魔物の突然変異
俺とファフナーはトゥーランの森を歩いている。
何故森を歩いているのかというとギルド行った時に受付員から呼び出されたのである。
◇
「ああ、ジンさん!」
「あれ?何かあったんですか?」
「ええ、実は……」
話の内容は、トゥーランの森でゴブリン達が突然変異を起こしているという話があったのである。ある日、冒険者達が倒れていたゴブリンを見つけたため、生死を確認したら死んでいたのだが、ゴブリンの外見には傷などは見当たらず魂を抜かれているような有り様であったらしい。一匹であれば病気とかの類で死んだのかと思うが、その時は7体のゴブリンが同じように倒れていたため、病気という線は無いとの事。冒険者達は、町を戻ろうとした時にゴブリンの鳴き声が聞こえたため振り返ってみると、倒れていたゴブリン達が身体を起こしたのだ。ゴブリン達は緑の身体が徐々に色を変えていき赤黒く変色し始め、咆哮してから冒険者達に飛びかかった。辛くもゴブリン達から逃げ切った冒険者達の話によるとゴブリン達の強さは、普通のゴブリン達とは違い力もスピードもかなり違うらしい。他の魔物に例えるとオーガ並の強さだという……。ギルドではそれをエボルゴブリンと名付けた。
「分かりました。トゥーランのどの辺りを調べたらいいとかってありますか?」
「そうですね……。まだ手がかりはないので、全体的に調べるしかないですね。他にも冒険者が向かっていますので、何か情報を得られるかもしれません」
「了解です。それじゃ、行ってきます」
「はい、お願いします」
◇
そんなわけで、俺達はトゥーランの森を歩いているのだ。今のところトゥーランの森は平和である。
「ジンはどんな依頼を受けたんですか?」
「ああ、そういえば話していなかったな?この森で魔物が突然変異をしたっていう話があって、それの調査をするんだ。今向かってるのは、地図のここだ。冒険者が遭遇したっていう場所だよ。ちょっと探偵みたいでワクワクするだろ?」
「タンテイ?」
「ん?探偵を知らないのか?探偵っていうのは、犯罪を犯した人を突き止めたりする人の事だよ」
「へぇ~……ジンは物知りです」
「そんな事無いよ」
そんな他愛のない話をしながら、冒険者が遭遇した場所に辿り着いた。
「う~ん……見た感じ何も無さそうだな?」
「はい、特に気配も感じません」
俺が地図を広げて次はどの辺り調べるかを考えていると、突然服の裾を引っ張られた。
「ん?どうした?」
「こっちから何か嫌な魔力を感じます」
「それじゃ行ってみるか。ここで待っててくれるか?」
「私も行きます!」
「う~ん、分かったよ。俺から離れるなよ?」
少し考えたが、ここに1人残しても危険だと思い連れて行くことにした。
「はい!」
ファフナーが指差す方へ向かうにつれて、俺も嫌な魔力を感じ取ることができた。
「空気が悪いな……。ファフナーは大丈夫か?」
「大丈夫です……」
思った以上に魔力が強いため、ファフナーはその魔力に中てられるのである。額には汗が滲み出ていた。少し休憩を取りたいとも思うが、この辺りで休憩するのは危険だろうと判断する。それに……。
「ちょっと警戒心が足りなかったかな?」
魔物の気配が周囲から感じる。どうやら、魔物達に囲まれているようだ。目の前の木の後ろから、あるいは後ろの草陰からも感じる。俺はすぐに動けるように臨戦態勢をとった。
「ファフナー、俺から離れるなよ?身体能力強化魔法……疾走」
迅は背負っていた剣を抜刀すると同時に、己に魔法をかけた。
「……来る!」
魔物は最初に迅の背後から襲いかかり剣を振り下ろすが、それが当たる事はなかった。むしろ、斬りかかったはずの魔物が地に伏すという結果に陥った。何故なら身体能力強化魔法の疾走はその魔法名の通り風魔法であり、瞬発力を底上げし、さらに全身に風を纏う事で疾風の如く移動することができる。風の力を纏った迅は魔物が斬りかかる瞬間にはファフナーを腕で抱え、背後に回り込んでそのまま魔物を斬るという荒業を成したのである。
魔物の手には剣と木でできた盾を持っており、全身は赤黒い色をしている。どうやら冒険者が遭遇したと言われるエボルゴブリンだった。
1体のエボルゴブリンを倒したから終わりではない。魔物達は怯むこと無く一斉に飛び出し合計6体のエボルゴブリンが四方八方から攻撃を仕掛けた。迅は飛びかかってきた魔物達に慌てる様子も無く、標的を正面の敵に絞り疾走する。2つの影が交差すると魔物の剣を持っていた腕が切り落とされ、体が真っ二つになり倒れる。残った5体の内2体の魔物がこちらに駆けてくる。迅は、剣に風を纏わせて一気に横に薙ぎ払う。
「風斬!!」
駆けていた2体の魔物は迅に近づくことも無く上半身と下半身が断たれ、その場に倒れた。2体の魔物の身体を真っ二つにしたのは風の刀身であった。3体のエボルゴブリンは目の前の惨状を理解する事ができず、驚愕の顔をしていた。仲間を殺された怒りだろう。恐怖の色は顔に出ているエボルゴブリン達だが逃げようとはせず、剣をこちらに向けて戦う意志を主張していた。
「次はこっちからだ!」
