第二話:ステータス
商業都市ボルシチ、その繁華街にある喫茶店でヴェルダートはマオと共に休憩を取っていた。
本日はマオを伴って彼女の服を購入、今や彼女の服装は普段のダサいローブではなく白を基調に黒のレースが入った可愛らしいゴシックロリータ調の装いだ。
ヴェルダートは軽くなった財布に思いを馳せながら嬉しそうにパフェを頬張るマオを見つめていたが、喫茶店の入り口より赤のドレスが目立つ人物が慌てた様子で入って来たことに気が付くとそちらに視線を移す。
それはヴェルダートもよく知る人物、ミラルダ=ローナンであった。
「ヴェルダートさん、こちらにいらしたのですね!」
ヴェルダートを見つけたミラルダが急ぎ足でやってくる、その表情には焦りが浮かんでおり厄介事の予感を感じさせた。
「おお? ミラルダじゃないか? なんだ、愛の告白か?」
「マオもいますよ!」
ヴェルダートがからかい気味に答える。マオも元気よく手を上げている。
ミラルダはマオが見慣れない可愛らしい服を着て機嫌が非常に良い事に何かモヤモヤしたものを感じながらもヴェルダートへと要件を伝える。
「修羅場展開がお望みならぜひとも。それより、先日調査を依頼した魔物の町。その代表の方がいらしているんですがどういうことでしょうか?」
どこか責めるような口調でミラルダが告げた。
対するヴェルダートは何が起こっているのか分からないといった様子だ。
「は? 別に友好的な関係なんだから問題ないだろう? 何かあるのか?」
「完全武装していらっしゃいますわ、良くない雰囲気なんですけど?」
そう、ミラルダがここまで焦燥をあらわにしている理由がこれだ。
ヴェルダートより友好的な接触に成功したと報告を受けたはずの魔物の町、その首長が自身の戦力を率いてすぐそこまでやってきているのだ。
今のところ衝突は起こっていないもののボルシチの駐屯兵もこの状況にピリピリしている。
このままでは大事になると慌ててヴェルダートに事情を聞きに来たのだ。
「ああ………。把握した、ちょっと話つけるわ」
ヴェルダートはミラルダに告げられた内容より何が起こっているのかを瞬時に判断すると大きなため息を付き席を立つ。
「お兄さん、なぜに友好的なはずの魔物が完全武装でやって来るのですか?」
一人事情が全く理解できなかったマオは堪らず質問を投げかける。
「まぁ、なんだ。『お約束』なんだよこれも」
やや疲れた表情のヴェルダートはそう、一言だけ答えた。
◇ ◇ ◇
商業都市ボルシチの入場門。
ヴェルダートはミラルダとマオを連れたって騒ぎの中心となっている場所へと進む。
人混みをかき分けるとグランナール一行が丁度警備兵達と押し問答を行なっている最中であった。
ヴェルダートは今にも飛び掛からんとする駐屯兵達を手で制するとグランナールの前へと歩み出る。
「ああ! ヴェルダートさん! 良かった、困っていたんですよ!」
グランナールはヴェルダートを見つけると喜色をあらわにして助けを求めた。
もちろん彼らは完全武装である、しかも幹部連中や上位の戦士達が勢揃いである。
ヴェルダートはその様子に再度大きなため息を付くと早速彼らとの交渉に移る。
「困っているのはこっちだよグラン、なんでお前そっちの『お約束』やっちゃうかなー?」
「完全武装ですね! マオもテンション上がってきます!」
「ヴェルダートさん、今回の『お約束』は何でしょうか? さっさと説明してくださいな」
ミラルダは今回の問題の原因が『お約束』であると理解すると途端に嫌そうな顔をしながらヴェルダートへとその内容を問う。
魔物の町の調査をバールベリー公爵より任された関係上、ミラルダはこの場における全権を有している。
彼女は下らない『お約束』で家名と民に傷が付くのだけは避けたかったのだ。
「今回は"人類側の街に出かける"『お約束』だな。こうやって部下の中でも力量に自信がある奴を選んで街を練り歩くんだよ」
「おお! なるほど、確かにそれなりにやりそうな人達ばかりですね、でもなんでその様な事をするのですかお兄さん?」
「そんなもん、決まってるじゃねぇか。 "俺の軍団スゲー"自慢だ。 それ以上でもそれ以下でもない」
「はた迷惑な、一定以上の軍事力の誇示は互いの関係に亀裂をもたらしますわよ?」
そう、これこそが『成り上がり魔物』における『お約束』の一つ。"人類側の街を観光しよう"である。
大抵の『成り上がり魔物』さんは人化が終了してある程度の戦力を保有するようになるとその戦力を見せびらかすかのごとく人類の街を練り歩くようになる。
