エピローグ
一面の花畑に立つ一人の女性。
青い瞳に金の髪。
年の頃は十二、三。
両親曰く、祖母の若いころと瓜二つらしい。
これから年を重ねるごとに、さらに美しくなっていくであろうその少女は、目の前の花畑を、ただ茫然と眺めている。
長く続いた二つの国の戦争。
彼女は避難先からようやく生まれ故郷の家に帰れる。
その道すがら、幼き日に、彼女の祖母と二人、訪れた花畑にやってきた。
その時一緒だった祖母は、もういない。
最後まで、長年暮らしてきたあの家に戻りたがっていたけれど、結局その夢も叶わぬまま、二年前に亡くなってしまった。
懐かしい思い出の地に、今は一人、その美しい少女だけが佇んでいる。
「綺麗ですわ…お婆様…」
そう、言葉を漏らした彼女の顔は、とても辛そうな、今にも涙を流しそうな表情だった。
それは、決して、亡き祖母との思い出がここに眠るから、だけではない。
「あぁ…なんて美しい…」
少女は花畑を遠く、ぼんやりと見渡し、そうつぶやいた。
彼女の目に映るのは、一面の赤。
今、この丘は、どこまでも赤く、紅く、朱く染まっていた。
「お婆様の仰った通り、なんて鮮やかで…なんて悲しい色…」
不意に、懐かしい声が蘇る。
――〈虹の花〉、この花はそう呼ぶのだそうだよ
――本当の名前はわたしも知らない
「虹の花…」
少女の祖母が亡くなる年の春、ちょうど今頃。
彼女は祖母から聞いていた。
この花の色について。
――雪がいっぱい積もった次の年は白。
――晴れた日が多ければ黄色。
――雨の日が多ければ青。
そして、
――大地がたくさんの人の悲しみを吸った後は、真っ赤な花が咲く。
少女の流した涙が、頬を伝い、草原に落ちる。
少女は一人、一面に赤い花の咲くこの丘で、澄みきった空を見上げる。
あの日の老婆のように。
少女は一人、平和の祈りを空に捧げる。
この、虹の花の咲く丘で。
お読みいただき、ありがとうございました。
これにて完結でございます。
二人の戦士の勝敗や、戦争の勝敗については、正直考えていません。
今後も書く予定はないと思います。
自分としては、どっちかに敗けてほしくないんです。
ですので、彼らの戦いの結末については、読んでくださった方々が自由に想像して下さると嬉しいです。
このような結末には、正直、賛否両論あるかとは思いますが・・・
その辺は、感想にてお願いいたします。




