妹ができました?
「ば……」
「ば?」
「バカヤロー!こんなところでなんてモン出してんだ!誰にも見られてないよなぁ!?」
辺りをキョロキョロして誰も居ないことを確認し、ホっと安堵した。もし人が居たら今頃大騒ぎである。
「早くその羽を隠すんだ!」
「もう!我儘ですね!」
頬を膨らませて睨みつけた後、渋々といった表情で羽を隠した。
「後!これは羽じゃなくて翼ですよ!」
「羽も翼も同じだろ?」
「いいえ!違います!翼って表現の方がカッコイイです!」
「お、おう……」
ここで拒否しても仕方がないので同意しておいた。
「それで、君は何しにきたんだ?」
「お礼です。傷を治してくれたお礼」
「ああ、お礼とかいらんから早く家に帰るんだぞ」
装備をメンテナンスしようと思ったが、何かドッと疲れたため宿に帰ろうとしたら服を引っ張られた。
「待って下さい!わ、私……」
「分かったよ。とりあえずここじゃあれだろ?俺が泊まってる宿に来るか?」
落ち込んでいた少女もパッと明るい表情になり、目を輝かせており、犬なら尻尾を振り回していただろう。
「それで、名前は?」
「?」
「君の名前だよ。ああ、名前を名乗る時はなんとかってやつか……俺はジンっていうんだ。よろしく」
「わ、私は……えっと……名前ありません」
「え?そうなのか……」
「はい」
「そんなガッカリするなって!とりあえず宿に行こう?な?」
「分かりました」
そんなやり取りをして、宿にたどり着くと少女を自分の部屋に案内した。
「まぁ何にもないけど、入ってくれ」
「本当に何もありませんね?」
子供は正直すぎるな……話をすると時々心にパンチが飛んでくる。どうせなら、部屋綺麗にしてますねっとか言ってほしかった。
「それで、どうしてあの後家に帰らなかったんだ?」
「……自分の家はもうないからです」
「そうか……魔物っていうか外の世界にも色々あるもんなんだな。すまん」
俺は気まずさから黙ってしまい、部屋に静寂が訪れていた。その静寂を破ったのは少女であった。
「あ、あの!」
「なんだ?」
「私をここに置いてくれませんか?何でもしますから!」
「え?」
「ダ……ダメですか?」
っく……強烈な上目遣いである。こんな顔をされては断れない。いや別に元々断る気はないのだが……。何でもしてくれるっていうのは有り難いし、変態的な意味ではないぞ?
この世界に来てカイン達が俺に親切にしてくれていたのだ。今度は俺が誰かを支える時が来たんだろうと思った。
「ダメじゃないさ、好きなだけ居ればいい」
その言葉に少女は満面の笑みを浮かべた。
「ありがとうございます!」
「そうと決まればどうするか」
「何がです?」
「名前だよ。お前とか君とかじゃ不便だろ?何か良いのはないかな」
「名前……」
少女はどんな名前になるか楽しみにしており、こちらに期待の眼差しを向けている。そんな俺は元の世界で竜に纏わる名前を思い浮かべ、女の子にも似合いそうな名前を模索する。そして、ある一つの名前が頭に浮かんだ。
「ファフナー……ファフナーはどうだ?」
ファフナーとは北欧神話の伝承に出てくるドラゴンである。
「ファフナー…うん!すごくいいです!」
「よし!お前は今日からファフナーだ!よろしくな!ファフナー」
「よろしくお願いします。ジンさん!」
こうして、俺は少女……ファフナーと共に新しい生活をすることになった。
「そうと決まれば、ファフナーの部屋を用意してもらえるように女将に言っておくか」
「え?どうしてですか?一緒の部屋でいいじゃないですか」
「いや、俺は男でファフナーは女の子だろ?ほら、色々問題あるだろ?」
「どんな問題があるんですか?」
「そりゃ……」
一応俺も健全な男である。女の子と一緒に寝たりしたら意識して眠れないかもしれないのだ。
「まぁ色々だよ」
「それじゃ答えになってませんよ~!」
頬を膨らませ、むぅ~っと唸りながら睨みつけられた。
「そう言われても駄目なものは駄目だ」
「どうしてもダメですか?」
頬を膨らませることをやめ、今度は上目遣いでこちら見てお願いしているのである。か……可愛い。
「だ、駄目だ!そんな声を出しても駄目だ!」
「ひっぐ……えっぐ……」
ファフナーが嗚咽をもらした。これは、ひょっとしてヤバイ状態なのではないか?そう思い、ファフナーにできるだけ優しく声をかけた。
「ファフナー?どうしたんだ?」
「ジ……さんは……私がキライ……なんですね!!うああああん」
「ああ、ごめんな!?俺が悪かった!頼むから泣き止んでくれ!」
うわんうわんと泣き叫ぶファフナーを慰める。だが、一向に泣き止んでっくれない。
「わ、分かった!同じ部屋にしよう!それでいいよね!?」
「はい!」
泣いていたはずのファフナーであったが、その言葉を待ってましたと言わんばかりに満面の笑みになり大きな返事をした。女将に頼んで部屋を用意してもらうことにした。その夜のことだった。
「むぅ……」
俺達は晩ご飯を食べている間に女将にさっきより広い部屋に用意してもらったのだが、何やらファフナーはお気に召さないようだ。さっきから唸ってばかりである。
「どうしたんだ?」
「一緒に寝るんじゃないんですか?」
「寝ねぇよ!そっちは問題無くてもこっちは大ありなんだ!衛生上良くない!」