そうして、"俺の軍団スゲー"を演出し、街の住民サイドで凄いヤツラがやってきた! などの演出を入れることによって悦に浸るのだ。
ちなみに、自軍の保有する軍事力を意図的に見せびらかす行為は"軍事的示威活動"と呼ばれ、場合によっては国家間の緊張を誘発する非常にデリケートな軍事活動である。
もちろん先日友好関係が成立したばかりである勢力の街中で行う事ではない。
「はぁ~。てっきり"お忍びで街へ出かける"方の『お約束』を取ると思ったんだけどなぁ? 思慮深いと思ったのは俺の間違いか?」
呆れたようにヴェルダートが苦言を呈する。
人類側の街へ行く場合、『成り上がり魔物』さんが取る行動は二種類ある。
混乱顧みず団体で押しかけ"俺達スゲー"をするか、こっそりと少数で潜入し混乱を避ける"俺達スゲー"をするかである。
ヴェルダートは先日の会談においてグランナールが比較的常識人であると判断、人類側の街へ行く場合後者を取ると踏んでいたのだ。
「い、いえ。その……彼女達がこっそりと街へ出かけるのは嫌だと言いまして……つい」
ヴェルダートの非難を受けたグランナールは非常に申し訳そうにしながらもその理由を語る。
と同時に彼の後ろにいる何人かの女性を紹介した、それは冒険者や騎士風でどれもが非常に美しい人間の女性であった。
「あれ? お兄さん、あちらの方は人間ですよ?」
「冒険者……。ハーレムの女だな。『成り上がり魔物』はかならず"人間の女"をハーレムに加えるんだ。『お約束』だな」
結局、成り上がり"魔物"と言えども人間が好きなのである。
彼らは絶対に魔物そのものをハーレムに加えることはない、必ず人間形態を取らせるし人間そのものもハーレムに加えるのだ。
「魔物の方なんですからてっきり同族の方に興味があると思ったのですが違うのでしょうか?」
「転生者だからな。どうせ中身はニートとか無職とか引きこもりだ。なんだかんだ言っても見た目優先で人間の女がいいんだよ」
転生者は元が人間なので最終的に人間のハーレムを作ろうとする。
『成り上がり魔物』とは転生者にとってただのステータスであって、人生観やアイデンティティを表現したものではないのだ。
彼に想いを寄せる魔物にとっては悲劇的な事態ではあるが、物語が進むにつれてだれもかれもが人間と見分けの使いほどに人化するので問題はないのである。
もちろん、最終的に魔物である理由はどこまでも薄くなる。
「そんな事ないですよヴェルダートさん! 俺は彼女達の心に惹かれたんです! 外見なんて関係無い!」
痛いところを突かれたであろうグランナールが慌てて反論する。
本当に心に惹かれたのであればハーレム=美女という図式は成り立たないはずである、世に存在する"チート主"さんのハーレムが揃いも揃って美女美少女な時点で容姿重視である事は明らかであった。
「でもそっちの女達はどうかわからないぜー? 案外お前の見た目と地位に惹かれたのかもな? 現実の女みたいにさっ!」
「現実女の話はしやんとこって約束したやろが! このボケがっ!」
ニヤニヤと笑いながら茶々を入れるヴェルダートにグランナールがマジギレする。
先日の会談時にヴェルダートとグランナールが現実女の話で盛り上がった際に決めた約束事を破られた為だ。
「しゅ、首長!?」
「あ、いや……。何でもないっ!」
自分達の首長が突然豹変したことに配下のゴブリン達が少なくない動揺をあらわす、グランナールは慌ててそれをごまかした。
今まで作り上げたキャラが崩壊するほどのマジギレ。
グランナールは現実女に嫌な思い出があった。
「あの方に何があったのでしょうか……?」
「あまり喜ぶべき事ではなかったみたいですね!」
全力で煽るヴェルダートに若干呆れながらマオとミラルダが語り合う。
二人はグランナールの前だけでは現実女の話をしない事を心に決めた。
「ははは、まぁ気にするなよ。ここじゃあ夢のハーレム主だろ? だがな、あんまり女の尻に引かれるのはおすすめしないぞ、関連する面倒な『お約束』も沢山あるしな」
「はぁ、まぁそうですね。わかりました。でも現実女の話しは二度としないでくださいよ?」
グランは落ち着いたのか、納得いかないと言った視線をヴェルダートに向けつつも話を続ける事にした。
「わかったわかった、んで話しは戻るが女にせがまれて完全武装で来ちまったって訳なんだな? 敵対の意思はないと」
