竜と出逢いました
「よっし!今日もギルドに行くか」
冒険者のカイン、レイ、シフスと別れてから3ヶ月の時が過ぎ去っていた。
魔法は下級魔法は全てマスターすることができた。中級魔法は相性が良いのだろうか、風と雷の魔法を習得することができた。自身のスピードを上げる補助魔法も習得することができた。
魔法屋のマスターに聞いてみると、属性の得手不得手で補助魔法が変わるようだ。例えば、風や雷は自身のスピードを上げる補助魔法を、土は防御魔法、水は治癒魔法、火は攻撃力向上魔法っというように属性と補助魔法にも相性があるらしい。
俺と火属性と水属性の相性はそこそこであったが、や土属性は芳しくない状況である。
依頼も順調にこなしている。Fランクは思ったよりも簡単で、例えば、家の草むしりや子供の世話をする依頼……。冒険者を何でも屋とでも勘違いしているのではないかと思う時もあった。Eランクも大して変わりなくちょっと町の近くの森で薬草を採取する程度で魔物にはあまり会うことはなかった。そうして、いつの間にかDランクまで冒険者のランクを上がっていた。Dランクは町から遠出をして採取系の依頼や、ゴブリンなど下級の魔物退治の依頼が主であった。
ギルドに到着した俺は今日も依頼とにらめっこである。最近受けた依頼は、ゴブリン退治である。ゴブリンは集団で旅人などを襲っているため、ちょくちょく依頼をあるのだ。
「お、今回はこれにしようかな」
内容は簡単で、トゥーランの森の中に薬草があるらしく、それを取りに行ってほしいという事だ。煎じて飲むと風邪とかに効果があるようだ。
前に居た森の名前もトゥーランの森であった。
「少し遠いかもしれないけど、まぁ大丈夫かな。すいませ~ん、これお願いします」
「ああ、ジンさん。今日もお疲れ様です。この依頼は……サンザシの採取ですね、地図に印をつけておきますね。今回のはこれです」
採取系の依頼は、実物がないため、絵を渡される。これがかなり実物にかなり似ているので吃驚である。後は箇条書きで特徴を書いてある紙を渡される。
「そうそう、ジンさん!この依頼が完了すればCランク上がりますよ!」
「おお!そうなんですか!?」
「えぇ、Cランクからようやく一人前の冒険者ですね。また別途Cランクの依頼内容を説明しますね」
「はい、分かりました。その時はお願いしますね。それじゃあ行ってきます!」
Dランクになってから採取の依頼が増えたような気がする。それに伴って魔物と戦う回数も増えている。と言ってもゴブリンなどの下級の魔物ばかりだ。ユーフォンを出て森の中に入って地図示された印に歩いていく。
「ん?森の様子がおかしいな……」
森の中深く入ると、魔物襲ってきたり、猪などの動物が居るのは頻繁であったが、今回に限って魔物の姿が見えない。それどころか気配すらも感じられない。そんなこともあって簡単に薬草を手に入れる事ができた。
「まぁ、こんな日もあるか」
『―――――』
「え?」
町に帰ろうとした時に誰かに呼ばれたような気がした。
「向こうからかな?」
声のする方へ歩いていくと度々誰かが呼んでいるような声が聞こえた。
『―――たい』
「やっぱり気のせいじゃない……どこだ?」
悲痛を訴えるような声が風に乗って何度も聞こえてくる。
「こっちからか?」
森を深く行くと、洞窟が見えた。どうやらその洞窟に声の主が居るようだ。助けを求める声が聞こえてくる。
「暗いな……確かこの袋に……」
鞄の中にランタンを取り出し火を焚き洞窟の奥へ進んでいく。
時折、弱々しい鳴き声が聞こえてくる。だが、森の中に居た時のように言葉は聞こえてこない。思ったよりもこの洞窟は深くはないようで、最深部に辿り着くことができたのだが、辺りを見渡しても何もいなかった。
「ん~。気のせいかな?」
