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天使と悪魔の伝説  作者: 弥生遼
第十八章 帝都にて
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 マランセル公爵領から総本山エメランスへは一度南へ向かい、その後ひたすら西に進む。通る街道次第では帝都ガライス・ジンにも寄れるのだが、立ち寄るべきかどうか、一行の間で意見が分かれていた。

 「私は行ってみたいな。いずれ私のものになる人間ども首都だ。見聞しておくのも悪くない」

 と言い出したのはエルマであった。それに対し、

 「聞き捨てならない発言ですが、今は置いておくとしましょう。それよりも今は一刻も総本山に急ぐべきです。寄り道なんてしている場合じゃありません」

 と明確に反対したのはエシリアであった。

 「帝都か……。行ってみたい気もするが、私達は帝国にとってお尋ね者になっている可能性があるからな。どう思う?ジロン」

 あまり行きたくない素振りのサラサは、ジロンに意見を求めた。サラサとジロンは、公的に発表されているわけではないが、エストブルク領内乱の際に姿を消したことから帝国に探索されていてもおかしくなかった。

 「そうですな。帝国政府が我々を真剣に捜しているとは思えませんが、用心に越したことはありません。でも、サラサ様には一度帝都を見てもらうのも悪くありませんな」

 「どっちなんだ?はっきりとしない爺さんだな」

 「要するにお二人ともどっちでもいいってわけですね。ガレッドさんはどうですか?」

 二人の意見をそう結論付けたエシリアがガレッドに尋ねた。

 「某もどちらでも結構でござる。レンはいかがかな?」

 「私もどちらでも……」

 潰れんばかりにマ・ジュドーを抱きしめているレンは、やはり元気がないのか、今にも消えそうな声をしていた。

 「またどっちでもいいかよ。まったくお前らに主体性っていうのはないのかね?おい、シード。お前さんはどうなんだ?お前の意見次第で多数決が成立だ」

 どってもいいとか言うなよ、とエルマは念を押したが、シードの心は決まっていた。機会があれば一度は行きたいと思っていたのだ。

 「僕は行きたいです。それにもうすぐ年が明けるでしょう?年明けを帝都で過ごすっていうのもいいんじゃないですか?」

 はっきりそう言うと、エルマは嬉しそうに笑い、エシリアは仕方なさそうに小さくため息をついた。


 帝都ガイラス・ジンは、シードの想像を大きく超える大都市であった。建物の規模、人の多さ、どれを取ってもシードが見聞してきたいかなる都市よりも大きく、比することもできないほどであった。

 まず都市を囲む城壁から違う。自分の背の高さの数十倍はあるかと思われる高さの城壁が、端を見ることができないほど広がっており、門の大きさも天辺を見るためには顔を思いっきり上に向けないといけなかった。これが同じ人の住む場所なのかとただただ驚くだけであった。

 門をくぐり帝都の中に入ってもシードの驚きは続く。幅広くよく舗装された道の左右には多種多様な建物が群を成していていた。行き交う人の量も違う。新年を迎えるためでもあろうが、どこからそれだけの人が湧いてくるのだろうかと不思議に思うほど往来には人が溢れ、シードは飲み込まれそうな錯覚を覚えた。

 「おいシード。あまりきょろきょろするな。田舎者みたいじゃないか」

 そう言いながらもエルマは落ち着きなく周囲を見渡していた。きっと彼女もシードと大差ない心境なのだろう。いや、エルマだけではない。ジロンを除く全員が実は初めての帝都なのであった。

 「ジロンさんは、何度も帝都に来たことがあるんですか?」

 「左様。ちょうど神託戦争の直後で皇帝陛下に爵位を賜った時以来ですな。まさかこんな形で再び帝都に戻ってくるとは思いませんでしたな」

 「いっそうのこと、爵位を返上したらどうだ?こんな流浪の身分じゃ、持っていても仕方ないだろう」

 「そうですな。いずれサラサ様からもっと上の爵位を頂戴できそうですからな」

 サラサの軽口に対してジロンは心得たとばかりに言葉を返した。サラサは顔を引きつらせながら黙ってしまった。

 「さてさて、性悪猫の我儘で帝都まで来たわけですが、宿はどうするのです?これだけ人がごった返していたらもうどこも満室かもしれませんね」

 「私だけじゃなくてもシードも賛成したからな!」

 エシリアの嫌味にエルマは噛みついた。しかし、エシリアは意に介さないとばかりにエルマのことを無視していた。

 「某に多少あてがござる。故郷で自警団をしていた頃の仲間が帝都に出て酒屋をしております故、厄介になろうかと考えていたところでござる」

 「はん。サイラスの坊主どもよりもよほど徳が高そうだな、おっさんは。任せたぜ」

 「承知。皆様はしばらくここでお待ちあれ」

 ガレッドはそう言い残し、雑踏の中に消えて行った。

 しばらくしてガレッドが戻ってきた。酒屋を経営しているという知人が店の二階を使わせてくれるというのだ。普段は奉公人が使用しているのだが、新年を迎えるにあたってそれぞれ故郷に帰っていて今は無人であるらしい。七人寝泊りするぐらいの部屋数は十分にあるとのことであった。ここで二泊ほどし、新年を迎えてから総本山エメランスへと向かうことになっていたのだが、不測の事態が発生した。レンが風邪をひき、寝込んでしまったのだ。

 「医師の話では大したことではないようでござるが、四五日は安静にした方がいいとのことでござる。レンには某がついておりますので、皆様方はゆるりと帝都観光をされよ」

 とガレッドが言ったので、シード達はその言葉に甘えることにした。

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