「もちろんですよ! 俺達の間に敵対する理由なんて何一つないじゃないですか!? あくまで今回は観光目的です! 武力の誇示なんてとんでもない!」
「でもそれならば非武装かつ少数で来ればいい訳ですからやっぱり自慢したかったのでは? 目立ちたくないと言いながら進んで厄介事に首を突っ込む『お約束』ですね! お兄さんに教えてもらいました!」
「マオさん。事実であっても言ってはいけないことがあります、その事を指摘するのは可哀想ですわよ?」
マオがすかさず突っ込みを入れる。
彼女の言葉は完全に正鵠を射ていた。結局、なんだかんだとそれらしい理由をつけつつも根底には"俺スゲー"をやりたいのだ。
"チート主"とはそう言った人種であった。
「わかりました! わかりましたから、それ以上は止めて下さい!」
堪らずグランナールが叫びだす、すでに彼の胃はストレスで激痛を発していた。
「まぁ、あんまり虐めるのもあれだしな、そもそも男虐めても楽しくないし。どうしたものか?」
「じゃあ俺のステータスを公開すると言うのはどうでしょうか? 弱点すら乗っているこれを示すのは信頼の証としてとれませんか?」
良い解決方法はないかと悩むヴェルダートにグランナールが提案する。
ステータスの表示。自らの能力全てを公開するという事はその弱点や対処法を相手に開示する事と同意義である。
彼の人類側に対する信頼の表れであった。
「首長! それは……」
グランナールの突然の提案に幹部級のゴブリンが慌てる、グランナールの弱点を知られると言うことは引いては彼ら全員を危険に晒す行為になるのだ、無理はない。
「分かっているゴブストイ、これがどれだけ危険なことかって……。でも俺は信じたいんだ! 彼らを……、そして人をっ!」
「しかしっ! いや、言いますまい。まったく頑固なお方だ、いつも我々を困らせる」
「ふふふ、そうは言ってもいつもついて来てくれたじゃないか? 頼りにしてるんだぜ?」
「まったく、首長は我々がついていないと駄目ですからな」
「ははは! これは一本取られたな!」
突然茶番が始まった。
こういった"時として無茶を言う主君"と"それを理解し付き従う部下"を演じたがるのも『魔物成り上がり』さんの悪い癖である。
彼らは一様に"俺カッケー"と"俺の軍団スゲー"を表現したいのだ。
「……いや、盛り上がっている所悪いが俺は別に興味ないんだが? なんでそんな話になる?」
「きっと、なんだかんだと理由をつけて自分のステータスを見て欲しいのですよ、お兄さん!」
盛り上がるグランナール一行の反面ヴェルダート達の温度は非常に冷ややかなものだ。
ぶっちゃけ、この物語はギャグなので能力を聞いた所でヴェルダート達にメリットはないに等しい。
「まぁ、十中八九マオの言うとおりだろうな。なんだかチラチラし過ぎでウザくなってきたぞ……。どうするミラルダ? この場での権限貰ってるんだろ?」
「はぁ、分かりました。ではこの場でステータスを公開し、その情報をローナン家が保管すると言うことで信頼の証としましょう。私も正直疲れましたわ」
「おお! わかってくれましたか! ありがとうございます! では早速!」
ヴェルダートとミラルダは正直面倒になってきたのでグランナールの提案にのる事にする。
そうでもしないとこのまま茶番を続けた後に話が堂々めぐりするからだ。
呆れにも似たミラルダの返答を聞いたグランナールは待っていましたとばかりに懐よりギルドカードを取り出すと手早く自身の情報を公開しだす。
いつの間にギルドカードなと入手していたのだろうか? 準備は万全であった。
少ししてギルドカードより空中にグランナールの能力が映し出される。
この様に謎の技術と謎の素材、そして謎の便利機能まで有しており、型に当てはめたかのごとく非常に高価で再発行に莫大な金額がかかるのがギルドカードの『お約束』であった。
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【基本情報】
名前:グランナール
種族:アルティメットウォーロードカオスエンドゴブリンスケルトンスライムロード
称号:全てを統べし創世神話の神王
【ステータス】
LEVEL : 1875
HP :18000/18000
MP : 9860/ 9900
SP :10000/10000
DEF : 4570
AC : -255
MDEF : 5780
MR : 99.999%
STR : 34580
MAG : 23001