疾走の力をフルに活用し、エボルゴブリンとエボルゴブリンの間に高速移動して、1体のエボルゴブリンの首を切り落とした。残り2体となったエボルゴブリンは顔を合わせて頷くと、1体の魔物はこちらの方に駆け出し、もう1体のエボルゴブリンは強い魔力を感じた方向に走り去る。盾を全面に出してこちらに駆けるエボルゴブリンに対し、迅は手をエボルゴブリンの方に向ける。すると、手からビリビリと唸りながら光の玉が顕れた。
「先駆放電!」
その魔法名を唱えると、その光の玉から雷が飛び出してエボルゴブリンの盾を貫通し、エボルゴブリンの身体に命中する。エボルゴブリンの全身に高圧電流が流れ、悲鳴を上げること無く絶命した。
「後1体は向こうか……!ファフナー怪我はないか?」
追いかける事を決意した迅であったが、ファフナーの返事は一向に返ってこない。
「世界がまわってましゅ~……」
ふと、目をやるとファフナーは目を回して何やら変な事を言っていた。
「ファフナー?しっかりしろ??」
「んあ……ジンさん!敵はどこに!?」
ファフナーは抱えられたまま顔をキョロキョロと動かす。
「もう逃げたぞ?」
「なら、早く追いかけないと!」
「ああ、そうだな……。急ぐぞ」
ファフナーを抱えたままエボルゴブリンが逃げた方向に足を進める。森を10分ほど歩き少し拓けた場所に地下に向かう階段を見つけた。階段を覗きこむと少し肌寒い風が吹いている。
「明様に怪しいな……。れは一度退いた方が良さそうだ」
「何言ってるんですか!ここで敵を一網打尽にするべきです!!」
「いや、俺だけじゃ手に負えないと思うぞ?見てみろ、この中に居る魔物の気配……。相当居るはずだ」
下からは魔力だけではなく、魔物の気配もある。気配の数からしてさっきの倍以上の魔物は居るだろう。
2人でやいやい言い合っていると、洞窟から女性の大きな悲鳴が聞こえてきた。
「キャアアア!!」
「っ!行くぞ!」
「はい!」
階段を一気に駆け下り、大きな魔力の中心部へと向かって行く。洞窟の中は入り組んでおり、迷路の様になっていた。それでも隠しきれない嫌な魔力のお陰で迷う事もなく、真っ直ぐに中心部に向かう事ができた。何度目かの角を曲がると、扉の様なものが見える。
「この先が魔力の中心源です!」
ついに、魔力の中心部に辿り着き、扉を開いた。すると、目の前に広がる光景は、とても酷いものであった。女性は部屋の隅で座り込み目の前の惨状に恐怖していた。彼女が見た光景は、左手に大人の男を持ち上げ右手に巨大な斧を持った牛の姿をした3mほどある魔物が二本足で立っている。その魔物の足元には恐らく彼女の仲間である冒険者の首が転がっており、辺りを見ると胴体や足などが切断されていた。左手で握られている男も既に意識も無くなっており、グッタリと項垂れている。
「ひどい……です……」
思わず、息を呑むファフナー。迅は、一瞬で怒りが頂点に達し、無意識に疾走を使い、牛の魔物に走った。だが、取り逃がしたと思われる1体のエボルゴブリンが立ち塞がる。迅はエボルゴブリンの脇を斬り抜け倒すと、その勢いのまま巨体の魔物に飛びかかった。
巨体の魔物は迅に気づくと冒険者を投げ捨てて、大きな斧を振り下ろす。迅はその斧を避け、そのまま投げ捨てられた冒険者を受け止めた。だが、その冒険者は息をしていなかった。冒険者を受け止めたその感触から、冒険者の上半身の骨のほとんどが折れており、恐らく内蔵に骨が刺さり命を落としたのだと推測できた。冒険者を寝かせると、迅は思わず歯軋りをした。
目の前には恐怖で座り込んでいる冒険者と扉のすぐ側にはファフナーが立っている。背後にはこちらに殺気を振り撒く巨体の魔物が居る。
「ここは一度退くしかない……」
1対1なら戦っていたかもしれないが、今は動けない冒険者とファフナーが居るため、巻き込んでしまう可能性が高かった。そのため、迅は逃げる事を決断したのである。座り込んでいる冒険者を背負い、ファフナーを腕で抱えて、疾走を使って来た道を辿って地下から一気に脱出した。
「はぁ……はぁ……逃げ切ったか……?おい!大丈夫か?」
「い、いや……死にたくない……」
彼女はまだ、錯乱状態にあった。
「しっかりしろ!あいつは何だ!?」
「ジン!そんなに怒鳴らないの!」
「ああ、すまない……」
冒険者の肩を揺する迅であったが、ファフナーに落ち着くように言われる。
「あれは……ミノタウロスよ……でも、普通のミノタウロスはあんな化け物じゃないわ……」
迅はイマイチ反応が鈍い、理由は一度もミノタウロスに会った事はないからである。もし冒険者が言う事が本当だとすると、あれは恐らくエボルゴブリンの様な突然変異なのだろうと推測した。
「ありがとう。とにかく、ここから早く離れない―――――」
迅の言葉を遮ったのは地下から大きな轟音であった。地下に続く階段の入り口からは濃い砂煙舞っている。
「な……なに……?」
怯える冒険者だが、その原因は1つしかない。
「くそ!追いつかれた!」
砂煙が収まると巨体の魔物が姿を現したのだった。
戦闘シーンにも入るため、タイトルもガラッと変えました。(つもり)
ユニークがいつの間にか1000を突破してました。
読んでいただき、ありがとうございます。