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これが異世界のお約束です!  作者: 鹿角フェフ
最終章:物語はいつか終わるお約束

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31/55

お知らせ:重大報告のお約束

 アルター王国、商業都市ボルシチにあるとある喫茶店。

 その中にある席の一つに一組の男女が座っていた。

 誰が見てもゴキゲンな男性とは裏腹に、女性の方は苦々しい表情を見せている。

 それは、自らの物語を完結させた筈のヴェルダートとエリサだった。


「ねぇ、ヴェル……」

「なんだ? エリサ」


 手に持つカップをそっとテーブルに置き、エリサは静かに切り出した。

 その表情には、微かな怒りが含まれている。


「貴方、蛇足って言葉知ってるかしら?」

「知ってるぞ。余計な事をして折角上手く行っていた事が台無しになる事だろ? なんだ、それがどうした?」


 何かを堪えるようにされた質問にヴェルダートは気負いなしに答える。

 蛇足とは、蛇の絵を書く競争で一番になったにも関わらず、余裕のあまり本来無い足を書き足してしまい、結果勝負に負ける男の話から作られた熟語だ。

 具体例を上げると、大言吐いて完結したくせに未練がましく更新するギャグ小説の事――等である。


「……これはどういう事?」

「ん? どうかしたのか? ハッキリ言わないとわからないぞ」


 エリサは静かに尋ねた。

 だが、ヴェルダートは知らぬふりだ。いや、ニヤニヤと笑う辺りエリサの訴えを理解しつつからかっている事が分かる。


「台無しだって言ってるの! なんなの! 綺麗に終わったのよ! エリサちゃんちょっと感動して泣いちゃったりしたのよ! 感動を返せ!」


 エリサは心底不満だった。

 ヴェルダートの物語は完結した。しかもハッピーエンドで。

 考えうる限り綺麗な終わり方、しかも末永く幸せに暮らした等と締めの言葉まで入れて演出を行ったのだ。

 にも関わらずこの所業である。

 当たり前の様にヘラヘラと表に出てくるヴェルダートに不満が沸かないはずは無かった。


「いやまぁ、『お約束』だからなぁ。更新が止まってから半年程したら不意に一話だけ更新しないといけないんだ」

「その為だけに更新してんじゃないわよ! 『綺麗に終わったなー』って言ってくれた読者さんの顔に物凄い勢いでドロ塗ってるのよ!」


 エリサの怒りは止まらない。

 ヴェルダートの所業に対してあまりにも不誠実な物を感じたからだ。

 事実、ヴェルダートは己の行動に何の負い目も感じていない。


「はっはっは! 大げさだなぁ!」


 ヴェルダートは大きく笑うと自らが座る椅子の背もたれに深くもたれ掛かる。

 その様子は余裕を通り越して浅慮であるとすら感じ取れる。

 エリサは己の中にある怒りは最高潮に達する。


「完結してもポイント微妙に増え続けてるからって調子に乗ってんじゃないわよ!」

「まぁまぁ、いいじゃないか。そう怒るなよ」


 ヴェルダートに反省の色は見えない。

 その様子を見たエリサは、これ以上彼に何かを言っても無駄なことを悟ると、思う存分嫌味を言ってやることにしする


「それで? 更新して満足でしょ? じゃあさっさと終わりましょ? そして感想欄でボロクソ叩かれてナチュラルに凹むといいんだわ! 今回は私も"悪い点"にだけ延々と長文で書き込みしてやるから! 最後の一文は『切ります、もう二度と読みません』よ!」


 "チート主"さんの心を根本からへし折る行為。

 悪意しか無い所業に流石のヴェルダートも眉を潜める。

 エリサは真剣な表情だ。このまま放っておけば必ずヴェルダートの神経をすり減らすベく感想欄に突撃するだろう。

 その事を理解したヴェルダートは小さくため息をつきながら、本当の目的を話すことにした。


「いやな。一つだけ、もう一つだけ重要なお約束があった事を忘れていたんだ。本当ならこのお約束は出来ないと思っていたんだがな……今日はその重大発表をしようと思ってたんだよ」

