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天使と悪魔の伝説  作者: 弥生遼
第十九章 陰謀の発火
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7

 自分がレレン・セントレスであることを打ち明けることで、胸の痞えが取れると思っていたのだが、ちっとも取れなかった。自分が神託の巫女レレン・セントレスであることを知って皆がどう思ったか?それを知りたかったのだが、それを知る暇もなくアルスマーンと面会することになった。面会後もそれぞれスーランから事情聴取を受けることになっていて、なかなか話をする機会に恵まれなかった。

 『いや、機会ならいくらでもあった……』

 たとえば先ほどの夕食の時。エシリアを除く全員が集まっていたのに、レンは自ら口を開くことができなかった。仲間達もレンを気遣ってかまるで関係のない余談ばかりをしていた。

 『要するに私が意気地なしなだけ』

 心強く生きようとするのがこれほど難しいものかとレンは改めて思った。

 

 夜が更けて就寝の時間となったのだが、どうにも眠れないレンは大聖堂の廊下をふらふらと散歩していた。生まれてこの方、追放されるまでこの大聖堂で暮らしてきたのに、まるで他人の家に来たかのようであった。

 「うん……図書室に誰かいるのかしら」

 聖職者の戒律は厳しい。決められた就寝時間を過ぎて起きていてはならなかった。気になって図書室の中を覗いてみると、サラサが熱心に本を読んでいた。

 「サラサさん……。こんな遅くまで」

 「ああ、レンか。起きていていいのか?戒律があるんだろう?」

 「私はもう巫女ではありませんよ」

 そうだったな、と苦笑し、サラサは本を閉じた。レンは中に入り、サラサが読んでいた書物の表紙を見た。教会の歴史に関する本であった。

 「歴史ですか?」

 「うん。それにしてもここの図書室は凄いな。非常に興味深いものばかりだ。一生掛けても読みきれないだろうな」

 「一生ですか?」

 「うん。一生だ。なんならここに住んでもいい。生涯掛けてここの書物を読み漁り、研究論文やら歴史小説でも書いて過ごせればどれだけ幸せだろうな」

 だが、サラサにはそれが許されないことはレンも知っていた。十四歳の少女にしてはあまりにも過酷な運命であるように思えるのだが、サラサには悲壮さというものが微塵もなかった。自分より二つしか年が違うのにどうしてそこまで気丈でいられるのか、レンは不思議であった。

 「サラサさんは、どうしてそこまで強いのですか?」

 「強い?私がか?」

 「そうですよ。私は自分が神託の巫女であることを明かすのに悩みに悩み、ようやく打ち上げたのですが、今でも靄がかかっていて心が苦しいのです。サラサさんの境遇は私以上に過酷なのに、気丈でいられるじゃないですか」

 「それは強い弱いという問題じゃないな。私は覚悟を決めただけだ。決めた以上はやるだけ。それだけのことだ」

 サラサはさっき閉じた本に触れた。

 「私はいずれエストヘブンとコーラルヘブンに戻って戦争をしなければならない。この本を読んでいたのもその糧にするためだ。私の時間の全てはそのためだけに旋回している。そうすることで余計なことを考えたり悩んだりしないようにしている」

 それが強さなのだと言うとしたが、サラサがすぐに言葉を続けた。

 「単に悩んだりするような時間を与えていないだけのことだ。ある意味逃げているのかもしれないな。でも、有効な手段だと思っている。レンもそうすればいい」

 「私もですか?」

 「そうだ。レンは神託の巫女であることを明かしたが、それ自体が目的になってしまっている。では、神託の巫女であることを明かしてどうしたいか?何をしたいか?それを考えることが重要じゃないのかな」

 「仰ることが分かります。でも、私にできることがあるのでしょうか?」

 「さてね。そればかりは私は何も言えない。自分のことで精一杯だからな」

 サラサは突き放すように言った。それは決してサラサが冷たいからではないことはレンは承知していた。

 「じゃあ、ひとつ聞かせてください。私が神託の巫女だと知ってどう思いましたか?」

 「私か?驚きはしたが、それだけだな。いや、正直に言うとレンの存在を上手く利用できないかと考えたな」

 サラサが悪戯をした少女のように笑った。

 「私としてはレンに教会との橋渡し役になってもらえれれば言うことないのだが、まぁ無理強いできることではないからな」

 「そこからは私が考えるということですか?」

 「考えているだけじゃ駄目だよ。行動しないと」

 サラサは本を手に取ると、にっと笑いかけてきた。

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