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これが異世界のお約束です!  作者: 鹿角フェフ
新第三章:テコ入れは迷走しがちなお約束

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44/55

閑話:『悪役令嬢』

 エリサがランキングの理不尽さをひしひしと感じ取っていた翌日の事。

 ある程度理解はしたものの、納得が出来ない彼女はヴェルダートを捕まえて再度同じように友人の件について相談していた。


「はぁ、昨日は疲れた。結局、物語に関してはテンプレが鉄板って事なのね。どうしよう……友達には大見えきっちゃったし、流石に女の子はテンプレじゃないから男になって仕事辞めてトラックの前に飛び出せとは言えないし……」


 エリサの友人はエルフの女性だ。

 流石に彼女に対して、『現代日本で男性に生まれ変わって適当な理由で死んだ挙句、異世界に転移か転生をしろ』とはいくら思い切りの良い所があるエリサでも言えるはずがない。

 何を嗅ぎつけたのか、いつの間にかマオまでもがヴェルダートの周りへと集まってきている。

 どうやら今回も話が大きくなる事は確実だ。


 しょんぼりと気落ちしながら、大言を告げた友人への言い訳を考えるエリサ。

 ヴェルダートの言葉によればエルフ女性主人公はかなり肩身が狭く、ランキング上位は険しい道程との事。

 これではランキング事は友人にとって茨の道と言っても過言ではない。

 その事実に本日何度目かになる大きなため息を付くエリサだったが、何故かヴェルダートは先ほどまでの言葉を撤回するかの様な発言をする。


「まぁまて。最近は女主人公でもランキングに登るようになってるんだ。まだまだチャンスは有るぞ!」

「えっ、そうなの? 女の子でも人気出てるの!?」


 エリサは思わず大きな声が出し、慌てて口を押さえ恥ずかしげに声量を抑える。

 絶望的とも思われていた友人への助言に微かな希望が見え始める。

 この際どの様な事でもいい。

 何か、本当になんでも良い。友人を納得させ、喜ばせる様な要素があれば。

 藁にもすがる思い出一字一句聞き逃すまいとエリサはヴェルダートを真剣に見つめる。


「なるほど……"悪役令嬢"ですね! お兄さん!」

「"悪役令嬢"? なにそれ、そんなのがあるの!?」

「ああ、あるんだよ。これは勘違い系とか傍観系って奴だな。最近はこのジャンルの盛り上がりが凄いんだ。恋愛ジャンルがファンタジージャンルと肩を並べる位盛り上がっているのもこのお陰だな」

「マオも恋愛ジャンルが盛り上がるとは思っていませんでしたよ!」


 興味がある話題だったのかグイグイ入り込んでくるマオ。

 二人が話題に華を咲かせている所を見ると、"悪役令嬢"と呼ばれた物が言葉通りの盛況を見せている事は確かだった。


「恋愛!? 凄いわ! そんなジャンルが盛り上がってるのね! てっきりファンタジーばっかりだと思っていたわ!」


 恋愛ジャンル。

 予想もしなかった助け舟にエリサのテンションもどんどん上がっていく。

 女性主人公でも問題なく進められるジャンル。しかもその内容が良い。

 チートや冒険、ファンタジーも嫌いと言う訳ではないが女性主人公であるならば恋愛物の方がしっくりと来る。

 何よりエリサとしてもその様な物語が好きであり、驚くほど興味を掻き立てられている。

 特に夢見がちな所があるエリサの友人であればなお喜んでくれるだろう事は確実であろうと思えた。


「読者さんは老若男の様々な人がいるからな。もちろん今は異世界ファンタジーが一番人気だが、……女性読者さんも居るんだ、恋愛ジャンルが盛り上がってもおかしくないだろう?」