辺りを散策をしながらそんな言葉を零していると、岩陰からチョロっと顔を出している尻尾が目に入った。そっと近づいてみるとそこには血を流して項垂れている小さな白い竜が居た。警戒しているのだろうか、こちらを顔を向け牙を見せている。
「大丈夫だよ。今治してあげるからね~」
初めて見る竜にドキドキする気持ちを抑え、できるだけ優しく言いながらそっと近づいた。白い竜はどうやら何かと戦い、傷ついてここに隠れていたようだ。その証拠に爪に血の跡が見られた。
「っ!!」
竜の背中にある傷を治癒魔法で治療を行おうとした時に、手を噛み付かれて悲鳴を上げそうになった。正直叫びたいくらい痛いのだが、ここで叫べば竜を余計興奮させてしまうと思い、なんとか声を抑えて治癒魔法を唱えた。
「―――治癒」
徐々に白い竜の傷が癒えていき、傷が治るとようやく噛み付いていた手を解放してくれた。どうやら敵ではないと分かってくれたらしい。
噛まれていた手は歯形がくっきりと残っており、そこから血が少し垂れていたので、自分にも治癒魔法をかけておく。
「ふぅ……お前迷子か?」
竜は首を傾げている。何を言ってるのっとでも言いたげだった。
「まぁ、人の言葉なんて分かるわけないか……」
下顎を何度か撫でていると、竜は気持よさそうに目を細めていた。
「よし、スッキリしたし……俺は帰るな?じゃあな」
別れの挨拶をし、立ち上がる洞窟を出た。後ろを振り返ってみると竜が洞窟の入り口で立っていた。最後に元気な姿を目にすることができて良かったと思う。
「やばいな……急いで帰らねぇと一日野宿するはめになりそうだ」
風魔法使い、走っているスピードをグンっと上げ森を抜けた。町戻るとすっかり夜になっていた。
「依頼の報告は明日にして、今日は宿に戻るか」
いつもの宿に戻ると荷物を置き、そのままベットにダイブすると一気に眠気がきたので、そのまま寝てしまった。
翌日になり、依頼の薬草を渡すためいつものようにギルド向かった。
「ごめんくださ~い」
「ああ、ジンさん!早かったですね?」
「ええ、何か魔物の気配が一切なかったのでラッキーでした。これ、依頼品です」
「はい、確かに受け取りました。ありがとうございます!これで冒険者のランクはCですね?おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「ギルド長が待ってますので、こちらにどうぞ」
「はい」
3ヶ月前初めてギルド長に会って話をした時に、Cランクになるとギルド長に会う約束がなっていた。
◇
~三ヶ月前~
「よく来たね?話は聞いているよジン殿。私はここのギルド長をやっているギルアだ。今度ともよろしく頼むよ」
「こちらこそよろしくお願いします」
「そんなところに立ってないでこっちに来て座り給え」
側にあった椅子に座るよう促すと向かいの椅子にギルアは座った。
「失礼します」
「若いのに礼儀が正しいな。これいいかね?」
「どうぞ」
うんうんと頷きながら葉巻に火をつけた。
「君の魔法の素質検査の結果を聞いたのでな。ちょっと簡単な説明をさせてもらおうかと思ってな」
「はい」
ギルア長の話によると、白魔剣士や黒魔剣士、聖剣士は人が少ないため、王都アルカディアで騎士として雇いたいという依頼があるようだ。
待遇は悪くないため、その騎士として働く者もいる。ただ、お断りする冒険者も居るのだ。そのため、そういう断った冒険者には国から依頼が出た場合最優先で受けるように言われている。それを守ってもらうため、冒険者登録とは別に特別登録をする事になっている。カイン達もレイが魔導師なので国の依頼を最優先に受けているのだ。
「まぁ国が決めた事だからなぁ、本当は強制はしたくないんだがねぇ……」
「いえ、そういう話なら何となく分かる気がします」
「分かってくれてありがとう。では、これに名前を書いてクラスに聖剣士と書いてくれ」
「了解です。」
「後、冒険者のランクがCランクになったら、もう一度来てもらってもいいかな?国からの依頼があるかもしれんからね」
