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これが異世界のお約束です!  作者: 鹿角フェフ
第三章:勇者は世界よりも女が大切なお約束
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閑話:『TS』(改訂版)

内輪ネタが酷かった為6月21日全面改訂しました。

改定前の話はお蔵入りとなります。

 大柄な男が商業都市ボルシチの街中を駆けている、彼は自らの目的地である「老騎士の休息亭」を見つけると息を切らせながらその速度を上げる。


「おーい、ヴェルダート! タケル!」


 酒場に駆け込んできたのはオーク族のゴリラだ、ヴェルダート達の知人でもある彼は目的の人物であるヴェルダートとタケルが席にいる事を確認するとドタドタと駆け寄る。


「ん? どうしたんだゴリラ? えらく嬉しそうじゃねぇか」


 ゴリラの興奮は異様だ、冷静沈着とまでいかずとも普段から最低限の落ち着きを持って行動する彼がこうまではしゃぐのはそう多くない。


「あ、ゴリラさん。お久しぶりっす!」

「挨拶なんていいんだよ! あの娘達がまた来ているらしいぞ! ちょっと見に行かねぇか?」

「おい、またか? 俺は別に見たくもないんだがなぁ……」


 ヴェルダートはゴリラの口振りより彼が何を言いたいのか瞬時に把握すると興味無さげに答える、反面タケルは何の事か分かっていない様子だ。


「そんな事言うなよ! 一人だと寂しいから一緒に見に行こうぜ!」

「お前は何キャラなんだよ……」

「へ? 何があるんすか!?」


 学校で連れ立ってトイレにいく男子の様な台詞を吐きながら、嬉しそうにヴェルダートを誘うゴリラに話題を理解できていないタケルが堪らず声をかける。


「ああ、『TS』だよ……」


「へ? 『TS』?」


 そう、ゴリラが見に行こうとしていたものとは、『TS』娘達であった。




◇   ◇   ◇




 広場には沢山の女性がいた、その誰もが美しく、そして愛らしい容姿をしている。

 それらはある種の、男性達の理想の具現と言っても差し支えのない不思議な魅力があった。

 彼女達の周りには多くの男性が集まっている、手に持つ魔道具は景色を紙に転写する能力を持つカメラに似た品だ。どうみても撮影会であった。


「おお! 凄い可愛い子がいっぱいっす! 来てよかったっす!」

「分かるかタケル! やっぱりいいよな! ガハハハハ!」


 女性に目がないタケルが集まる美女達を見ながら嬉しそうに声をあげる、その様子にゴリラも満足そうだ、反対にヴェルダートは冷め切っている。


「いやオイ、アイツラ『TS』だぞ? なんでそんなにテンションあがってんの?」

「あ、さっきから気になっていたんすけどその『TS』って何っすか?」


 『TS』を理解していないタケルが質問する、ヴェルダートは真実を教えたらタケルも考えを改めるであろうと『TS』がどの様なものであるのか説明を行う。


「『TS』って言うのはな、"Trans(トランス)Sexual(セクシュアル)"の略で意味は性転換。単純に言うと何らかの原因で肉体だけ別の性別になっちまったてヤツラの事を言うんだ。アイツラはその集まりだな、もともと男で『TS』して女になったから"俺カワエー"でもやってるんだろ」



 『TS』、それは物語における一大ジャンルである。このジャンルを好む"チート主"さんは非常に多く、そこかしこでこの『TS』主人公を見ることが出来る。

 そんな『TS』だがそれが物語の根幹やテーマとして扱われる事は少ない、何故なら単純に作者の趣味でファッション的に扱われるからだ、故に別に『TS』しなくても物語が成立する謎の状況が発生している。


 取り敢えず男よりはかわいい女の子がいいんだけど女主人公とかの気持ちはわからないから男を『TS』させてみた。


 たいていこの様な理由で作り上げられるのが『TS』キャラであった。



「ふーん。中身はさておき肉体的には可愛い女の子なんすね。うーん、考え様によっちゃ………」


 ヴェルダートの説明を聞きながら考え込んでいたタケルはそう静かに呟く。

 タケルは今時の"チート主"さんには珍しく肉食系男子であった。女だったらなんでも良いとも言い換えられる。


「おい、何を考えてる。不穏な空気を流すな。精神的BL(ボーイズラブ)とか誰得なんだよ」

「細かい事気にするなよ、ハゲるぜ! なぁタケルぅ!」


 ヴェルダートが嫌な顔をしながら突っ込みを入れる、だがしかし二人は何でもないと言わんばかりに視線の先でポーズを取る『TS』娘達に釘付けだ。

 二人は『TS』でも全然OKなタイプであった。



「うむ……わしかわいい!」


 その時であった、可愛らしい声が『TS』娘達の中より上がる。

 それは美しい容姿を持つ女性達の中でも一際目立つ、どこか蠱惑的(こわくてき)な魅力を持つ幼い少女であった。可愛らしいポーズを取って撮影の嵐を一身に受けている。

 ゴリラはその少女が放つ、あらゆるものを魅了してやまないその雰囲気を感じ取ると相手が自分の知る人物であると理解し声を上げる。


「お! あのオーラは! おいヴェルダート。"賢者ダンタリオン"さんだ。遂に理想の幼女になったんだ、スゲェ! めちゃくちゃかわいいぜ!」


 "賢者ダンタリオン"