「そ、そうなんだ! じゃあ女の子主人公でもまだまだチャンスあるのね! ちなみにどういう感じの物語なの? 詳しく知りたいわ!」


 確かに、と両手を前で組み祈るような仕草で何度も頷くエリサ。

 彼女がヴェルダートの知識をこれほど賞賛し期待するのは初めてかもしれない。

 エリサの中でヴェルダートの評価がガンガンうなぎ登りで上がっていく。

 物語が一旦完結してしまうほどの時間を経て、ようやくヴェルダートの知識スゲーがヒロインへとその効果を発揮しようとしていた。


「ああ、最初にどこにでもいる平凡な女の子がいる。その子が主人公だ」

「うんうん、いいわいいわ。その平凡ってところが素晴らしいわ! 平凡といいつつ成績が上位だったり無駄にスポーツで全国大会に出てたり、鈍感で実は結構モテるとかそんなオチはないのよね!?」

「もちろんない。正真正銘平凡だ!」

「テンション上がってきたわ!」


 顔を上気させながらグッと拳を握り瞳を輝かせるエリサ。初めて見る彼女の態度にヴェルダートも興が乗ってきたのか、普段から憮然とした態度が常の彼としては珍しく笑顔をたたえている。


「んで、その子の世界にはとあるゲームなり漫画が存在する。それは少女マンガにありがちな、学園での恋愛模様を描いた物だ。その子はその物語が大好きで憧れているんだ」

「イケメン生徒が居て、何故か平凡な私がモテちゃう! って奴ね! うんうん、わかるわかる。女の子ってそういうの大好物よ! あ、悪役令嬢ってのも確かに出てくるわね! そのお話がどう物語に影響してくるのかしら? わくわく!」



「んで、主人公がトラックに飛び込んで死んだと思ったらその悪役令嬢に転生してたんだ!!」


「早速異世界転生してるじゃない!」



 突然の手のひら返し。

 エリサは喜びのあまり先ほどのやり取りに不穏な気配が漂っている事に気が付かなかったが、あれほどこれみよがしに盛り上げておいてオチが無い訳がなかった。



 ――悪役令嬢。

 ある一定の物語やゲームの世界に主人公の少女が入り込んでしまうという形態が取られるこの系統の物語は、最近非常に人気が出ている一大ジャンルだ。

 特徴的なのは入り込んでしまう物語の中における主人公――ヒロインキャラに転生や転移するのではなく、ライバルやお邪魔者として現れるキャラクターに成り代わることが上げられる。

 ゲーム上のヒロインキャラが正式な物語を続けていく中で、主人公が入り込んだキャラクター――つまり悪役令嬢はどの様な事をなすのか?

