魔法を覚えました
「おめでとう!ついにあなたも冒険者ね!」
「冒険者が増えるのは嬉しいものですね」
「ボウズ!今日は宴会だな!ガハハハッ!!
「皆さん、ありがとうございます!」
「よし、ボウズついて来い!」
「あ、ちょっと待って下さいよ!」
スタスタ歩くカイン達を追いかけてたどり着いたのは、1軒の宿であった。
宿は、日本の温泉宿によく似ている造りである。
「いらっしゃいませ~!あら、カインさん達じゃないですか」
「女将!久しぶりだな」
「2週間ぶりですね」
女将と呼ばれる女性は着物を着ており、その他の仲居さんも女将と同様着物を着ている。丸っきり日本の旅館っという感じであった。
「おや、その子は?」
「今日冒険者に登録したんだよ、それで冒険者登録おめでとうって訳で、宴会しようと思ってな、女将できるか?」
「はいはい、分かりました。部屋はいつも通り二部屋かしらね?」
「はい、お願いします」
「分かったわ。では案内しますわ」
連れてこられた部屋は、畳が引いてあって日本の和室を思い浮かばせていた。なんだか懐かしい感じがした。
「食事の時間ができたら呼びますので……、温泉にでも先に入ってらっしゃいな」
「分かりました」
「それでは、温泉にでも入りますか?昨日は野宿でお風呂にも入っていませんし」
「そうだな、ボウズも行くだろう?」
「はい!」
確かに、昨日は野宿で風呂にも入っていない。ああ、服とかって洗濯できるだろうか?そんな心配事をしていると浴室に辿り着いた。
温泉はとても気持ちよく、生き返るようだった。
「そういえば、魔法の素質試験はどうでしたか?」
「ああ、あれは……。確か風と雷が反応が強いって受付の人が言ってました」
「へぇ~。素質があるようなら、魔法屋で魔法を覚える事をオススメします。明日レイさんに頼んでみてはどうですか?」
「魔法屋?」
「えぇ。魔法を使うには魔法の詠を覚える必要があります。詠をちゃんと理解しないと魔法を使う事ができないんですよ。ちなみにレイさんは火と風と治癒魔法が得意ですよ」
「え?てことは、レイさんは聖剣士なんですか?」
「いえいえ、近接戦闘は得意ではないので、聖剣士ではありません。白魔法と黒魔法を両方使える人は魔導師と呼ばれてます。まぁレイさんは魔導師と呼ばれるのは嫌みたいですけどね」
「そうなんですか」
「まぁ今夜は楽しみましょう?この後は宴会ですので、では先に上がりますね」
魔法と言われてもピンッとはこないけど、実際使えたらこの世界でも楽しく生きていけそうだなと俺は思った。
温泉から上がると既にカインさんとレイさんが宴会を始めていた。シフスさんは主賓が居ないのにダメですよっと言いながら2人を止めていた。
「お待たせしました」
「おう、遅いぞボウズ!腹が減りすぎて先に始めてしまったわい。ガハハハッ」
「そうよ?全く……女を待たせるなんて分かってないわね?」
「す、すいません……」
苦笑いをしながら謝ると、俺は席に着いた。
「それじゃあ、改めて……ボウズが冒険者になったことを祝って……」
「「「「乾杯!!」」」」
食べ物は刺し身やらご飯。天ぷらなどの和風の食品が並んでおりとても美味しかった。こうして考えると冒険もこの世界は思ったより大変ではないのかもしれない。そういえば、神様のお願いというのは一体なんだったのか……。今考えると、そのお願いの内容を聞いていなかったと、ふと思い出した。
「どうしたボウズ?何か考え事か?」
「え?ああ。えっと、これから冒険者として依頼を受けないといけないのでどんな依頼があるのかちょっと不安で……」
「Fランクなんて考えるだけでも無駄だぜ。依頼内容なんて町の中のお世話やら町から少し出たところで薬草を持ってこいとかそういう依頼ばかりだ。Eになっても対して変わらん。町の奉仕活動がメインだ。Dランクくらいからようやく討伐依頼とか受けられるようになるんだ。ちなみに俺らはBランクなんだぜ?Bランクより上の冒険者は時折国からの要請があるんだがな、これがまたきっつい内容でな……。だが報酬は上手い!」
「そうなんですか?少し安心しました。それなら僕も何とかやっていけどうです」
「そういえばジン、あんた風と雷属性が相性が良いらしいじゃない?シフスから聞いたわ。早速だけど、明日魔法屋に行くわよ」
「はい!」
「急で、申し訳ないんだけどね?実は私達、明後日にはここを離れるのよ。お国からお呼ばれしてね。どうやら大規模な討伐があるらしいわ」
「大規模な討伐?」
「何か分からないけど、大掛かりらしいわ?内容まではまだ聞いてないんだけど、受付に聞いても教えてくれなくてね~」
「そうですか……」
明後日からは1人で頑張らなければならないのかと少し不安になったが、お金もあるし、カインさんから聞いた依頼内容だとそこまで難しくはなさそうなのでなんとかなりそうだ。後は、魔法が上手く扱えるかどうかというところだろう。
「いや~。ごめんね?もっとあなたの事面倒を見たいのは本音なんだけどね~」
「いえいえ、ありがとうございました」
「本当、弟ができたみたいで嬉しかったんだけどね」
レイさんに微笑みかけられ俺は少し照れたが、その後のレイさんの淋しげな表情をした時、俺は声をかけることができなかった。
宴会も終わりになり、酔っ払ったカインさんをシフスさんと一緒にベットまで連れて行った。翌日になると、レイさんが宿の入り口前で待ってくれており、魔法屋に行くことになったのだが……。
「ここが……魔法屋ですか……?」
「ええ、そうよ?外装はあれだけどね」
魔法屋と呼ばれる本屋は外装がとてもボロボロで幽霊でも出そうなそんな気配を漂わしていた。
「いかにも魔法屋って感じでしょ?入るわよ」
扉を開けズカズカと入っていくレイさんを追いかけた。
「おや、いらっしゃい……」
「マスター。久しぶりね」
「おや、これはレイ殿か……どうしたんだい?お主がここに来ても得られる物はないけどねぇ……」
「今日はこの子が使えそうな魔法の本を見繕ってほしいのよ。お願いできる?」
「ふむ……」
マスターと呼ばれる魔法屋の店主がこちらをジロジロ見ている。
「お主、色々な可能性を秘めておるのぅ……。よし、少し待っておれ……」
そういうとマスターは奥の方へ消えていった。マスターは戻ってくるまでの間に少し本を読んでみた。詠唱文だろうか?
