表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死に戻り令嬢は自由のために剣を取るが、魔王になるはずの男が過保護  作者: ru


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/5

5.


「始め!」


 父上の声。彼は綺麗に木剣を構えた。

 まるでお手本のようだ。教官の動きに似ている気もした。

 家庭教師をつけてもらっていたのだろうな。


「ハッ」


 気合いを入れて斬り込んでくる。流れるような剣筋は、美しく鋭い。


 これは、油断できない――


 私はタイミングを合わせてそれを弾く。かん、と、軽い音がした。続けて打撃が来るかと構えたが、彼はそれだけで体勢を崩した。


「ぐっ」


 そんなに強く打っていないと思うけど……

 見ていると、彼は倒れそうになったのを堪えて、2.3歩後ろに下がり、体勢を立て直した。


 再び正眼に構える。隙のない、綺麗な姿勢。

 さっきのはたまたまだろう。私も改めて構えた。


 しばし睨み合う。


 堂々としていて、大人と対峙しているように感じた。でも、なんだか肩肘が張っていて、落ち着きがないように見える。

 型だけは知っているが、身体がついていかないような……なんだかちぐはぐだ。


 注意深く様子を見ていると、彼は膠着状態に痺れを切らしたのか、再度飛び込んできた。


 今度は受けずに避けた。


 右、左。ぶうん、ぶうん、と、風の音。


 型通りの剣だ。でも、まっすぐで真面目な剣だった。


「くそ、」


 一旦引いて間合いをとった彼は、はあ、はあ、と、息を荒くしている。……まさか、疲れたのだろうか、この程度で?


 だんだん、剣筋が乱れてくる。

 剣に振り回されるように、さらに単調で大きな動きになってきた。


 ──もういいか。


 隙を見つけて、私は彼の剣を下から強くはじいた。


 かん、と、軽い音。


「……っ!」


 彼は、剣は手放さなかったが、振り回されて身体を大きく反らせた。

 私はそこへ素早く踏み込み、木剣を喉元へぴたりと添える。


「私の勝ちだ」


 彼は汗をにじませながら、悔しそうに歯を食いしばった。


「~~ッ! 何故、お前! ふざけるな! もう一度だ!」


 根性はあるようだ。

 私は剣を構えなおす。


「いいよ、何度でもやってやる」


 +


「いい加減にしろよ、私の勝ちだろ」


「負けていない! 俺が……負けるわけがない!」


 何度やったって同じことだ。

 体力が無さすぎる。

 知識はあるようだが、まったく身体を使いこなせていないのだ。


 疲労に倒れ起き上がれない彼を、私は見下ろす。

 彼は悔しそうに歯軋りをして、金色の目をぎらぎらと光らせて上目遣いで私を見ている。


 どう見ても、私の完勝であった。


 ……やった、やった!!


 私は腹の底から湧き上がる喜びを感じていた。


 やってやった!! あの時は何もできなかった私が、今はどうだ! あの男より強い!


 この様子なら、今後どんなに彼が大きくなろうとも、殺されないで済むんじゃないだろうか!


 ずっと、この調子で、彼より強ければ!!



 月明かりの魔法陣を思い出す。あの時は逆だった。私が跪き、彼を見上げていた。


 今だったらどうなる?


 振り下ろされた剣を颯爽と弾いてこう言うのだ。「ふっふっふ、私を倒せるかな?」


 おお、なかなか格好良い! 



「俺は負けていない! もう一度だ!」


 彼はそう叫ぶが、膝が震えている。もう力が入らないのだろう。


「じゃあ、大人しくちゃんと訓練してから、また勝負しようよ」


「……俺は、俺は……」


 苦しそうな顔で下を向いた彼に、父上が優しく声を掛けた。


「急がなくても、正しく訓練すれば君なら必ず騎士になれる。真っ直ぐで、よい剣だった」


「……だが、負けた。俺はいっときも早く、王宮騎士団に入らねばならんのに」


「入団試験は十五からだ。あと五年もある。十分間に合うよ」


「そ、それでは……っ」


 ぎりぎりと歯を食いしばる音にまじって、遅い、と、聞こえた気がした。


 その様子を見た父は目を光らせ、面白そうににやっと笑った。この少年が気に入ったのだろう。


「よし、私が君を育てよう。私の……勇者の愛弟子であれば、騎士団に出入りするくらいは出来るだろう」


「そ、それは」


 シュタイナーは顔を上げた。目元が濡れている。泣いていたのか?


「まあ、まずは、」


 父上は苦笑して、私の手を引いた。


「リーゼくらいには、強くならなければなあ」


「えっ」


 急に引き合いに出されて驚いた。シュタイナーも驚いた顔で私を見ていた。

 泥だらけの、涙に濡れた顔は、なんだか捨てられた子犬のようで、私はつい、かわいそうに思ってしまった。


「私も騎士を目指す身だ。よろしく」


 そう言って手を差し出すと、シュタイナーはびくっとして少し身を引いた。


 怖がってるのかな? 捨て犬に警戒心を解いてもらおうと、私は微笑んでみせた。


「君とは、ええと、良いライバルになれそうだ」


 まあ、宿敵であるから、嘘は言ってないし。


 シュタイナーはおずおずと手を握り返す。

 その、か弱さが妙に可愛らしく思えた。


 ややあって、私を見つめていたシュタイナーの喉の奥から、かすかに「うん」という音が聞こえた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