 それこそがこの蠱惑的な少女が持つ真の名前だ。

 彼女、いや彼は齢200歳を超える伝説的な魔法使いである。そして同時に長年培った己が魔法の粋を集めて理想の幼女へと『TS』を果たした究極の夢追い人でもあった。


「………おや、お主はゴリラか。どうじゃ? わし遂に夢叶えたぞ? かわいいじゃろ?」


 少女は少し離れた場所にいるにも関わらずゴリラに気づくと手を振りながら話しかける、口調はともかくその所作はまるで幼子(おさなご)が友達を見つけたかの様に天真爛漫だ。

 完全に計算され尽くされていた。


「ああ、かわいいぜ! 最高だぜ! ダンタリオンさん!」


 ゴリラはいつの間に用意したのであろうか? 最新式の撮影魔道具を取り出すと恐ろしい勢いでダンタリオンに向けてシャッターを切りまくっている。

 彼の顔には笑顔があふれていた、それはとても充実したものである。

 ヴェルダートは無表情であった。


「すげぇっす! 皆すげぇかわいいっす! 特にあのダンタリオンって娘、めちゃくちゃかわいいっす! ゴリラの兄貴! 是非紹介して欲しいっす! 俺ガチで狙うっす!」


「おいおいタケル! お前ぇなんかにダンタリオンさんを紹介できるわけないだろ!? かわいすぎて恐れ多いぜ! ガハハ!」


 先程より、ぽぉっとした表情でダンタリオンを見つめていたタケルであったが、ハッと気が付くと興奮したようにゴリラに捲し立てる。

 彼はダンタリオンの虜になっていたのだ。ダンタリオンの中身が齢200になる男性である事も把握しているにも関わらずだ。


「いや、お前ら何盛り上がってるの? アイツラ全員中身男なんだよ? 場合によっちゃ油の乗り切ったおっさんだったりするんだよ?」


 ヴェルダートは静かに、そして冷静に突っ込みを入れる。

 中身は男なのだ、いかに美しい女性と言えども忌避感(きひかん)はある。彼は一般的な男性の意見を代弁するかの様に二人に語る。


「うっせぇよヴェルダート! 空気の読めねぇ奴は黙ってろ! かわいいの前にそんな些細(ささい)な事は意味をなさねぇんだよ!」


「そうっすよ兄貴! あんなかわいい子が沢山いるのに放っておくなんて男がすたるっす!」


「え? 何このアウェー感」


 忌避感はある。この場でそう思っていたのはヴェルダートだけであった。


「お! そうだダンタリオンさん! あんた幼女になったんだろ! じゃあ約束通り俺にも『TS』の秘術教えてくれよ!」


 ゴリラが思い出したかのように大声でダンタリオンに訴える。彼は以前よりダンタリオンが『TS』に成功して時間ができた暁にはその秘術を伝授してもらうと約束していたのだ。


「ほぉ、確かにそんな約束もしたのぅ。あいわかった。お主は熱心な男じゃし『TS』の秘術も身につけることができよう。撮影会が終わるまでしばし待っておれ!」


「やったぜ! ついに念願叶うぜ! ガハハハハ!」


 ダンタリオンより了承の声が上がるのを聞いたゴリラが心底幸せそうにガッツポーズを取る、ヴェルダートは気持ち悪いものを見るように彼と距離を取りその意図を確認する。


「は? なにお前、女になるの? 『TS』するの?」


「ゴリラの兄貴! 一応伝えておきますけど俺の好みは同年代清純系ボイン女子っす!」


「おいおい、お前ら興奮しすぎだ。このゴリラ様の新しい門出を祝うのは分かるがそう急かすなよ」


「いや、急かしてねぇし」


 ゴリラはその太い腕を組みながら嬉しそうに二人に語る。

 彼は周囲よりその醜悪な容姿を野次られるあまりどういう思考に至ったのか幼女になる道を目指したのであった。


「そうだなぁ、タケルにはワリィが俺が目指すのはダンタリオンさんと同じく完璧な幼女だ! そうして今まで俺のことをブ男だブ男だと馬鹿にしてた奴らを見返すのさ!」


「凄いっす! 幼女っす! ヴェルダートの兄貴が黙っていないっす! ゴリラの兄貴まさかのハーレム入りっす!」


 ゴリラの夢を聞いたタケルが楽しそうに合いの手を入れる。

 少しだけ離れた場所でそれを聞くヴェルダートの顔は真っ青であった。


「言われてみりゃそうだぜ! こりゃあヴェルダートに言い寄られるな、なにせ幼女だからな! まぁでも俺とコイツの仲だ! ハーレム入りは無理だがちょっと位はサービスしてやってもいいかな! 例えば………ヴェルダートお兄ちゃん! とかどうよ!? ガハハハハ!」


