【16・終】主人公の戦いは、まだ始まったばかりだ……
事件から二週間後(杉彦自身、怪我は大したことなかったのだが、氷群の一言で気絶してしまい一週間ほど目を覚まさなかった)、無事退院する事ができた杉彦だったが、氷群の進言によりパートナーを降ろされてしまう。
まだ杉彦の戦闘能力が氷群と比べて段違いに無さ過ぎていたことと、氷群がこれ以上杉彦を傷つけたくないという意志が重なって下されたある意味当然の結果だった。
しかし、また絶望のどん底に落とされた杉彦は退院してからというもの、ますます氷群に対する追っかけ行為がエスカレートしてしまう……
「兄貴ぃ~入るよ~。ってわあああああああああ!!」
広美が久々に杉彦の部屋入ると、壁一面に貼られていた氷群の写真が全てデジタルフォトフレームに変わっていた。紙の媒体だけでは撮影した量を収めきれなくなったからだ。
更に、一流の造型師もビックリの完成度を誇っている氷群の等身大フィギュアが三体も置かれていた。
一体は戦闘着。二体目は通勤着。三体目はなぜか「一球入魂」と書かれたTシャツとデニムの短パンというラフな服装だった。
ちなみに、これらは全て杉彦の手製である。
「あ、あ、あ、あ、あにきいいいいいい!!なんなのコレはああああ!!」
ガクブルしながら叫ぶ広美。
机で小さい氷群のフィギュアを制作中の杉彦は嫌な顔で振り向く。
「うるさいぞ広美。それは近所の方の情報を元に造った氷群さん部屋着バージョンだ」
「んなこと聞いてんじゃないわよボケェ!!なんであいかわらずストーカー行為続けてんのよ!!」
「おいおい心外だなぁ。ちゃんと学校にも行きだしたし、シルヴァー・ハントの任務も遂行してるぞ?」
「そういう問題かああああああ!!」
「それより今氷群さんにあげる用のご本人フィギュアを造ってるんだから邪魔しないでくれ」
「本人にあげるのかよ!?私にも造ってちょうだい!!」
方向性は相変わらずの隙有兄妹であった。
「それでこそですぜダンナ!!」
「うわああああああああああ!!」
またしてもスキをつかれた杉彦。
手が滑った拍子に、氷群フィギュアの髪の毛を切り落としてしまった。
「うぎゃああああああああああ!!て、てめぇ!!なんてことしてくれたんじゃ!!」
誰となく叫ぶ杉彦。
「相変わらずスキだらけですぜダンナ!」
「……って、あれ?ぴょん太!?」
「あら、あの時のタヌキさん」
夢か幽霊か。
どこから来たのか、ちゃっかり杉彦の部屋にぴょん太がいる。
あの事件後、ぴょん太の死体がどこかに消えてしまい、杉彦は異常な虚しさを感じていた。時折初めてぴょん太と出会った山に出かけては、ぴょん太に似たタヌキを探していたりもした。それがなぜこうもあっさり、しかも生きて登場するのか……
「なんで生きてんだよ!!あの展開はどう考えても死んでるオチだろ!!」
「不謹慎ですぜダンナ!!あっしはまだ死んでませんぜダンナ!!」
「うそだ!!パタッて力尽きてただろ!?」
「その方が劇的だと思ったからですぜダンナ!!」「タヌキがそんな演出すんな!!」
久々にわーきゃー言い出す一人と一匹。
「また兄貴が変になりだしたし……」
それを見てまた杉彦の奇行が始まったと、ドン引きする広美。広美には杉彦が独り言を叫んでいるようにしか見えないのだ。
「聞いてくれ広美!!このタヌキはな!!しゃべるタヌキなんだ!!」
鬼気迫る杉彦。それを更にウザがる広美。
「はぁ!?何言ってんの?」
「お前にも聞こえるはずだ!ささっ、こいつに耳を当てて!ほら!」
「ちょ!!急に近づけんなし!!そんなんだから氷群様に見捨てられるのよ!!ざまーみなさい!!」
「うるさい!!シルヴァー・ハントのメンバー全員に気味悪がられてるお前よりマシだろう!?」
「七回死んで」
「七回は死ねませんぜお嬢さん!!」
「だから聞こえねぇって!!」
結局、また人生の振り出しに戻った杉彦。氷群への本当の告白はまだまだ遠いようだ。
― 完 ―
以上でございます。
これが拙僧の初小説作品とあいなりました。
何卒ご感想などいただけましたら幸いです。