「何々……あれ?」
本の中身は文章が一切書かれておらず絵のみが書いてあった。
「レイさん、この本、絵しか書いてませんでしたけど」
「ああ、魔法本はそういう物よ、絵から感情……心を自分で詠に買えるのよ。そうすることで魔法を発動できるの。下級魔法なら詠唱文なんて考えるまでもなく使えるもんなんだけど、中級魔法からは詠唱文が必要になってくるのよ。覚えておいて。ちなみにあなたが今持ってる本は風の中級魔法の絵が書かれているわ」
「なるほど……」
「持ってきたよ」
奥から出てきたマスターは大量の本を抱えていた。
「こ……この量は?」
「ん?お主が使えるであろう魔法本を持ってきたんじゃよ……」
「これは火属性……これは水属性ね?あれ?風と雷だけじゃなかったの?」
「えっと、一番強く反応が出たのが風と雷だっただけで……実は赤とか青とか黄とか少なからず反応があったんです。色の説明が緑と紫しかされてなかったのでそれしかシフスさんに言えませんでした。すいません……」
「へぇ、そうなの?まぁそれじゃあ仕方ないね。まぁ全部買って帰りましょう?」
「はい、分かりました」
「25金貨じゃ……」
「結構値段張るわね?もうちょっと安くしてよ!」
「……22金貨じゃ……それ以上は無理じゃのぉ……」
「むぅ……高いわね?」
「だ、大丈夫ですよ?お金はありますから!」
俺は22金貨を支払うと大量の魔法本を抱えると魔法屋を出る。荷物を片付けるために一度宿に戻って、一冊の本を盛ってレイさんのところに戻った。
「ふむふむ、なるほど。風の魔法本を持ってきたのね」
「そうですね、風と雷の反応が高いってことだったので」
「それなら、まずは風の刃を覚えるわよ」
「はい!レイ先生!」
「先生……。良い響きね!先生に任せなさい!」
レイ先生によると、その本に描かれている絵を理解しなければならない。風の刃に描かれている絵は突風が描かれており、木の枝にその突風が当たって枝が切断されている絵である。理解したら次はイメージし、それを自分なりに詠に載せれば魔法が発動するらしい。実際詠唱が必要なのは中級魔法からなので、下級魔法である風の刃なら詠唱は必要ないらしい。だから、下級魔法は中級魔法に比べ比較的に発動できるようだ。実際に俺も3時間ほどで魔法を成功することができた。
「よくもまぁそんな簡単に魔法使えるわね?」
「え?でも、下級魔法は比較的簡単にできるんでしょう?」
「簡単と言っても普通は2日はかかるわよ。それをたったの3時間で発動できるなんて天性のものよ?」
「そ、そうなんですか?」
どうやら神様は本当に何でも魔法を使えるようにしてくれているようだ。
ただ、中級魔法からは詠唱が必要なため、そう簡単にはいかないだろう。
「後は、コントロールがばっちりできれば完璧ね。後は魔法については魔力量というのがあるの。魔力量は人それぞれで違うから疲労感を感じたら魔力量が少なくなってる証拠だから、適度に休憩するようにするのよ?」
「分かりました!」
「じゃあ、もう少しだけ頑張ってみようか?」
こうして、その後3時間ほど風の刃の練習を行い完璧完璧にマスターすることができた。
「どうやら使いこなせるようになったわね?」
「はい!ありがとうございました!レイ先生!」
「私は何もしてないわ。ジンの筋が良かったからすぐに使いこなせたのよ。
疲れたでしょ?宿に戻りましょう」
「はい!」
宿に戻り、カインさんとシフスさんに今日の事を報告した。2人は自分の事のように喜び、今日も宴会だと笑いながら話を聞いてくれた。
そして翌日……。
「たった3日だったが……もっとボウズと話をしたかったよ」
「そうですね」
「しょうがないでしょ?お国の依頼なんだから」
「分かってるさ。ボウズまたな!今度会う時は冒険者のランクをC以上にしとけよ?お国からの依頼を受けるにはランクはC以上だからな!待ってるぞ!」
「今度あなたと肩を並べて戦う日を願いますよ」
「残りの魔法本もしっかり使いこなせるようにしときなさいよね?」
「はい!皆さん……ありがとうございました!お気をつけて!」
深く礼をした俺を3人は暖かく見守ってくれた。
これからは1人で全部やらなければならない……。ちょっと不安だけど、あの3人のお陰でなんとか乗り越えられる……そんな気がした。
読んでいただき、ありがとうございます。
この物語のプロローグ的なものがこれで終わりになります。