 ゴリラが気持ち悪い表情で「ヴェルダートお兄ちゃん!」とポーズを取る。

 その様子を直視してしまったヴェルダートは小さなうめき声をあげ、手を口に持ってきたかと思うと。



「うぼぉおげぇぇぇええ!」



 盛大に嘔吐した。


「「うぎゃああああ!」」


 ゴリラとタケルの悲鳴が響き渡る。間髪入れずゴリラが突っ込みを入れる。


「ちょとおぉぉぉ! ヴェルダートさぁぁあん!? 何いきなり吐いちゃってるんですかぁぁああ!?」


「ここまで飛んできたっす! 服に付いたっす! 折角の一張羅がぁ!」


「げほっ、おぇ! 気持ち悪い話をしてんじゃねぇよテメェら! 精神的ブラクラってレベルじゃねぇぞ! 健康被害に対する損害賠償請求すんぞコラ!」


 いまだ込みあげて来るものを必死に抑えながらヴェルダートがゴリラへと抗議する。

 流石に彼もこのような場で不意の精神攻撃を受けるとは思っていなかったのだ。


「うっせぇよ! 男は誰しもかわいい女の子になりたい願望があんだよ! なんだかんだ言いつつも皆かわいい、かわいいって言われてぇんだよ! 俺も言われてぇ!」


「俺はどっちかと言うとかわいいって言ってあげたいっす! この際中身なんてどうでもいいっす! 男は相手がかわいいなら『TS』でもいけちゃう生き物っす!」


 ゴリラの反論にタケルが被せる。もちろん彼らの言は極少数な意見である。


「オメェラ気持ち悪いわ! そういうニッチな話は他所でやれよ! しかもなんで微妙に誇らしげなんだよ!」


 二人は非常にマニアックな性癖の暴露に対して平然としている、それどころか微妙にドヤ顔だ。

 そしてヴェルダートの話を一切聞いていなかった。


「幼女になったらかわいい服着るんだ。ぜってぇ事ある毎に、はわわ! みたいなかわいい台詞を言ってやるんだ、そうして男どものハートを射抜いてやるんだ……」


「あっ! あっちの『TS』っ娘達が俺を見てるっす! チャンスっす! お近づきフラグっす! 俺のハーレム伝説が今始まるっす!」


「話を聞けよ!!」


 ヴェルダートの突っ込みだけが響き渡る。二人は既に自分の世界に居た。



「おーい! ゴリラや、ご歓談の所悪いがわしのかわいい撮影会は終わったぞ。秘術を知りたいんじゃろ? ついてきなされ」


 撮影会が終わったのか、ダンタリオンがゴリラの元へとやってきた。

 先程までブツブツと呟きながら頑なに自分の世界から出ようとしなかったゴリラは幼女の気配を感じ取ると直ぐ様顔を上げて笑顔になる。とても気持ち悪い笑みだ。


「わかりやしたダンタリオンさん! 世界一かわいいよ! うぉおおおおお!」


「俺も早速声をかけてくるっす! ようやくハーレムタグを付けれるっす!」


 ゴリラはダンタリオンを肩に乗せると大声で叫びながら別れの挨拶もせずに走り去っていく。

 タケルも気合十分に『TS』娘達の方へ走っていった。


 ヴェルダートはそんな二人を眺めながら何故か何日も働き詰めた後の様な疲労感を感じている。


「……疲れた、なんかめちゃくちゃ疲れた。帰るか、そうして何もかも忘れよう」


 そう、誰に言うともなく呟きながらトボトボと帰路につく彼には哀愁が漂っていた。



 こうして、ヴェルダートの心に決して癒えない傷を残して『TS』達による謎の撮影会は終了した。


 ちなみに、タケルが声を掛けた『TS』さん達は騒ぐ彼らを見ていただけで興味など無く、それどころか全員百合百合したい人達だった為にあっさりとフられる。

 そしてゴリラはダンタリオン老の教えにより見事『TS』の秘術を獲得したが、魔法制御が甘いせいかいくら挑戦しても洋ゲータイプのオーク女に『TS』し、盛大に泣きはらしながら幼女への道を諦めた。

『TS』後のゴリラにご興味がある方は、参考画像として"マゾーガ"で画像検索を行なって下さい。尚、検索した結果引き起こされた健康被害に対する責任の一切を作者は負いません。

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