「ほへ? 重大発表?」


 ぶつぶつと、設定の矛盾点やキャラの違和感を指折り数えていたエリサだったが、ヴェルダートの言葉を聞くと一転してキョトンとした表情をとる。


「ああ、皆が驚くような話だ」

「なにそれ! 気になるわ! 楽しいこと!?」


 ヴェルダートの言葉に興味を引かれたのだろう。

 テーブルに身を乗り出し、キラキラとした表情を見せながらその内容を問うエリサ。彼女に先ほどの刺々しい態度は既に無い。

 ヴェルダートもそんなエリサを見て満足気に頷くと、彼女のテンションに合わせるように宣言する。


「そりゃあもう、重大発表だからな!」

「何々!? エリサちゃんに早く教えるのだ!」


 エリサの興味は既に重大発表に移っている。

 これだけ前ふりをして言い出したのだ、さぞかし素晴らしいことであろう。

 その様に判断したエリサは、ヴェルダートの口からどの様な言葉がもたらされるのか、楽しみで仕方なかった。


「まぁ、まて。重大発表だからな。これはとっても重大な事なんだ」

「うん、解ってるわ!」


 乗り出した身を戻し、ちょこんと椅子に座ったエリサは、変わらぬ期待の表情を見せながら今か今かと待ちわびている。

 その様子を確認したヴェルダートは大きく頷きながら、大げさに説明を行う。


「いやー。重大発表だからなー! これは凄いぞ! 重大発表だ!」

「……おい」


 エリサはそう静かに告げると、真顔になった。

 前振りが長すぎる。ぶっちゃけウザい。

 そんなエリサの変化にもヴェルダートは動じない。相変わらず大げさな態度で説明と言う名のループを始める。


「俺の重大発表? あの子の重大発表? くそぅ! 何の重大発表なんだ! 気になるぞ!」

「ねぇってば……」

「だが、この重大発表も今するとは言ってない。1週間後、ましてや1か月後である可能性も――」

「――話を聞きなさいよヴェル!!」


 大きくテーブルを叩き鳴らしながら、エリサが叫ぶ。

 周りの客がその様子に驚き、何事かとエリサ達に視線を向ける。

 視線に気づいたヴェルダートは、何でもないと客に向けヒラヒラと振り、面倒くさそうにエリサに向き直った。


「……なんだよ」

「簡潔に言うわ。――勿体ぶるな」


 エリサは息を切らせながら告げる。

 これ以上突っ込みをするのは疲れた。それに不本意とは言え貴重な出番なのだ、突っ込みだけで終わってしまう事だけは避けたかった。


「それは無理だ。読者さんを焦らしてヤキモキさせるのは重大発表の『お約束』だからな」

「『お約束』って言えばなんでも済むと思ってるんじゃないわよ!!」


 エリサは突っ込まずには居られなかった。それはコメディの登場人物としての性だ。

 彼女は、ボケに対する突っ込みが不在のまま物語が進む事だけは避けたかったのだ。

 折角の出番だ、本当ならもっと可愛らしいアピールをしたかった。

 頭の両サイドにまとめた可愛らしいシニョンや、ヒラヒラの付いた美しい衣装も自慢したかった。

 しかし、状況はそれを許してはくれない。

 故に、エリサは心の中で大粒の涙を流しながらも、己の責務を全うする為叫んだ。


「いやー、仕方ないだろ。重大発表なんだからさ」

「クドい! さっさと言いなさい!」


 そんなエリサによる健気な想いを汲んだのか、ヴェルダートが心底不満そうに口を開く。

 結局、どの様に転んでもヴェルダートはエリサを真の意味で蔑ろにする事は出来ないのだ。

 それは完結しても一緒である。

 ヴェルダートと、この場に居ない少女達を含めて、彼らの関係は変わる事が無いだろう。

 彼らは今までも、そしてこれからも、この様な関係を続けていく。

 それこそが彼らの生き方なのである。

 ――そう、それこそが……。


「仕方ないなぁ……。実はだな――」

「あっ! ヤバイ! 話が締めに入ってるわ! 巻いて! 巻いて!」


 何を感じ取ったのか、エリサが慌ててヴェルダートを急かす。

 だがしかし、ヴェルダートは更に勿体ぶった。


「その重大発表と言うのはだな……」

「巻けって言ってるでしょうがっ!! あっ! ちょっと待って! あと少しだけ――」


 ――それこそが彼らの生き方であり、『お約束』なのだから。


………

……


 ……ちなみに、重大発表の内容がヴェルダートの口から語られる事は終ぞ無かった。

 だがこれもヴェルダートの計算の内だ。

 何故ならその話、『書籍化はエターフラグなお約束』は、また別の場所で語られるからだ……。



 ――物語の書籍化。


 これもまた、『お約束』の一つだった。

『これが異世界のお約束です!』が「ぽにきゃんBOOKS」様より書籍化されます!

詳しくは活動報告にて!


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