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【12】主人公の待機

 真知子の予想に沿ったというか、誰もが認める、しかし誰もが複雑な心境になる結果となった。

 杉彦がシルヴァー・ハントに所属して一ヶ月と経たずに、実力のみで正式な戦闘員になったのだ。

 元々のポテンシャルが非常に高く、経験を吸収して実力に変えられるだけのやる気(氷群への愛情)もあって、メキメキと戦闘能力を上げていった。

 ちなみに、氷群への追っかけ行為も再開させたお陰で、心身ともにますます絶好調になった杉彦(いつの間にかぴょん太の姿が見えなくなったがまぁいいか)。正式戦闘員となった今、次なる目標はもちろん、氷群のパートナーとして一緒に戦闘に参加することだ。

 まぁ杉彦としてみれば、戦闘などは二の次で、氷群とお近づきになることを正式に認められることの方が重要なのだが。

 そんなこんなで杉彦の希望はあっさり叶い、ビッグ・マミーこと、阿狩真知子は正式に杉彦を氷群の戦闘パートナーに着任させた。

 ここまで来るともうハッピーエンド間近。のように見えたのだが…… 

 

 ここはシルヴァー・ハントと警察が合同で使用する規定を設けた派出所の一つ。

 現在、氷群と杉彦は事件発生の知らせをいつでも受けられるよう、ここで待機していた。

「……ねぇ、氷群さん?」

 この派出所に勤務中で、茶色いショートヘアーの婦人警官、山元徳子やまもとのりこが気まずそうな表情で氷群に話しかけてきた。徳子は小柄なため、幼稚園児が大人に向かって話すが如く、首を上に向けている。

「……はい、なんでしょうか?」

 無表情だが、しっかり徳子の顔に向けて返答する氷群。姿勢が兵隊の待機中のソレであるところが彼女らしいと言える。

「あのさ、さっきからあそこでこっち覗いてる男って……」

 徳子はおそるおそる近くにある電信柱に身を潜めている男に向かって指を指した。

 その指された男こそ、阿狩杉彦本人である。

 ここまで心も体も必死になって鍛え抜いてきた杉彦だが、いざ氷群のそばに近づくと、重度のインフルエンザと心臓発作が同時多発する状態から相変わらず抜け出せていなかったのだった。

 指を指されたことに気づいた杉彦は思わずササッと身を隠した。

 それを表情を全く変えないまま見届ける氷群。

「彼ですか?彼は阿狩杉彦。十六歳。男性。当組織の立ち上げ人であるビッグ・マミーこと、隙有真知子のお孫様です。本日から正式に私の戦闘パートナーとして着任しました」

「いい、いや、そういうことじゃなくてさっ、なんであんなとこでコソコソ隠れてるのかなって……」

 まぁ一般人なら誰もが思う疑問だろう。

「彼の祖母であるビッグ・マミーによりますと、彼は重度の人見知り症候群という病を患っており、初対面の人間と関わるのにとても時間を要してしまうのだそうです」

 ニュースを読むアナウンサーのように抑揚のない話し方で氷群は説明する。

「そ、それで仕事に影響出ないの?」

 氷群の説明に更に疑問を抱いた徳子は、普通にまともな意見を出した。

「戦闘になれば問題ないとビッグ・マミーから伝達されています」

 徳子とは逆に、ほとんど違和感を抱いていない氷群。

 ちなみに、氷群は未だに杉彦のあの行為が自分に対するものだと気づいていない。事情をよく知る真知子もこの件に関しては面白がって氷群自身には伝えていなかったりする。

 そんな感じで、ハッピーエンドにはまだまだ遠い二人の間柄が続いているのであった。

 と、そこへ黒いロングヘアーの婦人警官、黒上冴子くろかみさえこが巡回から戻ってきた。

「あ、お帰りなさい。黒上先輩」

 冴子が自転車を降りるところへ、徳子が笑顔で駆け寄ってくる。

 そんな徳子をよそに、冴子はなぜか浮かない顔をしていた。

「……ねぇ、徳子」

「あ、はい。なんですか先輩?」

「あれ……」

 冴子は近くの電信柱に向かって指を指した。その電信柱は、杉彦が先ほどから隠れている電信柱だった。

「あの後ろにいる男って、もしかして阿狩杉彦じゃない?」

 徳子は驚きの声をあげた。

「えぇ!?先輩、ご存じだったんですか!?」

「ご存じというか、友達がシルヴァー・ハントに所属しててね。その中で噂になってるらしいのよ。彼が氷群さんをストーカーしてるって」

「ええええええええええええ!!」

 更に驚く徳子。無理もない。本人の目の前で、しかも警察の派出所さえ目の前にして堂々とストーキング行為をする人間など、見たことも聞いたこともなかったからだ。

 更に言ってしまえば、そのストーキング行為が、本人の祖母で且つ氷群の上司でもある人物の公認というところは、もう驚愕を通り越して呆れてしまいたくなる。

 頭がパニック状態に陥った徳子は、おもむろに手錠を取り出して杉彦の方へ向かおうとする。

「ま、待って徳子!」

 それを冴子は必死に取り押さえた。

「気持ちは分かるけど、そもそも本人が被害を受けている自覚がないし、被害届けも正式に出されていないのよ!?」

「は、離して下さい先輩!!警察とかいう以前に、女として許せないんですぅ!!」

「あんた、昔になんかあったの!?」

 などと警察官にあるまじきドタバタ劇を二人が繰り広げているのを、氷群は涼しい目で見守っていた。

 そして、彼女たちの一連の動作を、じっとしながら見届けている杉彦。

(こ、こんなんじゃ戻るに戻れない……)

 実のところ、そろそろ普通にしなきゃいけないんじゃなかろうかという気持ちが芽生えだしてきていたのだが、あんな感じのお出迎えであれば、正直御免被りたかった。

 こんな感じでそれぞれがバラバラな状態がしばらく続いていたが、夕方に一本の通報が入ってきて、空気が変わった。

「五丁目の湾岸地帯に獣化犯罪者が出現したそうです!廃倉庫で麻薬の密売が行われている最中、その密売人の一人が獣化し、暴れている模様!」

 なんとか冷静さを取り戻していた徳子が最初に通報を受け、皆に報告する。

 状況を聞き終えた氷群は、この派出所から工業地帯まで距離があると判断し、外に止めていた専用のオートバイに乗って間髪入れずに出発していった。

 杉彦を置き去りにして。

「ぅえ!?ちょちょちょちょちょっと!!!」

 あわてた杉彦は体が勝手に動くままに先ほど冴子が巡回で使っていた自転車に乗り込み、これまた凄まじい勢いで氷群を追いかけていってしまった。

 あまりに一連の流れが速すぎて、すっかり乗り遅れてしまった婦人警官の二人。

「えっ、あ!ちょ、ちょっと待ちなさいあなた!!私のイケメンホイホイ号に勝手に乗っていかないでよ!!逮捕するわよ!!」

 怒り出す冴子。

「せ、先輩。自転車に名前つけてたんですか?」

「そうよ!?悪い!?」

「い、いえ、いいんですけど、イケメンホイホイ号て……」

「とにかく追うわよ!!イケメンホイホイパトカーの手配!!」

「パトカーにもか……」

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