児
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4

 アルスマーンの寝室が大聖堂の四階にあることは、おそらくは襲撃してきた僧兵達も知っていることだろう。だからレンは必死になって走った。

 その四階にたどり着いた時、別の階段を上ってきた僧兵達を遭遇した。相手は人がいることに驚いた様子であった。ガレッドはそこを容赦なく襲い掛かり、四人ほどいた僧兵達を階段からまとめて突き落とした。

 「どうした?」

 「警備の僧兵か?」

 「急げ!別の階段も……」

 襲撃してきた僧兵達の声がどこからともなく聞こえてくる。

 「ガレッド!急ぎましょう」

 「うむ。ここはミサリオ様を伴って脱出した方がよさそうでござるな」

 ガレッドが僧兵の落とした槍を拾い上げた。それを見届けてレンはアルスマーンの寝室へと急いだ。

 レン達が上ってきた階段と反対側にアルスマーンの寝室がある。ロの字型の回廊を走り、ちょうどアルスマーンの寝室がある廊下にたどり着くと、そこにはすでに僧兵達の姿があった。

 「何奴!」

 「やれ!」

 彼らはガレッドの正体を確かめるまでもなく、襲い掛かってきた。

 「おのれ!」

 普段は心根の優しいガレッドも、こういう場面では容赦がなかった。襲い掛かってくる僧兵達を次々と打ちのめしていく。瞬く間に近辺にいた僧兵達を倒してしまった。

 「ガレッド!ミサリオ様は?」

 「うむ」

 ガレッドが先にアルスマーンの寝室に飛び込み、レンも続いた。

 「遅かったでござる……」

 アルスマーンがどうなっているか明白であった。絨毯の上に横たわり、血を流している姿が窓から差し込む月明かりに照らされていた。苦悶と驚愕のため見開いた目は、一向として動く様子がなかった。

 「ミサリオ様!」

 たまらずレンは駆け寄った。アルスマーンから流れる血液はすでに血溜りになっていたが、構わずアルスマーンの体にすがりついた。

 「ミサリオ様!総司祭長様!お目をお開けください!」

 「レン。無駄でござるよ。総司祭長様はもう……」

 うう、と呻いたレンは、アルスマーンの瞼を手で閉じてやった。もうレンにはそれぐらいしかできなかった。

 「レン。残念でござるが、脱出いたそう。このままでは某達も危ない」

 「……ええ。でも、シードさん達は……」

 「大丈夫でござろう」

 耳を澄ますと、嬉々としたエルマの怒鳴り声が聞こえる。

 「兎も角も彼女達と合流いたそう」

 「そうですね」

 ガレッドが部屋の外を警戒しながら先に出て行った。残されたレンは、アルスマーンの亡骸をもう一度確認しながら、零れ落ちる涙を必死で拭っていた。


 アルスマーンの寝室を出たレンとガレッドは、エルマが暴れているだろう場所を目指して階段を駆け下りていった。その場所にたどり着いてみると、暴れ終わった後なのか、エルマとエシリアが立ち尽くしていた。

 「エルマ殿!エシリア殿!」

 「おう、おっさんじゃないか!この淫乱天使と一緒で辟易していたところだったんだ」

 「それはこちらの台詞です、性悪猫」

 「お二人ともご無事で何より。それよりもシード殿達は?」

 「ジロンの爺さん達と先に脱出させた。あいつはまだ足手まといだからな」

 「それよりもこれはどういうことなのです?ひょっとして私達を狙ってのことなのですか?」

 「それは違います、エシリア様。ミサリオ様です。ミサリオ様が殺されました……」

 レンは自分が答えなければと思った。エシリアの顔が瞬時に強張った。

 「そうですか……。昨日の最高司祭会議で不利になった教王の仕業ですね。ここまで強硬な手段に出てくるとは……」

 「そんなことよりも、とっとと私達も脱出しようぜ。あの物分りのいい爺さんが死んだとなれば、こんな所にいても仕方ないだろう」

 もともと居心地が悪いんだよ、とエルマはぼやいた。

 「そうでござるな……」

 外の様子を見てみると、大聖堂を囲んでいる僧兵達は撤収する様子がまるでなかった。

 「へへ。じゃあ盛大にぶっ飛ばしていくか」

 エルマが嬉しそうに笑うと、エシリアが厳しい顔を彼女に向けた。

 「それは駄目ですよ。許しません」

 「はん?お前だってさっきは嬉しそうに魔法をぶっ放していたじゃねえか」

 「嬉しくありません。あれはシード君達を逃がすために仕方なくです。もはやここにいる意味がなくなった以上、無用な殺生は許しません」

 「じゃあ、どうするんだよ」

 「天使と悪魔らしく空を飛びましょう。レンさんは私が引き受けますので、エルマさんはガレッドさんをお願いします」

 「おい!どうして私がこんな図体のでかいおっさんを!」

 とエルマが抗議をしている間に、レンは軽々とエシリアに抱きかかえられていた。くそっ、と言いながらも、エルマもガレッドを持ち上げ、窓から飛び立っていった。

 「怖いかもしれませんが、我慢してくださいね」

 優しく声をかけてくれるエシリアであったが、レンは怖くも何ともなかった。ただ小さくなっていく大聖堂の姿を見ていると、悲しくなってきて目を閉じてしまった。

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