INT : 99999
MND : 99999
WIL : 99999
CON : 99999
DEX : 45060
SPD : 99999
AGI : 99999
CON : 54000
VIT : 80000
CHA :99999999999
LUK :99999999999
WEIGHT : 2300/ ∞
EXP : 567837232
【スキル】
軍団指揮
魔法剣
双剣術
ポーション作成 中位
武具作成 中位
防具作成 中位
魔法具作成 中位
魔法付与 中位
防御魔法 高位
属性魔法 高位
神性魔法 中位
精霊魔法 高位
召喚魔法 中位
雷獣の電撃
竜の力
甲殻獣の表皮
精霊の祝福
多頭竜の並列思考
人系スキル強化
悪魔系スキル強化
毒耐性 EX
呪耐性 EX
精神耐性 EX
再生 EX
属性防御 高
魔法防御 中
物理耐性 EX
斬撃耐性 EX
衝撃耐性 EX
【固有スキル】
魔物の王:魔物達の王、配下の魔物に対する能力上昇と絶対命令権を有する。各種能力が大幅に向上する。
絶対命名権:命名した魔物に対して種族の壁を破壊し、自身と同様に能力が上昇する様にする。※ただし一度命名すると変更できない。
奪いし者:倒した敵の能力を一定確率で入手する。また、特殊魔物に関しては絶対に能力を手に入れる。
転生神の祝福:転生神(金髪ロリババァ、なのじゃ口調)より受けた祝福。幸運とカリスマが限界を突破して向上する。
剣聖剣:名もなき剣聖より授かりし剣技、全ての物を概念ごと切断する。
混合獣の脅威:通常なら反発する各種能力をリスク無しに統合する。
小さき修羅の戦鬼:攻撃力、防御力、魔法防御が大幅に向上する。
死より来る骸骨:斬撃耐性、魔法耐性、速度関連が大幅に向上する。
究極なる液体状の王:魔法関連、物理耐性が大幅に向上する。
偽なる勇者:運命に仕組まれた偽りの勇者。各種能力と剣術ダメージが向上する。
魔王の素質:魔王になる素質を持つもの、より多くの生命を奪うことによって覚醒する。
神王:神により次代の神となる定めを授けられた王。彼は何を思い、何を為すのか……?
幼女に愛されし者:一定数の幼女に愛された者、幼女に対するあらゆる行動に大してボーナスが発生。
真・絶対命名権(NEW!):絶対命名権で命名した名前を変更する。
【獲得称号】
転生者
導きし者
奪いし者
ゴブリンウォーロード
カオスエンドスケルトン
アルティメットスライムロード
混合獣
指揮官
魔物の王
戦士
騎士
双剣士
魔法剣士
剣聖
中級薬師
中級鍛冶師
中級魔法具師
中級付与魔法使い
上級防御魔法使い
上級属性魔法使い
中級神性魔法使い
上級精霊魔法使い
中級召喚魔法使い
雷獣を倒せし者
竜を屠りし者
甲殻獣を屈せし者
精霊に愛されし者
多頭竜を倒せし者
幼女に愛されし者
悪魔と歩む者
人と歩む者
☆――――☆――――☆――――☆――――☆――――☆――――☆
「クソなげぇ!」
ヴェルダートが堪らず突っ込みを入れる。
そう、これこそが『お約束』中でも随一の問題を誇る『ステータス』だ。
"チート主"さんに必須である能力強化、それを端的に表すために用いられる『ステータス』は大して代わり映えもしないくせに非常に文量を取ることからすこぶる評判が悪い。
酷い"チート主"さんになると毎話この『ステータス』を挿入し、読むものを辟易とさせる問題があった。
「くだらんステータスで字数を稼ぐのやめろよ! 文字数からボリュームあるかと期待した読者ががっかりするだろうが!」
「……見ているこっちが恥ずかしくなる名称ですわね、しかも語呂が悪いですわ」
「ステータスが多すぎて把握出来ません!」
文字数が多かったのでボリュームがあると思ったらステータスだった。
何を言っているのかわからないと思われるがこれが一部の"チート主"に蔓延る問題である。
"チート主"さんが日々強くなる様子を詳細に描写する事は至難の業である、どうしても同じような表現になりがちなそれを解決する為に生み出された『ステータス』は"チート主"さんにとっての救世主だ。
適当に強そうなスキル名や能力名を考え、毎回継ぎ足すだけで強くなった事を実感できるこの『ステータス』は多くの"チート主"さんに愛され、多くの読者を落胆させた。
もちろん、『ステータス』上に記載される能力と言うものは基本的にその場その場で考えられる物のため、別に物語に深く関係もしてこないし伏線にも成り得ない。