俺が元居た場所はベットが1個しかなかったので、女将にベットが2個ある部屋を用意してもらったのだ。当然の処置である。
どうやら、ファフナーは一緒に寝ると思ってたようだ。だが俺は断固として拒否しておいた。
「まぁ仕方ありませんね。ここでいいです」
何故ぷりぷりしていたのかは分からないが何とか了承を頂けてよかったと思う俺であった。また泣かれたら敵わない。
「まぁ今日はもう寝よう。明日はまたギルドで依頼を受けるつもりだから早く寝たいしな」
「ギルドってなんですか?」
「ああ、そうか。ファフナーは知らないよな?まぁ簡単に説明するとだな……」
こうして、俺はファフナーに俺が冒険者である事や、冒険者の証であるカードを見せたりして、俺が今まで何をやってきたのかとかギルドとはどういう施設でどういう関わりがあるのかを説明した。
「……っというわけで、俺はまた明日はギルドに行くんだよ」
「私も行きます!」
「俺は、留守番しといてほしいんだけどな……」
何言っても付いてきそうだしな。それなら目が届く範囲に居てくれた方がずっといいか。それに今ここで拒否してもまた泣きそうだ、ファフナーの目が次第にウルウルしだしたのである。
「分かったよ。じゃあ約束な?俺の言う事は絶対に聞く事。俺から離れない事!いいな?」
「はい!」
仕方ないなぁと思いながらも俺は妹ができたみたいでとても嬉しい気持ちだったりする。それにここ3ヶ月はずっと1人で暮らしていたため、少しだけ人恋しかったりしていたのかもしれない。
「はしゃぐのはいいけど、早く寝ろよ?明日は早いぞ」
「分かりました!お休みなさいませ」
「ああ、お休み」
ファフナーに挨拶をして俺は眠りについた。
俺は武器を振り回して敵陣を駆け抜けていた。たどり着いた先には大きな竜が仁王立ちをしてこちらを睨みつけていた。俺は剣を構え相手の様子を伺っている。
竜が咆哮し、尻尾を振り回した。俺はそれを避けきる事ができずに尻尾の先端にあたり顔を引っ叩かれ吹き飛んだ。
「うあああ!」
何とか起き上がって体勢を立て直そうとするが、既に竜は目の前に居た。そして、俺に全身で覆いかぶさったのである。
「う……ぁぁ……」
声にならない悲鳴を上げて苦しむ。
「こんなところで……死んでたまるか!」
気合を入れて抜け出そうとするが、身体が全く動かせない。
目をギュッと閉じ、夢なら覚めてくれと願ったのだった。
「ハァ……!はぁ……はぁ……なんだ……夢か」
目を開けるといつもの天井で、周りを見回すと俺が宿泊していた部屋だった。
「ふぅ……。夢か、全く変な夢を見た。汗でビショビショだ」
いや、夢が覚めてよかった。そう思っていると身体に何か異変を感じた。
「ん?なんだ……?なんだかさっきから身体が重いような……?」
下を見ると掛け布団が大きく膨らんでいた。
掛け布団をそっとどけるとなんとファフナーが俺に覆いかぶさって寝ていたのである。
「すー……すー……」
「ファ、ファフナー!?何でこんなとこに寝てるんだ?ここ俺のベットだよな?とりあえず起きよう……」
そっと起き上がろうとするが、ファフナーはしっかりと服を掴んでおり、尻尾を出して俺をしっかりホールドしていた。
「これじゃ、起きられんな……。おい、ファフナー起きろ?」
俺は起き上がることを諦めてファフナーを起こす事にした。
「ん……ああ、お兄ちゃん。おはようございますぅ」
「お、お兄ちゃん?」
放心状態だった俺だが、何とか挨拶を返した。一人っ子だった俺は、弟か妹がほしかったため、初めてお兄ちゃんと言ってもらいちょっと感動していた。
それはさておき、ファフナーは薄っすらと目を開けているがまだ目が虚ろである。
「おーい。起きろ~?」
ぷにぷにの頬を摘んで引っ張りファフナーの目を覚まさせる。
「おお、これは……。気持ちいい……」
「ひ、ひたひでひゅ!」
少しの間頬をぷにぷにしながら楽しんでいたが、どうやらファフナーははっきりと目が覚めたようだった。
「ああ、すまんすまん。ちょっと夢中になっちまった」
「むぅ……まぁいいです。それより、お兄ちゃん。おはようございます」
ニコッと笑みを浮かべもう一度挨拶をされた。
「ああ、おはよう。ところで……どうしてファフナーがここで寝てるのかな?」
「そ、それは……」
苦笑いをして目を逸らしたのだった。
どうやら俺がベットに入りすぐに寝てしまったのを良い事にベットに入り込んで寝顔を見ていたらいつの間にか寝てしまったらしい。
「まぁ今回はいいけど、次は怒るからな?それじゃギルドに行くから準備してくれ」
「分かりました!(全く……ちょっとくらいいいじゃないですか……何であんなに硬いんですかね?)」
顔を洗いに行く際、何かぶつぶつ言っていたが聞こえなかった。
「ん?何か言ったか?」
「何にも言ってませんよーだ!ベーッだ!」
何を怒っているんだろうか、まさかあかんべぇまでされるとは思ってなかった。
「さて、俺も準備するか」
そうこうしている内に俺とファフナーはギルドに向かったのである。
読んでいただき、ありがとうございます。
ファフナーの名前にするまで時間が結構時間がかかりました。
登場人物が出る度に何か時間かかりそうですが……。
まぁ頑張って書いていきたいと思います。