「分かりました」
Cランクは一人前の冒険者の証であり、D~Fランクは冒険者の育成期間のようなものらしい。そういう意味で国の依頼はCランク以降になるようだ。
「では、ご苦労だったね。ジン殿、冒険者として頑張ってくれたまえ」
「有難うございます。失礼します」
◇
そんな事があって俺はギルア長と会う約束をしていたのだ。
「お久しぶりです。ギルアさん」
「ああ、ジン殿だね。3ヶ月ぶりか……もう一人前の冒険者か。早いものだね」
「そうですね。なんとかCランクまでいけたって感じですけど」
「今のところは王都からの依頼はないよ。そうそう、これを渡しておくね」
渡されたのは冒険者カードである。少し色が金色が混じっているような感じで、今手元にある冒険者カードと模様がちょっと違う。
「それが正規の冒険者カードになる。職も聖騎士だ。それともう一つ。これをプレゼントする」
「これは?」
渡されたのは袋で、中には何も入っていない。おいおい、何の冗談だ。
ギルアさんは、おや?っとボヤきながら首を傾げている。引きつって笑っていたのだろうか。ギルアさんがこの袋の説明をしてくれた。
「その袋は魔法がかけられていくら物を入れてもその大きさのままなんだ。試しに俺はどれくらい入れれるかやってみたんだが、結局キリがなくてな。そいつを作った奴は魔導師なんだが、そいつが言うには物を入れた際に魔法陣が展開されて異次元に荷物を保管するらしい。魔法のブラックホールの応用なんだと。取り出す時はその物を想像すると、目的のアイテムが取り出せるんだとよ。まぁ理屈はそんな感じなんだが」
「なるほど。それは確かに便利ですね」
「まぁ今後も良しなにしてくれや」
「はい、こちらこそお願いします。失礼します」
受付員に挨拶をしてからギルドを後にした。
「さてと、装備の手入れをしてないし、装備屋でメンテナンスでもしてもらうか」
装備屋に向かっている途中、何者かに後をつけられている気配があった。依頼をこなしているうちにそういう事に敏感になったのだ。
「全く、誰だよ……」
気付かないふりをして人気のない場所に行って捕まえる事に決めた俺は、町の狭い通路に入り、角に隠れる。こちらに走って向かってる足音を確認するとバッと角から飛び出した。
「キャッ!」
ボンっとぶつかり尻もちをついたのは小さい少女だった。どうやらこの子が俺の後をつけていたようだった。
「おっと、ごめんごめん。大丈夫かい?」
「あ、はい。有難うございます」
少女に手を差し伸ばして起き上がらせた。
「えっと……」
どう切り出せばいいのか分からず言葉がつまっていると、少女が口を動かした。
「先日はありがとうございました」
「先日……?」
「はい!」
満面の笑みで返事をされてしまったのだが、全く覚えがない。いつ、どこで感謝されるようなことをしたんだろう。もしかしすると、彼女が出していた依頼を受けていたのかもしれない。
「あの……洞窟で傷を治してもらいました!覚えていませんか?」
むむむっと唸っていると、彼女からそんな事を言い出した。
―――傷を治した……洞窟で……?
俺が傷の手当をしたのは小さな白い竜くらいである。人ではないのだ。
「いやいや、竜が人になるわけないな。全く変な想像をしちゃったぜ」
「むぅ!信じてくれていませんね!?仕方がありません!」
「へ?」
「んーー!!」
いきなり少女が背中をこちらに向けて唸り出したのだ。
「お、おい!こんなところでトイレか!?ちょっと待ってくれ!今連れてくから!!」
「んんん!!」
オロオロしていると少女の背中が少し光りを帯びた。すると、その小さな背中から小さな翼が生えてきた。
「どうですか!」
こちらに向き直って小さな胸を張っている。俺は開いた口が塞がらない状態になり少し放心状態になったのだった……。
読んでいただき、ありがとうございます。
今回は設定みたいなのを重点的に書きました。