と言うかぶっちゃけ能力を手に入れた"チート主"さんすら忘れてしまう様な代物でしか無い。
カッコイイ能力はアクセサリーの一種。
"チート主"さんが持つ己の力に対する姿勢が感じられるようであった。
「すみません……。目立ちたくなかったのですが………」
「うぜぇ! チラチラすんなって言ってるだろうが!」
ドヤ顔で能力公開からの目立ちたくなかったコンボ。
先程マオが指摘した通りこれもまた"チート主"さんが持つ悪い『お約束』である。
普段から五月蝿いほどに目立ちたくない、放っておいてと言っているにも関わらず良さげなタイミングではこれ見よがしに能力をお披露目をする。そうして拍手喝采を浴びた後に何事も無かったかのようにまた目立ちたくない、放っておいてと言い放つのだ。
この構ってちゃんぶりとダブルスタンダートっぷりは強靭な忍耐力を持つ読者ですら膝を屈するものであり、事実多くの読者が耐えられずブラウザを閉じている。
そんな典型的構ってちゃんなグランナールにヴェルダートがイライラしていると割りこむように幹部のゴブリン達が発言する。
「首長! 信頼の証として我々もステータスを公開するべきかと思いますが?」
「オレタチ、トモダチ。オレタチ、ウラギラナイ」
「また無駄に文字数使うじゃねぇか!? 幹部全員ステータス公開するつもりかよ! いい加減にしろ!」
ヴェルダートの突っ込みがほどばしる。もはや事態は加速度的にグランナールの"俺の軍団ツエー"自慢へと移行しおり、取り返しのつかないところまで来ていた。
「ミラルダさん、AC(アーマークラス)とDEF(ディフェンス)って両立できるステータスなんですね、マオ初めて知りました!」
「それよりも私、この"全てを統べし創世神話の神王"と言う称号が気になりましたわ。語呂が悪い上にとっても恥ずかしいですわね」
突っ込みを入れる者、入れられる者。
ギャグ空間に完全に移行した今、特に役割のなくなったマオとミラルダはグランナールの『ステータス』を冷静に分析する。
もちろん、『ステータス』は基本適当に考えられている為に無駄な行為である。
ただ単純に眺めながら、へぇー凄いんだね。と感じることが最も正しい姿なのである。
「お前達のステータスも公開するだって!? 良い事言ったぞゴブストイ、ゴブエル! さっそく公開するんだ!」
「やめろって言ってるだろうが! くどいんだよ! 毎回似たようなステータスを延々見せつけられる読者の気持ちにもなってみろ!」
「止めないで下さいヴェルダートさん! これは俺達から人類へ向けた信頼の証なんです! 受け取ってください!」
「いらねぇ! かつてないほどに迷惑な信頼の証だぞこれ! 目が滑るってレベルの話じゃなくなるぞオイ!」
主人公だけではなく、主要な仲間のステータスをも公開する。
一見暴挙に見えるこれもまた"チート主"さんの好む行為である。
この様に、なんだかんだと理由をつけて様々なステータスを公開する事によって膨大な文章量を稼ぐのが彼らの得意とする技である。
故に肝心の本文はスッカスカであった。
「むぅ、MAG(マジック)とINT(インテリジェンス)とMND(マインド)とWIL(ウィル)の違いがわかりません! そしてCON(コンセントレーション)とCON(コンスティテューション)でしょうか? マオ混乱してきました!」
「どうして"絶対命名権"で決められた設定を"真・絶対命名権"で覆しているのでしょうか? あと"幼女に愛されし者"はギャグのおつもりですか? 寒い上に気持ち悪いですわ」
相変わらずマオとミラルダは『ステータス』の分析に余念がない、なんらかの問題があればとりあえず難癖をつけてやろうと密かに画策している為だ。
彼女達の様に"チート主"さんが強い事を表すフレーバー的価値しか無い『ステータス』を詳細に分析して、粗があれば難癖をつける輩も実は多数存在する。
『ステータス』とは、一見お手軽かつ便利に見えるものの詳細で綿密な数値設定が必要とされる非常に扱いの難しい『お約束』でもあった。
「さぁ! 受け取って下さい! これが幹部全員のステータスです!」
「やめろぉぉおお!!」」
冷静に『ステータス』を分析するマオとミラルダを他所に必死なヴェルダートの叫びが上がる。
もちろん、彼の奮戦はむなしく終わる。
結局、ヴェルダートはその後幹部全員及び一般ゴブリンの平均的ステータスに至るまで合わせて10万文字、文庫本一冊程にまでなる量のステータスを閲覧させられるのであった。