 性格や行動が大幅に変わった事によるイレギュラーな物語展開で、男性達とも思いもよらない様々な恋愛模様が繰り広げられる。

 笑いあり、涙あり、そして恋があり……。

 これが"悪役令嬢"と呼ばれるジャンルだった。


 もちろん、根幹として物語の中の存在に成り変わっているし、大抵の場合勘違いや実力などを通じて男性キャラ達による過大な評価――主人公スゲーが行われている。

 さらに言えば舞台もファンタジー世界の場合が多いので基本的な部分ではいつも通りの異世界転生だった。


「はぁ、一気に疲れたわ。何だかんだ言っても、転生とか転移とか異世界とか……。そういう要素は絶対必要になってくるのね……」


「…………」

「……? ど、どうしたの?」



「それが異世界の『お約束』だからな!!」

「それが異世界の『お約束』ですからね!!」


「な、なになに!? 嬉しそうに言わないでよ! しかもマオちゃんまで!」


 ぐっと拳を握りながら高らかに宣言するヴェルダート。

 マオも両手を上げて飛び跳ねている。

 何故かこのまま大空に視点がフェードアウトし、エンディングロールが流れてきそうな雰囲気の中、エリサはなけなしの気力を振り絞って彼らのノリに付いていこうとする。


「タイトルコールやってみたかったんだ。こういうのって一度はやっておかないとな」

「完結の時はそんな事できる雰囲気じゃなかったですからね。マオもここでやれて満足しました!」

「にしては強引すぎるわよ……」


 物語にありがちなタイトルコールを無理やりねじ込んで満足気な笑みを浮かべる二人。

 明らかに話の流れを無視する形で行われたタイトルコールではあったが、本人達にとっては適切なシーンで行うよりも取り敢えずやってしまう事の方が重要だったらしい。


「って言うか、本当、なんで異世界なのよ。普通に始めなさいよ。別にそういうの無くても普通の主人公にすればいいじゃない」

「おい! 現地主人公や現代主人公がどれだけ肩身の狭い思いをしているのか知っているのか!?」

「くどいわよ! 一度やったネタを掘り返さないで!」

「天丼の『お約束』です」!」

「マオちゃんもいちいち合いの手いれないで!」


 どこまでも真剣味が足りない二人。

 エリサはこれ以上話に付き合っても無駄であると悟り、適当にあしらいながら話のシメに入る。。


「はぁ、疲れた。まぁいいわ。……っと言うかさっきから少し気になっていたんだけど。さっきのタイトルコールとやら、こういうのって全員いないとダメなんじゃない? しかも私突然の事で参加できてなかったわよ」


 物語には様々なタイトルが付けられる。

 伏線が込められているタイトルや、特殊な意味を込めて付けられているタイトルにはキャラクター全員によるコールが必要不可欠だ。

 大抵は物語の終盤にタイトルに込められた伏線が回収されたり、キャラクターに高らかに宣言させるのが通常の演出である。

 だが残念な事に、その様に重要な意味を持つタイトルコールではあったがヴェルダートは取り敢えず済ませておきたいという理由だけでサッサと自分達だけで終わらせてしまっていた。

 この場に居ないヒロイン達には一切知らされていない暴挙であった。


「まぁ、乗り遅れた奴は残念だったって事で……」

「……もう少し打ち合わせしなさいよ。なんだか特に興味ないけど存した気分だわ」


「じゃあもう一回やるか?」

「いや、いい……。二回目だとなんだか価値がなくなる気がするから」


 げっそりと疲労困憊のエリサ。

 どうにもこうにもそのノリについていけない。

 結局、本日もまた同じようなテンションで振り回されるだけだった。

 もっとも、一番初めに話題を振ったのはエリサである。

 彼女としてもあまり大きな声で文句を言う事は憚られた。


「そうか? 俺は何回やってもいいと思うんだけどな……。じゃあまぁ、そういう事だからさっきの話、友達にちゃんと伝えておくんだぞ! じゃあな!」

「あっ! こら!」


 話題が終わったと思えば即退散。

 いつの間にかマオもいない。

 恐らくこれ以上会話を続けるとまた怒られるか変に癇癪を起こされるとでも思ったのだろう。

 話をここらで切り上げたいという思惑もあったかもしれない。

 脱兎の如き逃げ足の早さでその場から退散したヴェルダートは、すでに影も形も見当たらなかった。


「ああ、先が思いやられるわ。なんて言えばいいのよ……」


 一人きりになってふと冷静になるエリサ。

 途端に自らの友人にどの様に説明すれば良いのか不安になってくる。

 流石に物語の中へ入って悪役令嬢になれと言うわけにもいかない。

 暗澹たる気持ちを引きずりながら、取り敢えず全部ぶっちゃけて最終的にヴェルダートに責任を押し付けようと考え、早速行動に移すのであった。


 ……もちろん、話にはオチが求められる。

 そしてこの場合被害を被るのは、オイを確認せぬまま無責任に逃走をはかったヴェルダートだ。

 今回はあっさりと話をまとめたかった、とは彼の弁だ。

 だがそれで許される程『お約束』は優しくはない。


 結局、エリサの友人は現地主人公に加え、女性主人公という条件でありながらかなり良いランキングの順位を手に入れる事に成功する。

 その結果、ヴェルダートのランキングを抜く事となり、彼のプライドを大いに傷つけ、地団駄を踏ませる事となった。

はい。本日までの連続更新、お付き合い頂きありがとうございました。

タイトルコールも無事入り、これにて一旦終了という形を取らせて頂きます。

今後については動きがあれば活動報告にてご連絡する予定です。

また、遅れている感想返しもゆっくりと進めていきたいと思います。感想本当にありがとうございます。


ではでは、ここまでお読み頂きありがとうございました!

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